レポート50 / 2018.04.19
粘土作品展「ギリ展」開催&作品集発売記念!
片桐仁さんスペシャルインタビュー

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片桐仁さんが約19年に渡り「何かに粘土を盛る」という方法で創作してきた粘土作品。そのすべてを間近で味わえる展示「ギリ展」が、今年も全国のイオンモールで開催されることになりました。
2018年、第1弾の開催地は、片桐さんの出身地・埼玉県春日部市(3/17~4/1)。ワークショップ・サイン会と忙しいスケジュールの合間をぬって、特別にインタビューの機会をいただきました。

そもそもの発端は、片桐さん司会のTV番組『車あるんですけど…?』(テレビ東京系列)に、弊社スタッフが専門書マニアとして出演したこと。番組中に講談社を訪れた際、片桐さんが過去に出した作品集2作がいずれも絶版になったことが発覚したのです。「頼むから売ってよ!」と嘆く片桐さん。番組放送後も再版される様子はなく、本を愛する研究員一同、胸を痛めていたのですが…。
しかし、願いはやっと叶いました!今回の「ギリ展」開催に合わせて、全作品を収録した待望の新作『片桐仁 粘土道大百科』が発売されることになったのです!これはぜひご本人にお話をうかがわなくては、と急きょ取材依頼を申し込んだというわけです。
本づくり研究所、50回目の節目にふさわしい、読み応え十分のレポート。作品制作のウラ話、個展に対する思いなど、本以外にもたっぷり語ってもらいましたよ。

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前回の作品集から7年ぶりとなる新作・『片桐仁 粘土道大百科』(企画制作:トゥインクルコーポレーション)は全作品174点を掲載した豪華版。「ギリ展」物販、全国のヴィレッジヴァンガードで購入可能。

なぜ粘土アートを始めたの?

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研究員
粘土に興味をもったきっかけを聞かせてください。
片桐さん
ヤングマガジンアッパーズという雑誌で連載したのがきっかけです。1999年に取材を受けたとき、「何か連載させてください!」って頼んでみたら、「何でもいいですよ」ってあっさり1ページもらえました。大らかな時代ですよねー。相方(小林賢太郎さん)が1コマ漫画を書いて、俺はどうしようかな、ってなったときに、相方が「粘土やればいいんじゃないの」って言ってくれて。当時はアート的なアプローチをしたい時期だったこともあって、『俺の粘土道』というコーナーで作品をつくって発表するようになりました。
研究員
多摩美術大学の版画科ご出身ですが、粘土もお好きだったんですか。
片桐さん
プラモデルとか工作全般が好きで、パテを使って印篭やバッジ、ループタイなんかをつくってました。もっとバリューのあるモノがつくれないかと思っていて、お笑い雑誌の大喜利企画で「ウクレレ」というお題をもらってやったときに、ウクレレの後ろをパカッとあけたら裸の俺が寝てる、みたいなのをつくってみたんです。周りは「こいつヤベーな」みたいな反応で、連載は2回くらいで終わっちゃったんですが、すごく楽しかったですね。
研究員
わりと実用性のあるものをモチーフにされますよね。
片桐さん
最初は特に、0からの彫刻、ガチの彫刻に対する恐怖があって…何かを模して、どこかに笑いがあるものをつくろうと思ってました。いま考えると、だいぶ肩に力が入ってたなあ。
研究員
それは芸能人だから、という?
片桐さん
それが大きいですね。片手間でやってると思われたくなかった。あとは、これ単体で売れたい気持ちがありました。粘土アート単体で有名になったらいいな、という。

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『俺の粘土道』記念すべき1作目は〈俺ハンテープ台〉。舌のようにセロハンテープが出てくる。しばらく文房具シリーズが続く。(写真上)/過去の雑誌連載をもとに出版した作品集『粘土道 完全版』(2009年)、『ジンディー・ジョーンズ 感涙の秘宝 粘土道2』(2011年)。残念ながら現在は絶版。

作品づくりについて聞きたい!

