レポート48 / 2018.03.20
残酷な童話 海外王道作品編

イメージ

多くの子どもたちに愛され、読み継がれてきた童話の名作たち。よく知られたステキなハッピーエンドは、数ある説のひとつに過ぎないといわれています。ペロー童話集、グリム童話といったメジャーな作品は、いずれも民間の伝承を集めて作られたもの。取材相手や読ませたい相手によって、物語は大きく違う展開を見せます。(ペローは上流階級の女性に向けておとなしめに、グリムは一般ウケを重視して生々しく書かれた)。今回は、作品によっては残酷な結末を迎えてしまう、有名な物語をまとめてみました。

シンデレラ

イメージ

よく知られている話…ペロー童話集『シンデレラ、あるいは小さなガラスの靴』
継母と姉弟から召使いとしてこき使われる、エラという名前の少女。暖炉を寝床にしていたことから「シンダー(灰かぶり)・エラ」、シンデレラと呼ばれました。ある日、妖精の魔法で美しいドレスとガラスの靴を手に入れ、シンデレラは憧れの舞踏会に参加します。そこで王子と知り合いますが、踊りに夢中になったせいで慌てて帰ることになり、途中でガラスの靴を落としてしまいます。王子はそれを手がかりに街中を探し、足のサイズがあったシンデレラを見つけて結婚。その後は幸せに暮らしました。

もうひとつの物語…グリム童話『灰かぶり』
グリム童話版では、舞踏会が3度開かれています。シンデレラは1度目を不参加(鳩と一緒に豆を選り分けていた)。2度目は銀のドレスを着た謎の美女と参加して王子を惹きつけ、3度目には金のドレスで完全に落としにかかります。なんという策士。2人の姉が「あの謎の女は誰なのかしら?」とイライラするなか、シンデレラは知らんぷりを貫きます。
3度目の舞踏会ではペロー版と同じく靴を落としますが、独りでに脱げたのではなく、王子がしかけた罠。シンデレラが帰る時間を見計らって床にタールを塗りたくったというのですから、こちらもシンデレラに負けじと策士です。シンデレラは相当急いでいたはずなので、ものすごい勢いで前方に飛んでいきそうなものですが…。

ここからがクライマックス。靴を探しに王子が家にやって来た際、継母は2人の姉妹に「お前は足先、お前はかかとをナイフで切り落とせ」と命令します。無事(!?)足は入ったものの、当然ながら血まみれでバレてしまいます。さすがにあきらめるかと思いきや、まだまだめげないド根性姉妹。ムダに傷めた足を引きずって、玉の輿狙いでシンデレラの結婚式に参列しますが…今度はシンデレラの側近の鳩に、目をえぐり取られてしまうのでした。

「本当は恐ろしい」グリム童話の面目躍如。シンデレラ・ストーリーの意味がねじまがってしまいそうな残酷さに、せっかくの甘い恋物語が台無しです。ちなみに鳩は物語冒頭から常に登場し、姉妹が足を切りおとすクダリでは、「クルルッ、見てごらん。靴に血がたまってる」とつぶやくなど、絶妙の煽りを繰り広げます。

イメージ

眠れる森の美女

イメージ

よく知られている話…グリム童話『いばら姫』
王と王妃は念願の女の子を授かり、祝宴を開くことに。ところが食器が足らず、1人だけ招待されなかった魔女の恨みを買ってしまいます。逆上した魔女は王女に「15歳になったら死ぬ」呪いをかけますが、他の魔女の手助けで、なんとか「100年間眠る」に軽減します。王女は15歳を迎えると予告通り眠りに落ち、効果は城全体にまで波及。人々はみな眠ってしまい、城の周りをびっしりといばらが覆いました。
長い年月が過ぎ、通りがかった旅の王子が好奇心から城内に突入すると、眠り姫の美しさに思わずキス。城の人々は全員目を覚まし、王子と眠り姫は結婚して幸せに暮らしました。

もうひとつの物語…ペロー童話集『眠れる森の美女』
王子が眠り姫を見つけるまではほとんど同じですが、眠り姫は王子のキスなしで自ら目覚めます。なんと「眠ってからぴったり100年のタイミングだった」というから、王子、もってますね。たっぷり睡眠を取った眠り姫は、起きると同時に4時間ぶっ続けでマシンガントーク。100年前のJCの話題に、王子はちゃんとついていけたのでしょうか…。

2人はすぐに恋に落ち、息子と娘をもうけますが、王子は彼女と子どもの存在を隠し続けました。というのも、突拍子もない話ですが、王妃(王子の母)は食人族だったのです。それを知っていたからこそ慎重に事を進めていた王子も、王(実の父親)が死に、新たな王に即位することが決まると、いよいよ公表せざるを得ない事態に。眠り姫を正式に王女として迎え入れ、子どもと一緒に城に住まわせます。
すると王妃は「待ってました!」とばかりに殺害を計画。王が隣国との戦いに出かけるタイミングを見計らい、実行に移します。そのやり方たるや、毒蛇を入れた桶を用意して、王女と子どもたちに「飛び込め」と命令するいやらしさ。結局、王が予定より早く帰還したことで事なきを得ると、自分の悪行が息子にばれた王妃は気が狂い、自ら毒蛇のなかに飛びこみ自殺してしまいます。

