レポート19 / 2016.11.30
本のプロフェッショナル「出版営業」編

イメージ

本に関わるプロの仕事を紹介するシリーズ第3弾。著者や出版社が素晴らしい本をつくっても、良さが書店に伝わらなければ店頭に並びません。簡単に言えば作品の魅力を書店に伝えるのが出版営業。本と書店が巡り会い、読者に本を届けるための大事な仕事です。今回は書店と出版社の営業を経て、出版販促コンサルタント兼出版社の営業代行として活動中の山本豊氏に取材。なかなか知る機会のない、この仕事の魅力に迫ります。

出版営業って、なに?

この仕事を簡単に言うと?
「本を売るためにできることをやる」仕事です。ひとえに出版営業といえば、多岐に渡った仕事になりますが、1番多い要望は「本を書店に陳列してほしい」ということですね。陳列の方法や場所が売れ行きを左右しますので、面出しやワゴン展開など、良い場所に置かせていただくことを目的に営業をしていきます。作品によっては企画の段階から入り、販促を担当することもありますね。タイトルや帯、表紙のデザインなどは売るためにとても重要な要素ですので、書店へヒアリングすることもあります。このあたりは出版社で営業をしていた時から、基本的に同じ仕事といえますね。
仕事の流れは?
おつき合いのある出版社様や著者様、または当社のHPから依頼をいただきます。まずゲラを拝見し、販促を希望する書店などの要望をヒアリングして、本の注文書を受け取って交渉にいきます。

どんな仕事?

1日のスケジュールは?
朝、ゲラを拝見したり、問い合わせメールへの返信などの事務作業をします。企画を考えるのもこの時間ですね。私の場合、13時頃から書店に伺います。混み合う時間帯、12~13時や17~19時頃は避けるようにしていますね。最近は、夜遅くまで営業する書店が増えたので、シフト制で14時から勤務という店員さんもいらっしゃったり、書店によっては時間指定をいただくこともあります。日によりますが、多い日で1日に10店舗、少ない時で3~5店舗ぐらい回りますね。たまに地方へ出張することもあって、その場合はもっとタイトなスケジュールになります。
どんなことをするの?
置いていただきたい本を書店の担当者さんにご紹介します。1度にご案内する本は多くて3種類くらいですね。1冊の本にかける時間は1~2分ほどで、できるだけ簡潔に説明します。店員さんもお忙しいですから、点数があまりにも多いと通常業務ができなくなったり、他の出版社の営業の方を待たせてしまうことになりますので。どの店舗でもどの地域でも、お話する内容は基本的に同じですが、仲が良い店員さんだと15分くらいお話してくれることもあります。逆に仕事が忙しくて本当に30秒だけ、という場合も(笑)。本を紹介した後は店内を見させていただくのが大事。大きな書店だと、今、何が売れているのか?どんな本が平積みされているか?ワゴン陳列は何をしているのか?フェアは何だろう?と…。日頃からできるだけアンテナを立ててチェックしています。

プロの技を知りたい!

イメージ
常に持ち歩くPOP台

こだわりを教えて
強引な営業はしない、ということです。実は昔、所属していた会社の方針で少し強引な営業をした時期がありました。たとえば、書店に本があるのに、さらにその上に本を積むというような…。返品のことはあまり考えず、受注ありきでした。もちろん、営業として自分の会社のためにしたことですが、書店のためにならないのではないか…?という疑問を感じていたんです。たしかに強引に行けば、今でも受注はとれるとは思います。でも、それは書店のためにもお客様のためにもならないので、やりません。営業の決め台詞は特にないのですが…(笑)。よく使わせていただくのは「試してみてくださいね」でしょうか。
どんな道具を使うの?
注文用チラシ、デジカメ、POPとPOP台。両面テープと色ペンも持ち歩いています。POP台は書店からいただく場合もありますが、常に持っていればすぐに設置できますし、その方が忙しい店員さんの負担になりませんから。

プロの視点

実際に『メタボ業務がスマートに!マネジメントをシンプルに変える』の同行営業を依頼して、「あおい書店」へ訪問してみました。

イメージ
『メタボ業務がスマートに!マネジメントをシンプルに変える』(写真左)/あおい書店(写真右)

研究員
この本はどんな感じで営業するんでしょうか?
山本さん
まず、9人の各専門家による共著、というのがひとつのポイントになりますね。タイトルにも「マネジメントをシンプルに変える」とあるように、対話形式でわかりやすいこともポイントです。昔のやり方から、現状や改善策まで書かれている「経理のIT化」という内容をご説明して、あとは店員さんからのご質問にお答えすることになると思います。
研究員
営業先にあおい書店を選んだ理由は何ですか?
山本さん
どのジャンルにも対応していただける書店さんであり、夕方からはビジネスマンが多いのが大きな理由ですね。また、ワンフロアでここまで売り場面積が広い書店はなかなかないと思います。探しやすい…といいますか、新刊買いだけでなく、目的買いができるのも理由のひとつです。

イメージ

あおい書店にて

山本さん

新刊のご紹介で伺いました。こちらの本は来週月曜日に発売するのですが、経理やITのスペシャリスト9人が執筆されていまして。ご覧いただければわかる通り、対話形式で進んでいきます。

店員さん

いくらの本なの?