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商品化を望む声も多いiPhoneシリーズ〈鯛Phone5〉。片桐さん自身、機種変更するたびに制作するという。同シリーズの〈カレイPhone6Plus〉は某ドラマに出演したとの噂。

研究員
最初と今で、作品をつくる上での変化はありますか?
片桐さん
大きな変化は、そんなに暇じゃなくなったくらいかな。昔は時間があり余っていたので、いろいろ詰め込みました。たとえばカエルは2作つくってるんですけど、1作目〈カエルちゃん〉は足にピッコロ大魔王みたいなラインを入れたり、とにかく普通になるのが嫌で、オリジナルの意匠を入れようとしてました。10年くらい空いてつくった2作目〈カエルちゃん2011〉は、だいぶシンプルです。
作品の方向性が変わったきっかけのひとつに、「縄文」というテーマに出会ったことがあります。たとえば〈ペットボ土偶〉。土偶とペットボトルって組みあわせはおもしろいんだけど、俺自身アレンジする技術がなかったから、土偶自体はわりとそのまんまつくったんです。自分としてはあんまり工夫できなかったなー、って反省してたんだけど、周りの評判は結構よくて。これはこれでひとつの個性だと思うようになりました。それからはシンプルに、ボケは1個(笑)。iPhoneケースなら〈鯛フォン〉とか、〈サイフォン〉とか。
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    初代〈カエルちゃん〉、2002年作。ボディに彫刻刀で刻んだライン、裏面には目が3つ。(写真左上)/受付に飾られている〈カエルちゃん2011〉。ボディ自体はかなり自然になった。(写真右上)/〈ペットボ土偶〉は「シンプルなボケ1個」の典型例。(写真下)

研究員
さきほど展示の様子を拝見しましたが、お子さんなんかは特に、「ワンちゃんだ」とか「鬼こわいー」とか、そのまま口にしますよね。
片桐さん
そう、モチーフが何かわかるっていうのは大事。わかりやすさ、キャッチーという視点は、前より意識するようになりました。昔はもっとコンプレックスに凝り固まった美大生みたいな感じだったんですけど、いまは時間もないし、もう技術も伸びなくなってきたし(笑)。肩の力を抜いてやってます。シンプルにやっても個性は出るんだな、ってことに気づいたというか。
研究員
作品をつくる上の楽しさ、苦労を教えてください。
片桐さん
つくっているあいだはすごく楽しい。でも〆切に間に合うようにするのが辛いって感じです。ボツにする時間はないんで、そうならないようにつくるプレッシャーは常にあります。
研究員
作業スペースはいまもご自宅ですか?
片桐さん
夜に作業することが多いので、どうしてもそうなりますね。今日も朝まで作業してたんですよ。8時半に出発予定なのに、仕上ったのが8時50分。というかまだ仕上がってません。一度始めたらどんどんやりたくなっちゃうんですよ。金具つけたい、断面を人体解剖図みたいにしたい…とかね。
あと、やりたくてもちょうどいいアイテムがないときもあります。たとえば〈片桐新幹線「じぶん」〉。これはそもそもNゲージでやるつもりだったのが、やってみたら小さすぎてできなかった。代わりにHOゲージを使おうとしたら、今度は値段が高すぎて使えない。結果、プラレールになったんです。そんなこんなで毎回試行錯誤するので、まー東急ハンズはよく行ってますよ。品揃えが豊富すぎて店員さんも何があるのかよくわかってないみたいで、ないと言われたものが違う階で普通に売ってたり(笑)。
研究員
今後新しいチャレンジとして、電動式にしたり、っていうお考えはありますか?
片桐さん
カラクリ的なのはできたらいいですよねー。動かなくても、電飾するだけでだいぶおもしろいのができると思う。ただ、俺、そっちの知識がないんですよ。やるからにはもっと精巧な造りにしないといけないし、詳しい人と一緒じゃないと無理です。

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苦労の末完成した〈片桐新幹線「じぶん」〉。レア新幹線・ドクターイエローの色合いを活かす。

