レポート43 / 2017.12.21
本のプロフェッショナル「本の倉庫」編

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世の中に溢れる商品のうちでも、本はかなり特殊な部類に入ります。紙という繊細な素材のみでできているのにもかかわらず、お客さんは直接触って読むことができ、しかも売れなかったら返品OK。在庫の管理にはさぞ気を使うんじゃないか…と心配になってしまいます。
気になったら即行動!がモットーの研究員。埼玉県三芳まで足を伸ばし、本専門に倉庫管理業務を行う株式会社ブックセンターに取材。課長の鈴木俊英さん、社長の豊川貴弘さんにお話を伺いました。

倉庫のお仕事とは?

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この仕事をひと言で言うと?

鈴木さん
本を専門に扱う倉庫業、ですね。主に「保管」「再生」という2つの業務を行っています。特に再生は返品がある本ならではの工程なので、聞き慣れない方も多いんじゃないでしょうか。
うちには6つの倉庫があって、本社にある〈第1・第2倉庫〉で再生~出荷を一括して行います。本社から少し離れた〈第3倉庫〉で新本を保管。新座の〈第4・第5倉庫〉と、ふじみ野の〈第6倉庫〉で返本を保管しています。

●保管

出荷可能な「新本」、書店から返品されてきた「返本」の保管。

●再生

本屋さんから本が返品されてきたら、天、地、小口と呼ばれる本の断面部分を研磨し、カバーや帯を新しいものに付け替える(改装)。この作業を経て「返本」は「新本」へ生まれ変わり、再出荷される。まったくの新品だけを新本というわけではないので注意。

一日のスケジュールは?

鈴木さん
午前中は当日の出荷分を各倉庫から集荷し、午後は次の日に必要な業務(各営業所への依頼、梱包・改装など)にあてます。本社には取次店からどんどん返本が運ばれてきますが、当然、すべてを置いておくわけにはいきません。午前中は返本を各倉庫に振り分けて、その帰りに当日の出荷分を積んでくる流れになります。
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  • 新本を保管する第3倉庫。3段に積まれたラックは天井まで達する。(写真左)/新座にある第4倉庫の返本群。再び書店に並ぶ日まで、静かに再出庫を待つ。(写真右)

プロの技を知りたい!

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並製本の断面部分を数冊まとめて研磨するところ。ハードカバーは外側の表紙が一回り大きいので、1冊ずつしかできない。

こだわりを教えて!

豊川社長
うちでお預かりしている本は約3万タイトル、冊数にして600万冊ほどあります。社員は50名前後なので、常に効率化していなければとても捌けません。
私が入社したころはまったくシステム化されていなくて、全部人の頭で動いていたんですよ。「あの書籍の前回の出荷日いつだった?」って何気なく聞いたら、紙ベースで調べはじめたので驚愕しました(笑)。過去の作業データも1ヶ月しか追えず、担当一人だけが知っている情報も多かったので、本当に不便でした。
そこでシステムを自社開発しました。全ての書籍に独自のコードを振ってから、バーコードをハンディで読み込む検品システムを導入。書類作成・チェック作業、過去に行った作業のデータ化…。最初は大変でしたが、全工程で格段に効率が上がりましたよ。

当時は、出版業界全体でも効率化の動きが進んでいました。たとえば本に挟んである紙のスリップ(注文票)をデータ化することで、各出版社はそれまで取次店単位でしか分からなかった注文状況を、「A書店が何冊、B書店が何冊」と詳細に把握できるようになりました。
私たちの元にも、取引先から「こんなデータ欲しいんだけど」という具体的な要望が増えています。今後、そうした細かいニーズに対応できないところは厳しくなるかもしれないですね。
鈴木さん
倉庫に入ってきた本はすべてシステムに登録して、常に場所・冊数を把握する。アナログに慣れていたため最初は戸惑うスタッフもいましたが、最近ではすっかり現場に浸透しました。もちろん機械を通さず、人の手に任せた方が早い作業もあります。「本がどこにあるか、どう動いたか」はシステムで管理する。「いかに動かしやすくしていくか」は人が工夫する。両面が大事ですね。
倉庫って、「完成形」がないんです。常にどこかが欠けて、埋まって…と動いている感じ。伝統工芸のように確かなカタチではありませんが、倉庫作業員にも確実に熟練度というものがあります。無形文化財ですね(笑)。

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再生作業前には再生冊数・ヤレ本(再生不可本)の冊数・作業内容をタッチパネルで入力。作業ラインの最初と最後で照合して出荷ミスを防ぐ。

どんな道具を使うの?

