レポート45 / 2018.02.05
書店調査「模索舎」

イメージ

新宿2丁目。ビジネス街の真ん中に店を構える書店・模索舎は、知る人ぞ知る有名店です。ありとあらゆるミニコミや自主制作本を取り扱うのが特徴で、大手書店では見つけられないような商品がズラリと並びます。アナーキズム、反天皇制、死刑、原発、障害、ジェンダーなどなど、品揃えはかなり独特…。唯一無二のスタイルはサブカルチャー好きに根強い人気を誇る一方で、入るには敷居が高いと感じる方もいるようです。ということで今回も、アナタの代わりに研究員がお店に潜入。共同運営者のひとり、榎本智至さんにお話を伺いました。

模索舎の昔と今。

イメージ

研究員
今年で創業48年目を迎える老舗ですが、どんな経緯でできたんでしょうか?
榎本さん
もともとは学生運動がきっかけでした。五味正彦さんという方を中心に、活動家たちが自作のパンフを置いてもらおうと本屋を回ったところ、どこにも取り扱ってもらえなかった。だったら自分たちで本屋を作ってしまおうということで、1970年につくられました。いまでも市民運動のパンフや機関紙などを扱っています。
もともとは『ズッコケ書房』という名前の案もあったみたいですが、さすがにそれじゃ信頼してもらえないだろうと別の候補を考えて、そのひとつが「模索舎」だったみたいです。スナックシコシコというお店も併設されていて、言ってみれば活動家たちのたまり場的な場所でした。いまは、書店だけが残った形です。
研究員
榎本さんはまだお若いですが、いつごろからこのお店にいらっしゃるんでしょうか。
榎本さん
2009年ごろですね。僕がたまたま別の仕事を辞めようとしていた時期に、このお店で働いていた友人も辞めようとしていたんです。そこで「代わりに入る?」と声をかけてもらって、勤めることになりました。僕はもともとお店に来てましたし、出版業界にも興味はありました。
研究員
約8年前ですね。それから現在まで、何か変わった点はありますか?
榎本さん
出版業界全体がそうだと思いますが、やっぱり売上げは落ちていますね。特に人文系の本が厳しいように思います。とはいえ模索舎では売上だけではなく、流通ルートに乗らない小さな表現物を置くことに意義をもってやっているんですが。

選書について教えて!

イメージ

研究員
いま、お店にはどういった本が並んでいるんでしょうか?
榎本さん
お客さんから持ち込まれるミニコミが4割ほど。あとは取次店を通さないで仕入れる新刊が6割くらいですね。置いているのはすべて新刊です。古本屋とよく間違えられますけど(笑)。取次を通さないで、こちらから連絡を入れて直接仕入れています。ラインナップについては、昔から支えてくださっているお客さんの信頼に答えられるように心がけています。
研究員
そうはいっても、すべて直取引。出版社の数だけやりとりがあるってことですよね。
榎本さん
正直、大変ですよ(笑)。お店は2人だけでやっていて、私は遅番なんですが、店に出たらカブに乗ってあちこち回っています。事前に注文した本を取りに行ったり、返しに行ったり、お金を払いに行ったり(笑)。店にいるときは接客と、棚作り、精算作業、通販への発送業務などを行っています。
研究員
お客さんの性別や年齢には傾向がありますか?
榎本さん
20代から70代まで幅広く、老若男女ですね。もちろん、ぶらっと入ってこられる方もいますが、ミニコミを求めてくる方、社会運動関係の資料を買いに来る方など、固定客が多いですね。インターネットで好きな意見が言えるようになって、社会活動自体もだいぶ形を変えてはいます。それでも、紙で表現したい、知りたいって人はまだ結構いるんですよ。
研究員
持ち込み作品についてはほとんど置かれるということで、なかにはご自身のお考えと相反するものや、NGになるものもあるかと思いますが…。
榎本さん
持ち込み作品については「原則無審査」ですが、例えばレイシズムやヘイトスピーチなど差別排外主義を煽るものに関してはおことわりするでしょう。「表現の自由」を守るためにこそ、やってはいけないこともある、と思っています。
  • イメージ

    イメージ

  • 物々しいタイトルの書籍が所狭しと並んでいる。(写真左)/インターネットが普及した現在でも根強く残る社会運動関連の印刷物。(写真右)