個展を通じて得たもの。

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研究員
「ギリ展」は今年で3回目。午前中から大盛況ですね。「最初はこれで売れたかった」と仰っていましたが、アーティストとしても順調に売れてきてるんじゃないですか?
片桐さん
いやー、まだまだ全然ですよ。やっぱり俳優・タレントとして知ってくれた人が来てくれるワケで。ただ、前みたいに専門家の目を気にするようなことはないですね。「芸人がアート活動して何が悪い!」って感じです。
研究員
そう思えるようになったのはなぜでしょうか?
片桐さん
何度か個展をやった経験が大きいかな。実は、個展は作品をつくり始めたころに1度開催してから、10年近くやってなかったんです。「俺、何のためにやってるんだろう」って自家中毒を起こしかけた時期もあって。でも、2010年以降にまた個展を始めて、新しい人に知ってもらう機会ができると、おかげさまでコラボの話をいただくことも増えました。「スター・ウォーズアート」とか、「みんなの太陽の塔展」とかね。そんな風に声をかけてもらえると、前より認められてる実感はありますね。とはいえ、そうなるまでに10年、100点以上つくってきたわけですから。やっぱり「継続は力なり」ですよ。
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  • 会場内は午前中にも関わらず多くの人が。スクリーンには母校・多摩美術大学に凱旋講演したときの様子が流れていた。(写真上)/随所に置かれた展示パネル。結婚期、自画像期、持ち歩く期、何を作っていいか分からない期…。時期ごとに作品性にはかなりの違いが出る。(写真左下)/足下の注意書きすら楽しめてしまうのはさすが。ギリギリテープは物販で買うことができる。(写真右下)

研究員
今年の「ギリ展」はご地元の春日部からスタートですね。何か思うところはあるんでしょうか。
片桐さん
18歳で東京に出たので、地元って意識はあまりなかったんだけど、やっぱり地元って特別なんだなって思いました。高校の担任の先生が来てくれたり、中学時代のテニス部の仲閒が来てくれたりね。たまたま寄ったお客さんも「この人カスコー(春日部高校)なんだ!」って親近感をもってくれるし。そういう反応は単純に嬉しいですよ。昔は東京に出たくて仕方なかったから、春日部なんて大嫌いだった(笑)。都心から遠いし…最寄りの東京が上野・北千住って、すごいクセあるじゃないですか。
研究員
個展をきっかけに地元愛に目覚めたんですね(笑)。
片桐さん
ホントありがたいですよ。大都会だからお客さんが入るってわけじゃないし、熱心に後押ししてくれるところが盛り上がるんですよね。
研究員
ツアーでは行く先々のご当地作品もつくられていますよね。アイデアの幅も広がったんじゃないでしょうか。
片桐さん
パルコの北海道関連のイベントで、木彫りの熊をつくったのがきっかけでやり始めました。最初はいいネタ元ができた!って喜んだんだけど、逆に考えると「ご当地縛り」でもあるんで、それはそれでハマると地獄なんですよね…。
研究員
なるほど。ちなみに、「作品を売ってくれ」なんて話はないんですか?
片桐さん
たまにあるんですけど、みんな「3万円くらいでできる?」って感じなんです。いやいや、材料費だけでつくれるわけないじゃん!って思うんだけど、向こうは悪意なく言ってるみたいで。その辺はなかなかわかってもらえないみたい。自分から販売しようとかは、上手なやり方がわからないのでしてないです。
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  • オリジナルグッズの数々。キャップ・手ぬぐい・ベルトは特に人気なので、購入はお早めに。(写真左上)/研究員オススメの『USギーメモリー』。在庫かギリ!!(写真右上)/地元らしく、人だかりができていた埼玉ご当地作品〈サイ玉〉。(写真下)

オススメの作品を教えて!

研究員
せっかくなので、いくつか作品を紹介してもらえますか?
片桐さん
どれもオススメなんですけど、とりあえず、パッと目についたものをあげてみましょうか。

〈卵爺(ランジー)〉
これ相当顔色悪いけど、なんでだっけ。あー、確か卵の色に寄せたんだった。シワを入れまくったら、すげー貧相なおじいさんになっちゃんたんだよなー。でも、こういうの大好きなんですよ。自分の顔をモチーフにすると、似せなきゃいけないとかあるけど、これ、おじいさんをつくるだけですから。

〈タマギリジン〉
卵繋がりだとこんなのもありました。ダジャレとしては最低ですけどね。どんだけ思いつかなかったんだ!っていう。何気に色合いにはこだわっていて、仏像みたいに、もともと朱色だったのが色あせて地の色が出てきたっていう体なんですよ。汚し塗装、サビ加工はすごく好きですね。

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  • 卵爺(写真左)/タマギリジン(写真右)

〈1/150 カエン・ド・ジョーモン〉
これはおすすめじゃないやつですね。普通に番組で火焔土器つくりに行っただけ。

〈1/6000000000000 ア・バオア・ジェー(リモコンも)〉
すべったやつ。おいおい、家のリモコン台無しじゃないか!っていう、いかにも若手芸人らしいノリではじめました。「こりゃ不便、不便、おもしろいぞー」って自分でつくりながら笑っちゃったんだけど、周りからは「リモコンなくてどう生活するの」って普通に心配されました。ボケたの!