鈴木さん
まずはトラックですね。2tトラックと4tトラックを1台ずつ使っています。2tトラックには90センチ四方のパレット3枚分、冊数にして4,000~5,000冊くらいは余裕をもって積むことができます。本は同じサイズでも紙質で全然重さが違うので、くれぐれも積載量に気をつけなければいけません。写真集は文芸書より厚めのコート紙を使うので、見た目以上に重いですね。あと道具といえば、結束機・断裁機・フォークリフト…ちょっとスケールが大きすぎましたか(笑)。
決まったものはありませんが、身近な道具は日々工夫しています。たとえばコミック本を再生するときには5冊ごとに向きを切り替えて積みますが、本によってはすき間が空いちゃったりするんですよね。そんなときはホームセンターで金属片を買ってきて重しにしたり。
豊川社長
ミス防止という意味では、色分けした結束紐を使っています。たとえばコミックの15巻を結束していて、1冊だけ14巻が混ざったとします。そんなとき、作業員ごとに違う色の紐を使っていれば、誰がミスしたかは明らかですよね。決して犯人捜しをするわけではなくて、自分のミスする傾向に気づいてもらうのが大事なんです。作業員はみなさん真剣なので、客観的な事実がないとなかなかミスを受け入れられないものなんですよ。作業によっては紐ではなく付箋を使ってもいいし、色分けは気軽で応用の利くアイデアです。

この仕事ならではのこと。

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女性同士のチームワークが光る、改装作業の様子。

嬉しいこと、辛いことは?

鈴木さん
私はもともと造形の仕事をしていて、ガチャガチャの中身をつくっていたんです。言ってみれば造形の仕事は、自分で仕事を決め、その納期がかっちりと決まった仕事でした。それに比べて今の仕事は多数の出版社を扱っているため、納期がさまざまで、終わりがありません。常に課題を解決していく面白さがあります。
業務上の細かい話でいうと、出荷時には厚さも大きさも違う本を積み上げていくわけですが、私はそれをテトリスみたいに積んでいくのが好きなんですよ(笑)。1箇所だけあえて高さを変えておいて、それに合わせて平らにしていくとか、なかなかゲーム性がありますね。
辛いことはないかな。仕事なので、やって当たり前という感覚です。
豊川社長
本の臭いがキツかったことはありましたね。顧客先で保管していた書籍の再生依頼だったんですが、かなり大量で、それまで締め切った場所で保管していたらしく、においが強い上にカビまで生えてました。本が膨らんでメロンパンみたいな状態になってるんですよ(笑)。あれはさすがに、誰も触りたがらなかったです。そこまでいってしまうと手の施しようがないので、本の保管にはまず毎日の換気が大事だと覚えておくといいですね。弊社の倉庫は常に気を使っていますので、状態が悪くなることはありません。

職業病ってある?

鈴木さん
書店に行くと自分のところで扱った本は見ますね。それか、小口見て研磨されているかどうか見ちゃうとか。うちではタナカさんという人が担当なんですけど、あ、これタナカさんが研磨したヤツかなとか(笑)。

どんな人が向いてる?

鈴木さん
どんな作業でも知恵を使って工夫できるかどうかですね。注意深い人、もっといえば「発見する能力」がある人はいいと思います。単純作業でも、「気づく気づかない」って案外、個人差が出るものなんですよ。
必ずしも本好きである必要はありませんが、表紙を見ていて飽きないのはプラスだと思います。私はものづくりをしていましたし、表紙、装丁というのは各出版社さんが技術の粋を突き詰めたものだと考えているので、色んな作品を見られるのは楽しいです。

今後の夢は?

鈴木さん
繰り返しになりますが、常に課題は変わるので、「これがあればいいな」ってものは意外とありません。現状をより最適化していくというか、スタッフに無理をさせず、よりよい仕事をしていくのが一番ですね。新しいことを始めれば良いというわけではなく、現状維持でもいいというわけではなく。倉庫の仕事はバランスが大事だと思います。
豊川社長
私としては、各出版社に対して、希望に添ったサービスを提供していきたいということですね。闇雲に取引先を増やすつもりはありません。今いるお客様の満足度を高めながら、紹介をいただければ幸いです。

実は、豊川社長と鈴木さんは学生時代からの同級生。鈴木さんの明るく前向きな性格と器用さを見込んで、豊川社長が誘ったとのことです。取材中も、遠慮のないやり取りにお互いへの信頼感が感じられました。若い世代が受け継ぎ、常にカタチを変える本の倉庫。その行く先に今後も注目です。

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「株式会社ブックセンター」課長の鈴木俊英さん。

株式会社ブックセンター
〒354-0044 埼玉県入間郡三芳町北永井835-1
TEL 049-258-7736
営業時間 平日:09:00~17:30