レポート05 / 2016.04.27
書店流通のナゾ

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街角によくある普通の本屋さん。規模は小さくても、本がたくさん置いてありますよね。人通りの多い場所ではないのに、新刊の小説が山積みになってたりすると「たくさん在庫を抱えて大丈夫?」「1日にどれくらい売れるんだろう?」なんて、ちょっと心配。その疑問に答えるには、独特で複雑な日本の書店流通について説明しなくてはなりません。マンガでわかりやすく解説してみます。

本はどこから書店に届くんだろう?

著者が本を書いたら、出版社がそれを編集・印刷して商品にします。そこから書店へは、誰が届けていると思いますか?2016年現在、書店は全国に約1万3,000店あると言われています。1冊ください、と言われて出版社がいちいち宅配便で送るのは、ちょっと無理がありそうです。本はどこから書店にやってくるのでしょうか。

最近、自費出版で本をつくったPEEさんのケースを見てみましょう。PEEさんは素人ですが、自分で本を書きたくなりました。出版社はお金を出してくれなかったので、自費出版です。構想2年、制作2年。ついに本が完成したのです。作品に自信のあるPEEさんは、「本屋さんでたくさん売りたい!」と思っていますが、どうすれば良いのか何もわからないので出版社に相談です。さて、どうなるのでしょうか?

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本の問屋さん、「取次店」。

残念ながら、PEEさんの希望通りの冊数にはなりませんでした。自分がお金を出してつくった本にも関わらず、なぜ希望の冊数を流通してもらえないんでしょうか?

これは、別の商品に置き換えればよくわかります。例えば、あるメーカーが新商品として缶ジュースを出すとしましょう。メーカーは当然ヒットさせたいわけですから「たくさん小売店に並べたい」と考えています。しかし、缶ジュースはメーカーがお金を出してつくったものですが、問屋さんが「そんなにいらない」と言えばそれまでなんです。メーカーにとっては自信作でも、問屋さんにしてみればひとつの商品。過去のデータや現在の流行をふまえて、お客さんである小売店のニーズに応えたいのは当然ですね。

出版業界で問屋さんにあたるのが「取次店」です。数多くの出版社の注文を取りまとめて全国に運び、現場での豊富な経験をもとに書店のニーズを計る専門家。今回のケースで言うと、PEEさんの本は1,000部も要らないな、と判断されたわけですね。

自分の本が、書店にならんだ!

希望の冊数とはいきませんでしたが、合計700冊も全国の本屋さんに送られるわけですから、なかなかのものです。PEEさんにとってはうれしい出来事に違いありません。自分の本が本屋さんに並ぶなんて!夢のようです。

PEEさんは、本屋さんに意気揚々と出掛けたようです。では、続きをみてみましょう。

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新刊の数は、なんと1日○○○タイトル!

PEEさん、良かったですね。無事に自分の本を見つけました。気になるのは、希望通りとはいかなかったものの700冊は配られたはず。1店舗1冊として、ざっと700店には届いた計算です。なかなか見つからなかったのはなぜ?……出版社に騙されているのでしょうか?

実は、書店に届いた本が必ず店頭に並べられるわけではないんです。日本で発行される新刊は、なんと1日に200タイトル!と言われています。とてもすべてを並べるスペースはありません。どの本をどれくらい並べるかは、書店の腕の見せどころ。

ここで、缶ジュースの例を思い出してみましょう。缶ジュースを仕入れた問屋さんは、小売店へと配送します。小売店のほうはというと「良い商品かな?」「うちに来るお客さんにどれくらい売れるかな?」と、色んなことを考えます。中でも売れる商品、お店が売りたいイチオシの商品は、目立つところにドーンと配置。手書きのポップをつくってみたり、ディスプレイはさまざまです。話を戻すと、新刊200タイトルの中には有名な作家さんの作品や、話題の経営者が書いたビジネス書、流行の食材を扱ったレシピ本など「きっと売れそうな商品」があって、たくさんのライバルがひしめきあっています。その中でPEEさんの本は、本屋さんが仕入れたい商品、売りたい商品になっているか?ということですね。

そして、最後にもうひとつ。忘れてはいけない、日本ならではの仕組みがあります。

返品されちゃった!

仕入れた商品を店頭にならべないなんて「せっかく仕入れたのにお店が損するだけじゃないの?」と思うかもしれません。ここからが、書店流通のもっとも重要な部分。冒頭に出てきた「在庫を抱えて大丈夫?」「儲けはあるのかな?」の答えですね。

無事に本が発売されたPEEさん。その後の様子はどうでしょうか?

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本屋さんに置いてある本のほとんどが、委託販売。

PEEさん……。ショックを受けているようですが、これは稀なケースではありません。実は、本のほとんどが「委託販売」なのです。出版社や取次店から本を委託されて、つまり「預かって」販売をしています。無料で仕入れているわけですね。そして、ある程度期間が経っても売れない商品は、なんと返品することができるんです。缶ジュースと違って、賞味期限がない本という商品ならではのシステムですね。返品するときの本の回収や、売上金の集計まで取次店が代わりにやってくれるので、日本では取次店の存在がとても大きいのです。

返品された商品は、また注文してもらえるのを待ちます。めでたく注文が入ったら、表紙カバーを付けかえて、小口をクリーニングして再出荷。しかし、注文されて出荷したにもかかわらず、やはり返品が可能なんです。

逆に返品なしで仕入れることを「買い切り」と言いますが、決してその数は多くありません。大きな書店が村上春樹やハリー・ポッターシリーズのような超人気作品を仕入れるときに、戦略的に買い切りになることもありますが……。その他、予約注文の場合は基本的に返品できませんね。

ということで「なぜ本屋さんにあんなに在庫があるのか」わかりましたね。

本をつくる目的はいろいろ。

ご存じの通り、本がなかなか売れない時代。特にPEEさんのように個人では、効果的な宣伝方法があまりないのです。

しかし、ベストセラーになることだけが、本をつくる目的なんでしょうか?音楽だってそうですが「売れているものが良いもの」とは限りません。人それぞれに好き嫌いという趣向があるのですから。本の原稿を書くことは「自分の内面をさらけ出すこと」とよく言います。ストーリーや仕事のノウハウなど、自分の作品を知らない人が読んでくれていたら、やっぱり嬉しいですよね。
本をつくる目的は、人それぞれ自由なのです。人生の記念に、プレゼントとして、趣味の作品集、企業なら受付に置いておくだけで信頼感が増して、話題には困りません。

もちろん、それが売れる可能性だってありますよ。