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  • 1/150 カエン・ド・ジョーモン(写真左)/1/6000000000000 ア・バオア・ジェー(リモコンも)(写真右)

〈片桐たんす〉
春日部といえば桐だんす。今回の展示のオススメは、なんといってもコレですね。下唇の引き出しを引くと、よりいっそう俺に似てます。名前何にしようかな。「片桐たんす」かなー、「タンスのギリジン」かなー(急きょ取材中に作業がはじまった)。昔春日部に「タンスのギリジン」ってお店があって、俺友だちからよく呼ばれてたんですよ。アレお前の家だろう!って。まあ言われましたね。でもこんなのわかってもらえないしなあ。というか、いまもあるのかなあ…。

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結果、「片桐たんす」に決定。記念すべき作品の命名に立ち会った。

本づくり研究所的オススメ!
もともと書店に関する連載ももっていた片桐さん。作品の中には、本関連のものもありました。

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  • 広辞苑がモデルの〈俺の扉〉。背表紙の2人は上が「ヤソキチ」で下が「ポール」。(写真左)/〈図書犬〉は過去の作品集2作をすっぽり収納。(写真右)

新作本が発売。今後の夢は?

研究員
本についても少しお聞きしたいんですが…。
片桐さん
えっ、本の話が関係あるんですか!?
研究員
これ、「本づくり研究所」なので…。
片桐さん
あ!そうだった…。本はマンガ中心にいろいろ買ってますが、一番のオススメは『月刊ホビージャパン』(ホビージャパン)です。あの情報量はもはや狂気すら感じますね。
研究員
ご自身も作品集を出されていますが、作品が本になる嬉しさはありますか?
片桐さん
そりゃ嬉しいですよ。美大に入ったときから、作品集出すのは夢でしたから。本のデザインに関しては口出しをしないし、中身をチェックするくらいだったので…いつの間にか夢が叶ってしまった感じです。やっと久々の新作ができて、俺も初めて見るんですよ。…いやー、あらためて見るとたくさんつくってきたなー、と。こうしてカタチにして眺めてみると、感慨深いですね。
研究員
それでは最後に、今後の夢をお聞かせください。
片桐さん
海外で個展をやったり…テレビでアートの笑っちゃう部分を紹介する番組をやってみたいですね。現代アートのおもしろさを伝えるのって難しくて、なかなか実現しないんですけど。なので、まずは作品づくりを継続することかな。できれば、もうちょっと創作活動に時間を割きたい気持ちはあります。こんな個展は他にないですし、中に入ってくれたら楽しんでもらえると思うんで、みなさんもぜひ見に来てくださいね。

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片桐仁
1973年生まれ、埼玉県南埼玉郡宮代町出身。春日部高校卒業。多摩美術大学在学中にコントユニット「ラーメンズ」を結成。独特の世界観で人気を博し、舞台・ドラマ・映画・ラジオ等で活躍。現在NHK Eテレ『シャキーン!』、TBSラジオ『エレ片のコント太郎』、テレビ東京『車あるんですけど...?』にレギュラー出演中。

片桐仁 不条理アート粘土作品展「ギリ展」
片桐仁さんが19年に渡り「何かに粘土を盛る」という方法で創作してきた170点超の粘土作品が、全国のイオンホールを巡回する。本人による音声ガイド、全国各地のご当地作品など盛りだくさんのコンテンツに加え、会場でのみ手に入るオリジナルグッズも販売。過去2年の累計動員数は4万5千人を突破した。

●開催日程
最新のスケジュールは、下記の公式HPをご確認ください。
http://www.giriten.com/

●開催時間
平日 12:00~20:00(最終受付19:30)
土日祝日 10:00~20:00(最終受付19:30)

●入場料
一般:500円/学生:400円(学生証の提示が必要)
※小学生以下無料(保護者同伴に限る)