レポート35 / 2017.08.07
著作権のナゾ

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作品をつくるとき、立ちはだかるのが著作権のカベ。守らなければいけないのは知っていても、具体的にどこまでOKか混乱している方も多いのでは?ということで今回は、「本をつくるなら」と仮定して、著作権のナゾについて説明してみることにしました。

文章の著作権

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全部自分で考えるのは面倒。他人の文章を使ってもいい?
言うまでもなく文章は「著作物」。文字として表現された時点で著作権が発生します。有名作家の作品はもちろん、WEB上に公開されている個人ブログの文章も許可なしに使うことはできません。
ただし、例外があります。

例外①引用する
ルールを守れば、著者や出版社の許可なしに他人の文章を引用することができます。
・公表された作品である
・出典をちゃんと書く
・あくまで主役はオリジナルの文章
・引用する必然性がある
・一言一句そのまま借りてくる
・正当な範囲内に限る(数十ページにわたって掲載するのはNG)

ようは「借りる理由がちゃんとあって、もともと誰が書いたかわかればOK」ということ。決して高いハードルではありません。もともと著作権は文化を広めるために作られたもの。作者同士、影響を受けた作品を紹介しあうのは、決して悪いことではないという考えが背景にあるんですね。なんと懐の広い文化なんでしょうか!

例外②著者の死後50年経過した原稿
国によって違いますが、日本の場合、本の著作権は作者の死後50年で消滅します。著作権切れの作品をまとめた電子図書館「青空文庫」は、なんと入力者・校正者ともにボランティアで成り立っています。昔の文献はひとりでにデータ化されるわけではありません。くれぐれも大事に使わせてもらいましょう。
著作権が切れているのでコピー利用は自由ですが、微妙に表現を変えたりしないように注意。著作権法第20条の「同一性保持権」、第27条の「翻案権、翻訳権等」にふれて、死後50年云々は関係なく違法になることがあります。

題名、登場人物はOK
意外に思うかもしれませんが、他人の書いた小説の題名や登場人物は使用できます。たとえば『64』の主人公・三上義信の名前をそっくりそのまま使って、自分の小説に登場させても問題ありません。ただし紛らわしすぎるのは話が別。ヒット作『学年ビリのギャルが1年で偏差値を40上げて慶應大学に現役合格した話』を、「偏差値を41上げて」に一部変更するといった場合、間違って買わせようとしている!と問題視される可能性大です。

画像/イラスト

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有名作品のキャラをモデルにした、自作のイラストは使えるの?
限りなく黒に近いグレー。いまも議論が続く微妙な問題なので、許可を取るのが無難です。

盗作/オマージュ/パロディ
現行の法律では、他人の作品を利用する点では盗作もオマージュもパロディも同じ。「盗作」は出典を隠してこそこそ使う、「オマージュ」は愛情たっぷりに出典を匂わせる、といった違いはあるものの、愛情が判断基準というのはいかにも曖昧です。
もう少しフラットな呼び方に「パロディ」という言葉があります。実際、フランスでは「パロディ規定」というものをつくり、「ユーモアがあって、ある作品を真似ているとわかればOK」と定めています。風刺は×なので、どこからが風刺かという問題は出てきますけれども…。OKの場合もある、というのは大きな違いですよね。

二次創作をめぐる問題
日本でよく問題になるのがコミックマーケット。有名作品をモデルに、キャラ名や設定だけを借用した非公式の作品が多く売られています。正統派のアレンジから、えげつない性描写まで有象無象。基本的には親告罪なので、著作権者がそれを「広めてもらって嬉しい」と感じるか、「無断使用断じて許すまじ」となるかは気分次第ということになりますが…本人が全部チェックできるわけもなく。ほぼ放任されているのが現状です。いまや大イベントとなったコミックマーケットが漫画・アニメ文化を育てているのは確か。児童ポルノの問題同様、どうやって整備するかは課題ですね。

