レポート07 / 2016.05.31
本って儲かるの?

イメージ

文章を書く人であれば、誰もが憧れる“夢の印税生活”。たくさんの本に囲まれた書斎で先生と呼ばれながらの執筆、取材旅行に豪華な文壇パーティー、そして黙っていても振り込まれる印税!いったいどのくらい本が売れたら、こんな夢の生活を送ることができるのかな?私も1発当てて、優雅な印税生活を始めるぞ!

まずは印税のことを調べてみる。

出版社や著者によって違うけど、書籍の印税は10%が一般的らしい。定価1,000円の本なら1万部で100万円が入るってことね。10万部で1,000万円、100万部で1億円!!ここまで行けば「夢の印税生活」ができそう。ちなみに直木賞受賞の『火花』は、定価1,296円で発行250万部。印税が10%だとすると、なんと3億2,400万円!!さらに13万ダウンロードされた電子書籍、原稿料、出演する番組やイベントのギャラ、おまけに「映画化しませんか?」なんて言われた日には……ヤバイ!こんなことしている場合じゃない!私も早く書かなきゃ!

イメージ

よし、まずは落ち着いて、印税について調べておかなきゃ。
資料によると、昔は発行した部数を確認するために、著者がハンコを押した紙「検印紙」ってやつを書籍のラストページ(いわゆる奥付ね)に貼って、その検印紙の数だけ支払いが行われていたそう。そういえば、古書を買ったら奥付にハンコ押してあったの見た記憶あるなぁ。「前の持ち主が押したんだ、なんて几帳面な」と思ってた。著者にバレないように、出版社が勝手にたくさん刷って儲けようとするのを防ぐ意味もあったみたい。1970年頃には書店が増えて発行部数も大幅にUP。著者もいちいち全部にハンコ押せなくなったんで廃止されて、代わりに「検印省略」「検印廃止」と印刷するようになった…と。続いて、印税の支払いにはいくつかの方式があるみたい。

一般的なのは、発行した部数に応じて支払われる「発行部数方式」ってやつ。
よく本の帯とか広告に“100万部突破!”なんて書いてあるけど、これって売れた部数じゃなくて“発行された部数”なんだって。極端な話、5,000部発行して1冊も売れない!って最悪の状態でも、5,000冊分の印税がもらえるってことなので、これはオイシイ!「●●部以上出さないと書かないよ!」なんて、わがまま言う大物作家さんもいるらしいけど、それも頷ける。

最近増えてきているのが、実際に売れた分を支払ってもらえる「実売方式」。
書店流通のナゾで書かれてある通り、本は返品ができちゃう商品。さっきの方式と違って、5,000冊が書店に出回って3,000冊返品されたら、印税は2,000冊分になるってこと。ちょっと損な気がするけど……よく考えたら出版社のリスクが下がるワケだから、新人作家さんもデビューしやすくなるってことよね。

初版のときは原稿料だけで、増刷分から印税が支払われるケースとか、原稿を買い取ってしまって印税なし、なんてケースもあるみたい。ちなみに音楽の印税は本の世界と違って、作詞作曲なんかの制作者に「著作権印税」、事務所のようにレコードとかCD自体を制作する人たちには「原盤印税」、歌い手には「歌唱印税」が支払われます。歌唱印税は1~3%なので、なんだか意外なほど低くてちょっとかわいそう。

売れた本のランキングをチェック。

印税については大体わかったから、実際に本がどれくらい売れてるのか見ておこう。

イメージ
1位 推定売上部数223万部『火花』又吉直樹

  • イメージ

    イメージ

  • 2位 推定売上部数80万部『妖怪ウォッチ2 元祖/本家/真打オフィシャル完全攻略ガイド』企画編集:利田浩 一/構成:山田雅巳/協力:レベルファイブ
    3位 推定売上部数64万部『フランス人は10着しか服を持たない』ジェニファー・L・スコット/訳:神崎朗子

  • イメージ

    イメージ

  • 4位 推定売上部数50万部『家族という病』下重暁子
    5位 推定売上部数49万部『聞くだけで自律神経が整うCDブック』小林弘幸

参考までに6位以下はこんな感じ。私は5位以内に入る予定ですが。

6位『置かれた場所で咲きなさい』渡辺和子
推定売上部数40万部

7位『一〇三歳になってわかったこと 人生は一人でも面白い』篠田桃紅
推定売上部数40万部

8位『世界一かんたん定番年賀状2015』年賀状素材集編集部
推定売上部数38万部

9位『嫌われる勇気 自己啓発の源流「アドラー」の教え』岸見一郎、古賀史健
推定売上部数34万部

10位『つけるだけ 歩くだけでやせる魔法のパッド 足指パッドつき』監修:大山良徳
推定売上部数32万部

※2015年ランキング(オリコン調べ/集計期間:2014/12/1付~2015/11/30付)