お客さんとのコミュニケーション。

イメージ

研究員
お店のキャラクター的にあまり宣伝していないかと思いきや、SNSを活用されているんですよね。
榎本さん
主に新刊を紹介していますね。中にはそれを見て買いに来てくれる人はいますけど、そこまで集客効果があるものでもありません。買ってくれたお客さんが「このお店だったら置いてますよ」って紹介してくれたり、口コミで広がるのは嬉しいですけどね。
研究員
お客さんへのアピールで言えば、模索舎さんといえば早くから出版トークイベントをされていたことでも有名ですが。
榎本さん
イベントは力を入れていますね。宣伝にもなりますし、なにより自分がやりたいことなので。特に都築響一さんについてはもともとファンでしたから、本が出るたびに企画しています。最近では『捨てられないTシャツ』刊行記念トークショーをやりました。あとは、僕自身がサブカルチャー好きでもあるので、知り合いと映画関連のイベントを企画したり、人の繋がりでいろいろやっています。
研究員
新宿はオフィス街といったイメージですが、地域の繋がりといったものもあるんでしょうか。
榎本さん
すぐ上にあるカレー屋さん(curry草枕)とは仲良くさせてもらっていますよ。もともと知り合いだったこともあって、うちのレシートを持っていくと、カレーのトッピングが1品タダになる、っていうサービスもやっていて。オープンして10年ほどですが、最近は向こうの方が有名になってしまいました(笑)。休日なんかは行列ができているし、うらやましい限りですよ。

イチオシ本を教えて!

研究員
最近オススメの本を教えていただけますか?
榎本さん
●ファウスト(香山哲)
香山さんはゲームデザイナーの方ですが、マンガも書いているんです。流通はしていないので、こういうのが強いお店にしか置いていません。これも一定のファンがいますね。

●『架空』セミ書房
ガロとか昔のマンガを研究している方が、年に2回雑誌を出してまして。川勝徳重さんがメジャーな出版社にも取り上げられようになったこともあり、売れ筋のひとつになっています。ガロ世代の方ではなく、若い世代の方が作風をリスペクトして描いているという感じです。こうした漫画雑誌は、コミケや文芸フリマに合わせて年1、2回ペースで出されることが多いですね。

●『ラーメンショップ路線バスの旅』刈部山本
B級グルメを追っていらっしゃる刈部山本さんが書いている本。今回はラーメンショップですが、街中華とか、街道沿いの飲食店とか、どれもおもしろいのでオススメです。
  • イメージ

  • イメージ

    イメージ

  • 『ファウスト』(写真左)/『架空』(写真左下)/『ラーメンショップ路線バスの旅』(写真右下)

●『月刊ドライブイン』HB編集部
毎回全国のドライブインを2点ずつ紹介した本。フリー編集者の橋本倫史さんという方がつくられています。中身は読みもので、なぜドライブインを始めたのかを取材したインタビュー集ですね。号によっては売り切れてしまいます。

●『救援ノート』救援連絡センター
これは逮捕されたときに読む本で、70年代くらいからあったものです。学生運動の時代に、警察署ではどんな取り調べがあるのかとか、どんな対応すればいいのかとか、マニュアルが作られたんですね。今は活動家だけではなく、その筋の方からの注文が結構あると聞いてます(笑)。

●『薔薇族』野ばら浪漫舎
有名な雑誌で、名前は聞いたことがある方も多いかと思います。一度休刊しちゃったんですよ。その後、意思を引き継ぎたいという方が現れて、いまはミニコミとして続いています。同性愛者がどう生きていくかを考えるような内容になってますね。
  • イメージ

  • イメージ

    イメージ

  • 『月刊ドライブイン』(写真上)/『救援ノート』(写真左下)/『薔薇族』(写真右下)

今後の夢は?

榎本さん
望んでくれる人がいる限り、存続させていきたいですね。2020年の東京オリンピック開催を名目として世の中全体が多様性のない方向に向かいつつある中、うちとしてどう取り組んで行くのか。常に考えているところです。

イメージ
榎本さん。錦糸町河内音頭のTシャツ、パネルの「レーダー光線」など突っ込みどころが多い。

実は模索舎、2010年にも存続の危機に見舞われ、ファンの支えによってもちこたえた経緯があります。その場所でしか手に入らないものがあって、深いファンがついていたとしても、続けるのは容易ではないのが出版業界の事情なのかもしれません。本にとどまらず、表現とは何か?を考えさせてくれる貴重なお店。本気度ゆえ品揃えは迫力満点ですが、決して居心地の悪いお店ではありません。まだ行ったことがない方は、実際の雰囲気を味わってみることをオススメします。

模索舎
〒160-0022 東京都新宿区新宿2ー4ー9
TEL 03-3352-3557
営業時間 平日:12:00-12:30 頃~21:00 日祝祭:12:00-12:30頃~20:00/定休日 なし
http://www.mosakusha.com/