画像提供サイトの注意点
著作権者から許可が下りなかったり、そもそも自分で描けない人は、画像を提供するサイトを頼ることになるでしょう。その場合は法律よりもまず、各サイトの利用規約が重要。事前に細かくチェックする必要があります。
特に見ておきたいのが商用利用・画像編集の可否。あとは掲載媒体のジャンルの制限規定も見ておいたほうがいいです。たとえば「ギャンブル関連本には使わないで!」と書かれているのに、カジノ旅行記に載せてしまったということがないように。
勘違いしやすいところで、著作権フリー/ロイヤリティフリーの違いにも注意。後者の場合、手に入るのは「画像の使用権」であり、著作権を手に入れたわけではありません。たとえ購入したからといって、友だちのあいだで使い回したりするのはやめましょう。

写真/映像

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旅先でたまたま撮ったプライベートの有名人とのツーショット。撮ったのは自分の友だちだから著作権は問題ないはずだけど、本に載せてもいい?
肖像権侵害に当たります。本人、事務所にしっかり許可を取りましょう。

写真・映像は「肖像権」に注意
この場合、問題になるのは著作権ではなく「肖像権」。人には自分の姿を勝手に撮影されたり、公表されない権利があります。恐らく今回のようなケースだと、撮影許可を取っても、本に載せる許可まではとっていないはず。商用の場合は必ず許可を取りましょう。
また有名人の場合は特に、所属事務所や出版社が「パブリシティ権」を訴えるケースが考えられます。要するにうちの商品で勝手に商売するな!という権利。本人だけでなく、しっかり事務所にも話を通しておきましょう。

テレビへの写り込みについて
テレビで真夏日などを報じるとき、なんとなく人を撮影している場合がありますよね。明らかな商用利用ですが、問題があるのかどうか。
基本的に不特定多数はOKです。渋谷のスクランブル交差点を歩いているところを撮られて、「著しく傷ついた!」という人はまずいないはず。もしそんな訴えが通れば、ドラマや映画は一切つくれなくなってしまいます。ただし繁華街の路地裏など、ある程度寄って撮ると微妙なケースも出てくるので、まずそうなものが写ったらモザイクやぼかし処理をして自主規制しましょう。
芸術性のある写真など、意図して撮った人物写真の商用利用は、基本的に本人の許可が必要です。無許可なら誰か分からない構図で撮ること。メジャーなフォトコンテスト入選作を見てもらえれば、面識がない人を隠し撮りしたような写真はほとんどないのが分かると思います。

音楽

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つくった本の告知動画に好きなアーティストの曲をかけたい。
自分で購入した曲なら大丈夫?
きわめて危険。JASRACで確認しましょう。

「著作権使用料」が必要
もうお分かりかと思いますが、楽曲を購入しても著作権は移動しません。商用利用の場合は「著作権使用料」が必要です。
音楽は現物がないもの。インターネットの登場によって、本とは比べものにならないほど気軽に、著作権侵害を受けてきて、ほんの数年前までは発売されたばかりの楽曲がまるまる動画サイトにアップされることも珍しくありませんでした。近年では取り締まりを一層強化。その大半は一般社団法人日本音楽著作権協会(JASRAC)が管理しています。ニュースなどでよく聞く名前ですよね。

音楽特有のややこしさ
音楽の場合、作詞・作曲・編曲がバラバラな上、「個人or団体」「国内or海外」「録音盤orライブ盤」「オリジナル楽曲orカバー楽曲」と、権利の所在がとにかくややこしいです。やはり、まずはJASRACのホームページで検索してみるのがいいでしょう。こういった複雑な権利関係を管理している分、どうしても権利が集中するんですね。
中には死後50年を待たずに著作権が放棄される場合も。「PD(パブリックドメイン)」と表示されていれば、安心して使うことができます。