理想と現実...。

2015年に100万部を超えているのは『火花』1冊だけなんだね。ここ10年で5,000件くらい書店が閉店しているらしいから、本をたくさん売るのは難しい時代なんだろうねぇ。このランキングに入った書籍なんてスーパーヒット作。

そんな時代でも、原稿を書きあげるのは相変わらず大変な作業なワケで。アイデアを捻り出し、編集者と構成を打ち合わせたり、取材したり。それからやっと書き始めて、何度も練り直して、追加で調べたり、取材したり。校正してもらって印刷して製本……。ようやく1冊の本が完成。ふーーっ(汗)。かなり順調に進んだとしても、1年は余裕でかかるんじゃないだろうか。

最初に1万部で印税100万円って話をしたけど、そんなもんじゃ「夢の印税生活」には程遠い。でも1万部発行する本って、ほんの一握りで全体の上位5%らしいから、なかなか売れてる本ってことになる。有名作家さんでも、初版は数千部から様子を見たりするみたいだし。

うーむ。ということは、とても大変な作業を1年がかりで終えて、なんとか1万部売れたとしても100万円。月収にすると約8万3000円!?いやいやムリムリ!これじゃ「地獄の印税生活」!バイトした方が早いよ~。

……この計算で、完全に心が折れてしまった。さらに追い討ちをかけるようなことをいうと、まず素人が出版社に認められて企画出版されること自体が難しそう。たくさん原稿を書き、ようやく新人賞を獲って、実績を積んでやっとデビュー!というのが作家への道のセオリー。お金の計算ばっかりしてたけど、作家さんってホントに凄い人たちなんだなぁ。

なぜ本を書くんだろう。

なぜリスク高くて割も合わないのに本を書くかというと、きっと私のようにお金だけが目当てじゃないからかな。もちろん、プロとしてお金も大切な要素だと思うけど、そもそも「伝えたい!」「表現したい!」って気持ちで、好きだから書くんだよね。プロ野球選手なんかと同じで、好きなことを職業にするのってとても大変だ~。お金目当てのヨコシマな考えではダメ(私です)。

イメージ
僕たちは世界を変えることができない(左:自費出版バージョン/右:企画出版バージョン)

それでも本を出したいって思うなら、自費出版するって方法があるよね。出版社がノッてこなくたって自分でお金を出せばいい。売るためにあーしろこーしろってゴチャゴチャ言われず、自分のやりたいことができそう。その証拠に、夏目漱石のように自費出版した文豪もわりといる。ちなみに自費出版の場合は印税ではなくて、売れた分だけ自分のもの。定価の半分くらいが流通経費なんかに必要だけど、残り半分が収入(ただし、出版社によって違うから注意)。内容だって、文章が少々つたなくても表現として考えれば、正解なんてホントはないんじゃないかな。もちろん、効果的に伝えるために技術は大切だし内容にもよるけど、自分の自由で自分の責任。

例えば『僕たちは世界を変えることができない』という本。大学生だった著者がサークル仲間を巻き込んで、自分たちで書店に「本を置いてください」と回ったそう。もちろん本が売れるに越したことはないけど、想いを伝えたい、読んで欲しい、広めたいって気持ちのほうが強かった。その結果、自費出版だけど評判になり、なんと向井理さん主演で映画化!さらに出版社から話があり、企画出版したという、なんてアメリカンドリーム!

そうか、販売が目的じゃなくてもいいワケだ。売れる=良いものってのも違うよね。そういえば、企業や経営者が経験や知識をまとめて出版するケースが増えてるらしい。ビジネス本を名刺代わりの宣伝に使うってワケね。お医者さんや料理教室の先生なら「実力ある先生なんだ」って思われて信頼性UPしそう。もっと個人的に、趣味の写真を作品集としてまとめる人、ブログをエッセイにして友達に配る人、両親の人生を本にまとめてプレゼントする、なんて粋な人もいるみたい。

もっというと、本をつくるのが夢ってだけでいいよね。自分の本ってなんだか誇らしいし、本屋さんに置いてあったりしたらテンション上がる!その上で、世間のみなさんが自分の作品を気に入ってくれたら売れるかもしれないし、別に販売しなくてもいい。一言で本といっても、使い方や目的はいろいろあるんだなぁ。私も考え方を改めて、宝クジで1発狙います。