グリム童話では食人族のパートをまるまるカット。「本当は優しいグリム童話」のパターンもあるんです。ペロー童話集には物語の最後に決まって「教訓」という一節がついているのですが、「100年待ってくれる女性なんていない。結婚は延期しても甘美さは失われないのに…最近の女性はこれだから…」という、思わせぶりな内容がつらつらと書かれています。

イメージ

赤ずきん

イメージ

よく知られている話…グリム童話『赤ずきん』
おばあさんがこしらえた赤いずきんが似合う女の子。ある日、ケーキとぶどう酒を森のなかのおばあさんの家まで持っていくことになりました。途中で狼に出会い、花の美しさを説かれた赤ずきんは脇道に花摘みへ。その隙に、狼はおばあさんを食べてしまいます。ようやくおばあさんの家に到着した赤ずきんも、同じくおばあさんに化けた狼の餌食に。そこへたまたま通りがかった猟師が気づき、狼の腹のなかから二人を助け出します。赤ずきんは反省して、もう寄り道はしないと誓うのでした。

もうひとつの物語…ペロー童話集『赤ずきん』
おばあさんと赤ずきんが食べられたあとに漁師は登場せず、そのまま食べられて終わり。何の救いもないバッドエンドになっています。なぜこんな終わり方をしたのかは、『眠れる森の美女』同様、物語の最後に添えられた教訓の一節を見れば分かります。
「嫌らしい目つき、思わせぶりな態度、魅力的な話しぶりを使って、ベッドまでつけてくる狼に注意」
そう、実は赤ずきんちゃんは、若い女性に男性への注意を喚起するためにつくられた説が有力なのです。よく見ると狼に食べられる前に「服を脱いで」という思わせぶりな描写がありますし、わざわざ「赤」ずきんと色を指定したのも、赤が処女性の隠喩だからと言われています。

またしても、ペロー版のほうがバッドエンドになりました。ただ、これでもだいぶマイルドになったほう。ペローが編集する以前の民間伝承では、赤ずきんにおばあちゃんの血肉を食べさせたり、服を全部引っぺがされた赤ずきんがトイレと偽って全裸で逃げる…など、さらにエッジーだったのです。それにしても赤ずきん(17歳)からおばあさんまでだなんて…狼も守備範囲が広いですね。

イメージ

白雪姫

イメージ

よく知られている話…ディズニー映画『白雪姫』
ある国に白雪姫と呼ばれる美しい姫がいました。彼女が14、5歳に成長すると、彼女の母である王妃は、所蔵する魔法の鏡に「一番美しいのは白雪姫」と言われてしまいます。嫉妬にかられた王妃は狩人に白雪姫殺しを指示しますが、不憫に思った狩人はこれを断念。「白雪姫の心臓を持ち帰れ」と言われていたため、代わりに豚の心臓を持ち帰ります。
王妃が再度鏡に問いただすと、相変わらず「美しいのは白雪姫」との答えが。白雪姫が生きていることを知った王妃は、自ら毒林檎で白雪姫を殺害します。小人たちの手によってガラスの棺に安置された白雪姫でしたが、やがて旅の王子が通りがかり、静かにキスをすると、再び目を覚ますのでした。

もうひとつの物語…グリム童話『白雪姫』
グリム童話の白雪姫は、なんと7歳!これだけでイメージがガラッと変わりますが、さらに大きな違いが2点あります。
まずは、王子の必死さ加減です。その情熱たるや、「死体でもいい、金を払うから売ってくれ!」と懇願したほど。これには小人たちもドン引きし、とうとう根負けして棺を譲り渡してしまいます。王子はガラスの棺を城に持ち帰ると、いつもそばにおいてうっとり鑑賞。もう生き返らなくてもいいくらい楽しんでいますね。結局、部屋を移動する度に重い棺を運ばされたことに召使いがキレて、白雪姫の背中を殴打。毒林檎をはき出すという斬新な展開を見せます。

もう1点の違いは、王妃の必死さ加減。なんと、計4度も白雪姫の殺害を謀りました。
1.狩人に殺害命令。白雪姫は服を脱いで命乞いし、難を逃れる。王妃から「殺した証拠に白雪姫の肺と肝臓を持ち帰れ」と言われていた狩人は、代わりに猪の肝を持ち帰る。王妃は塩ゆでにして完食。
2.王妃自ら行商になりすまし、紐で締め上げる。小人に早期発見されて生還。
3.王妃は再度行商になりすまして、毒を仕込んだ櫛で白雪姫の頭をブスリ。小人たちに救われる。
4.毒林檎で殺害。

何度白雪姫を襲っても、Siriのごとき冷静さで「あなたです。でも一番美しいのは白雪姫です」と繰り返す鏡に、王妃も内心ゾッとしたことでしょう。最終的には熱した鉄の靴を履かされ、死のタップダンスを踊らされてしまいます。

白雪姫の生命力、王妃のコスプレ能力、小人たちの応急処置力、王子の異常性愛など、キャラが立ちまくりの本作。ディズニー版のすっきりとした構成も良いですが、王妃の執念深さをより味わうなら、文字でディテールを読み込むのもまた一興。

イメージ

今回紹介したのは、いずれも世界中で長く語り継がれてきた話ばかり。時代や地域によって、ストーリーが変化するのがおもしろいですね。嫉妬、争い、死といったネガティブなことも飾らずに表現することで、「こうならないように」と教育するのも時には必要なのかもしれません。それにしても、民間伝承は奥深いですね。今後はぜひ、日本の昔話も研究してみたいと思います。