歌詞の引用
もうひとつ音楽で注意したいのが歌詞。ボブ・ディランがノーベル賞を取ったように、作家とは違った感性で書かれる文章は魅力的で、ついつい引用したくなってしまいますよね。そこにはもちろん著作権があるわけですが、歌詞の場合は引用にも申請が必要。権利会社に届け出をした上で、指定の料金を支払う必要があります(無償のケースも)。ちなみに題名は大丈夫です。森山直太朗の「さくら」という曲がありますが、街で「あの桜きれいだね」と言ったとたん怖い人が飛んでくる、なんてことはありません。

アイデア/デザイン

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もう何が何だか…。もしかして、アイデアも盗んだらダメなの?
アイデアは「創作物」ではないので、著作権はありません。

アイデアを盗むのはOK
過去にタウンページのキャラクターが、昔の漫画のキャラクターの模倣だと訴えられましたが、「電話帳を擬人化する」というアイデアに著作権侵害はないと棄却されています(「タウンページ・キャラクター事件」東京地判平11.12.21、東京高判平12.5.30 控訴棄却)。一方で、服の柄といった細部にわたって似ていた場合には和解金を払ったケースもあり、それなりの節操が求められます。
「猫型ロボットのキャラクター」までは問題なくても、ボディカラーが青で(まだOK)、お腹にポケットがついていて(ギリギリ?)、どこにでも移動できるドアを取り出して(おそらくアウト!)と違法に近づいていくでしょう。

グラフィックデザインは?
アイデアが命のグラフィックデザイン。比較的新しいところでは、東京オリンピックのロゴ問題が有名ですね。有名デザイナーのデザインが、ベルギーの劇場のロゴに似ていると話題になりました。確かにぱっと見かなり似て見えますが、下地のデザインは「正方形に円を重ねる」という素朴なアイデア。これだけで、かなり近い印象になるのも事実なんです。デザインは機能性も重視しますから、どうやったらきれいに見えるかというセオリーも当然あるわけで、ぱっと見の印象で安易に「パクリだ!」というのはちょっと乱暴かもしれません。

WEBデザインとレイアウト
では素人がフリー素材を使って、大手企業とまったく同じレイアウトのWEBサイトをつくったらどうなるでしょう。平成24年1月12日の大阪裁判所判決では、レイアウトの著作性が否定しています。レイアウトは素材を組み合わせた「工夫」であって、素材を「創造」したわけではない。つまりアイデアの範囲内だと判断されたんですね。
もちろん、できあがったサイトにはどちらも著作権が存在します。スクリーンショットを撮って転載する場合は、ちゃんと許可を取りましょう。よく、サイトの一番下に©マークがついていますよね?その後に続いているのが著作権者の名前です。

その他の著作権(ジェネリック/リプロダクト)

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本とは関係ありませんが、最後に著作権の興味深い動向をご紹介しましょう。
著作権は、創作物のなかでも文章内容や音の配列といった「中身」の部分に重きを置いたもの。フィギュアや博多人形といった観賞用の製品を除き、立体物のカタチや機能性については「意匠権」によって守られるのが通例です。
ところが、この前提を覆す画期的な事件が起きました。

「TRIPP TRAPP事件」(知財高裁平27.4.14)では、椅子に創作性を認め、著作権を適用しました。つまり「人は見た目でも椅子を選んでいる」と判定されたワケで、かなり画期的な事件だったのです。こうなると問題になるのが、意匠権が切れたデザイナーの作品を復刻する「ジェネリック家具」。意匠権は20年、著作権は50年と権利の消滅時期が大きく違うので、もし家具が著作権の対象になれば商品化が大幅に遅れてしまうんですね。
さらに、もし「ローズウッドならではの色味が特徴」という風に素材ありきで著作性が認められたら、安価な木で代用して低コストで売り出すこともできなくなるんです。

まとめ

2015年、TPP合意に伴って、加盟国の要請で死後の著作権消滅期間が50年から70年に延長されるのでは?と騒ぎになりました。広めることと、保護すること。ひと言で片づく問題ではありませんが、作者の死んだ後について延々と政治問題にするのは変な気がします。どうなるにしろ、つくり手の権利が尊重され、新しい世代が育つ仕組みができていくといいですね。