山本さん

こちらは1,600円になります。

店員さん

う~ん、このページ数だと1,600円はちょっと高いかなぁ。

山本さん

ただ、専門家9人が書かれているためポイントがわかりやすく、お得感はあると思いますよ!

店員さん

まぁ、良い本は値段なんて関係ないからね。良いものは良いし…。

山本さん

経理を扱った本で12月で決算を迎える会社にピッタリですし、若い方からベテランの方々まで全世代に対応した本だと思いますので、ぜひ。

店員さん

うん、いいですよ!

山本さん

ありがとうございます。何冊がよろしいでしょうか?

店員さん

そうだね…。10冊かな。

山本さん

ありがとうございます。では10冊手配します。置いていただけるのは、経理のコーナーですか?

店員さん

んー、管理関係のところになると思いますよ。

山本さん

あと、POPをお持ちします。搬入される頃合いに再度伺わせていただきます。最近、経理関係の本は多いのでしょうか?

店員さん

多いですね。ただ、経理というより…来年度に向けて決算の本が多いですかね。ちょっと競争相手が多いかもしれません。まぁ、ピークの時期は来年あけて早々になると思いますが。

山本さん

では、年末に向けてどうぞよろしくお願いいたします。

スムーズに受注。もちろんお断りされる場合もあるそうですが、決して無理強いをせず、長いおつき合いのなかでお互いの信頼関係が築かれている様子が感じられました。

イメージ
発売後、実際に陳列された本とPOP。

この仕事ならではのこと。

嬉しいこと、辛いことは?
やっぱり「重版につながる」のが嬉しいですね。近年は「とりあえず置いてみようか」というチャレンジが少なくなったように感じます。書店も、データに基づいて陳列する売り上げ至上主義になりつつあるし、取次店も同じくデータを使ってプッシュをしているんです。もちろん売り上げがあがるのは良いんですけど、それだとどこも同じような書店になってしまいますし、返品率は結局40%台なので「それで良いのだろうか?」と考えるところがあります。書店が「ちょっとこれを仕掛けてみようか」と自主的に積んでみたり、出版社の営業の提案で試してみれば、もっと新たな発見があると思うんですが…そういう機会が少なくなりましたね。
辛いのは、陳列していただけなかった時ですね。事前に作品を読みこんで「あ、これは絶対大丈夫だな」って確信してチラシを持って行ったのに、予想と全く違う答えが返ってくると…その大きなギャップが辛いですね(笑)。
職業病ってある?
本をたくさん買ってしまいます。タイトルで買ってしまったり、ついデザインに興味をひかれてジャケ買いしたり。店員さんに薦められて買ってしまう場合もありますね(笑)。もちろん店員さんも実際に読んだ上でのことですし、間違いはないですよ。あと、オフの日にでも、書店の陳列やワゴンをチェックします。「なぜ、このフェアをしているのか?」などついつい考えてしまいます。

イメージ

出版営業になるには?

仕事に就いたきっかけは?
本が好きだったので書店に就職しました。ただ、ずっと外商で営業がしたくて…店頭勤務の希望を出さなかったんですよ。それで、運良く営業に配属になり、検定教科書の担当に抜擢されました。実際やってみたら面白くて。その書店に2年3カ月ほど勤めた後、出版社に転職をしたんです。恥ずかしい話、当時は出版社に営業部門があるって知らなかったんです(笑)。編集のイメージがすごく強くて。
どんな人が向いている?
物怖じせず「当たって砕けろ」の精神がある人が良いんじゃないですかね。メンタルは自然と鍛えられますから(笑)。あ、もちろん本好きが大前提ですよ(笑)。

「営業」という言葉を聞くとグイグイ押すイメージがありますが、山本さんは全く逆。終始、物腰は柔らかく、タイトルや帯のコツ、目立つ平積みの場所、最近のトレンドなど、なんでも気さくに教えてくださいました。著者も出版社も書店も、やはり本が好きな人間同士。その人と人とをつなぐ出版営業という仕事は、やはり人柄が命なのかもしれません。

山本豊(やまもとゆたか)プロフィール
出版SPプラス代表。大学卒業後、営業マンとして書店・出版社の数社を渡り歩く。出版営業25年の実体験をベースに、個人営業とチーム営業の両面から書店・取次店へアプローチする方法を熟知。また、編集の経験もあり、出版業界の動向、出版流通、商品企画から販売まで幅広い知識をもつ。1990年代から現在にいたるまでの書店業界の変遷を、現場を通して学んできたスペシャリスト。現在は出版販促コンサルタントとして活動中。
http://booksales.jp/