レポート41 / 2017.11.06
本のプロフェッショナル「編集者(出版エージェント)」編

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本の編集者、と聞いてどんなイメージが涌きますか?大きな自社ビルのデスク書類を山積みにして、有名作家やライター、印刷会社など各所と連絡を取る。そんなところでしょうか。
一方で、まったく別のタイプの編集者がいます。どこかから新たな著者を発掘してきて、出版社との橋渡しをする。いわゆる「出版エージェント」と呼ばれる人たち。近年ひそかに増えているようですが、なぜこういった職業が必要なんでしょうか?
今回は、大手出版社で編集長としての勤務経験ももつ、城村典子さんにお話を伺いました。

編集者の仕事って?

この仕事を簡単に言うと?
本来の編集者の役割は、著者の「奥にある才能」を見出すことだと思います。私は出版社にいたころからそう思っていたんですが、実際はなかなかできなかったんです。日々の業務と平行してまだ見ぬ才能を発掘するのは限界がある。能力的にではなく、時間的に難しいんです。最近では1タイトルあたりの本の売上も落ちていて、1人の編集者のノルマも増えていますから、なおさらですね。
出版業界全体が、もっと新しい著者を探す方向に力を入れられるようになってほしい。出版エージェントは、その役割を担える仕事だと思っています。
仕事の流れは?
まずは本が書けそうな著者を探します。会社を立ち上げたころは、とにかく色んな場所に顔を出して、紹介してもらっていました。それからセミナーやホームページでコツコツと発信していった結果、おかげさまでお話をいただくことのほうが増えています。
著者と出会ったら、本をつくるためのディスカッションを重ねていきます。大事なのは「企画書をつくるのは著者の仕事」と捉えてもらうこと。そうしないと自立した著者にならないので、私はあくまでコーチングに徹します。みなさん企画書なんてつくったことがない方ばかり。動画教材をつくったり、日々より早く理解してもらえるための工夫を重ねているところです。
無事企画書ができあがったら、出版社に持ち込みます。採用が決まったらそこで私の役割が終わることもありますし、「不安だから一緒につくって!」とお願いされることもあります。

編集者になるには?

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最近の出版実績。女性向けのやわらかい本からビジネス書まで、どんなジャンルも苦にしない。

仕事に就いたきっかけは?
私はもともと編集も好きですが、さらに世の中に発信していくことに興味があったんです。小さいときから生意気で、「世の中ってなんでこうなの?」と問題提起をするタイプでした。本を読んだり、文章を書いたりするのは好きでしたが、誰よりもと言うほどではありません。縁があってずっと出版業界にいますが、デザインのスキルがあったりしたら、また違った方向に進んでいたのかもしれません。

今、青山学院大学で出版ジャーナリズムについて教えているので学生にも話すんですが、出版社に入るだけが道ではないと思います。会社によってはつくる本が偏っていたりするし、そもそもがかなり狭き門ですからね。編集プロダクションという手もある。ライティングのアルバイトしてみる方法もある。視野を広くもつといいと思います。

20代に出産で一時編集者を休みましたが、子どもが2歳のときにふとタウン誌を手にして、記者募集の求人に応募しました。女性だったら、子どもが小さいのに仕事できるかな…?って不安になるのは当然ですよね。でも、そういうのもやってみるとどうにかなるものです(笑)。子どもが野球を始めたので、送り迎えをしたり、合宿にご飯をつくりに一緒に行ったりして、結局大学までつき合いましたよ。
なんでエージェントとして独立したの?
私、立ち上げが好きなんですよ。本って「概念をつくる」というか、立方体の中に0からパッケージするような仕事じゃないですか。角川で編集長をしていたときにはビジネス書のレーベルも立ち上げました。単独行動でいろいろとリサーチして、提案書を出して、と進めていきました。

数年前に独立したのは、家族が病気になったこともありましたが、今後の編集活動は幅広くやりたいという気持ちになったからです。会社に不満があったわけではないんですが、より自由に才能を世に出す仕事がしたいという考えはありましたね。
著者と出版社にあいだに入って、お互いの意見を言いやすくしています。著者には増刷できない理由や、編集者の意図とかを伝えたりします。エージェントは通訳をしているわけで、それはまさに私が出版社の編集者時代に欲しかった存在なんです。これが変な通訳だと、著者を煽って安請け合いしたり、余計にこじれるんですけど(笑)。
どんな人が向いている?
編集者ってバリエーションがある仕事なんです。私みたいな立ち上げ屋もいれば、実務が得意な人もいる。いろいろとポジションの取り方があると思うので、自分の好きなところを探して行けばいいと思います。
勉強方法は…とにかく仕事をするまでですよ(笑)。仕事をして時間制限のある中でやっていれば、類書を調べて、新聞やネットを見て、人と会って…ってやるしかないですし。ただ漫然と勉強しても頭には入らないんじゃないでしょうか。

この仕事ならではのこと。

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使う道具はシンプル。特に、消せるボールペンはもはや編集者の必携アイテム。

嬉しいことは?
アイデアが生まれる瞬間。ディスカッションしていると、一同の目が輝く瞬間があるんです。それが決まったら、あとはそれを詰めてやっていくだけなんで。
本が売れるのは良いことですが、何をもって売れたかというのは難しい。そもそもマイノリティをターゲットにしたものもありますからたとえば、最近携わったのはワイナリーを扱った本。ワイン好きが増えているとは言え、10万部20万部売れるものではそもそもないと思うんですよ。でもそれが悪い本かと言ったら違って、企画のパイに合っただけ売れるのがベストですね。そういう考えは、損益分岐点の高い大手出版社ではできない。中小の出版社の良さですね。
ベストセラーだけではなく、コンテンツを大事にしていくと、適したマーケットが見えていくと思うんです。
職業病ってある?
ずっと何か考えてますね。仕掛かっている企画についてはずーっと、1ヶ月くらいは平気で考えているんじゃないかと思います。ガーッと集中しているだけではなくて、意識の片隅に残っていて、本屋さんに言ったときにふっとアイデアが繋がったりとか。
頭に何か残っているのが嫌いというタイプもいますが、私は「宝物」を持っているような気分です。中には煩わしいと言う人もいるようで、そこが企画が好きかどうかの違いかもしれないですね。

今後の夢は?

著者の人に成功してほしいですね。著者に出版して良かったと思ってもらえれば、本を出したい人が増えて、おもしろいコンテンツが広がって、出版業界がもっと良くなる。そのために著者のリテラシーを上がる手助けをしたいんです。
音楽だと、もともと音楽が好きで音楽を知っている方が音楽家になりますよね?でも本に関しては、必ずしも著者が本のプロじゃないんです。ビジネスのプロであっても、著者としての知識は当然ない。もっと著者が情報を持って、プロのピアニストになりたいからコーチを雇うように出版エージェントを雇ってくれたら、出版文化が豊かになるんじゃないかと思いますね。

あとはいま、自分の本をつくっています。不思議なモノで、いろんな企画に携わっても自分のことは分からない、というか興味がない。だけど、人に出版を勧めている以上は自分もつくらないといけませんよね。スタッフから意見をもらったり、頑張って進めているところです。

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城村典子(じょうむらふみこ)プロフィール
書籍編集者。講談社、新風舎、角川学芸出版などの出版社に勤務し、レーベル・事業部・出版社の立ち上げなど出版業務全般を経験する。2012年に独立。14年に株式会社Jディスカヴァー、2017年にビームーブを設立する。著者への出版セミナー、出版コンサルティングなど精力的に活動し、これまでに300冊以上の作品を手がけている。