レポート26 / 2017.03.15
本のプロフェッショナル「図書館員」編

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知っているようでなかなか知らない、図書館員の仕事。カウンターで本を整理したり、返却された本を棚に戻す姿は見かけますが、どんな仕事なのでしょうか?今回は、新宿区立戸山図書館を運営するTRCの大城館長、館長補佐である、青木さんと藤澤さんにお話を伺いました。
TRC(株式会社図書館流通センター)・・・図書館管理業務を受託する民間企業。全国496(2016年4月1日時点)の公共図書館を運営するほか、書誌データの作成でも知られている。

どんな仕事?

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優秀な司書は30分で100冊の本を探し出すことができる。

1日のスケジュールを教えて!

藤澤さん
まずは図書館を開けられる状態にすることから始めます。ブックポストに返却された本を棚に戻して、その日の新聞を用意して、それから予約資料を集めるんです。新宿区には全部で10館ありますが、この図書館の資料を他の館で受け取られる方のための配送手配と、直接来館して受け取られるお客さんのための資料確保を、同時に数人で行います。けっこうな力作業なんですよ。9時に開館してから閉館する19時までは、各自がタイムテーブルに沿って動きます。
大城館長
今はインターネットがありますので、一晩に100冊くらい予約が入るんです。2、3人で集めて大体15分くらいですね。うちの職員はかなり早いほうで、1人ひとりが30分あたり100冊のペースで棚から引き抜けます。本のジャンルを表す十進分類法が頭に入ってないとできないことですが、優秀な司書は本の位置がわかっていて、その本がどんなテーマかを把握しているんです。

どんなことをするの?

大城館長
みなさんがよく知っているのがカウンターでの貸出や返却。そのような「フロント」の仕事が図書館業務のすべてと思われがちですが、それ以上にサービスの内容を作り上げる「バックヤード」の仕事が図書館の質を左右するんです。
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    大城館長

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    左:青木さん、右:藤澤さん

●フロントの仕事

カウンター業務/イベント業務/障害者サービス/配架(返却・新規配本)など

藤澤さん
たとえば戸山図書館ではカウンター業務にも、右と左の位置で役割分担があるんです。右側はカウンターで貸出・返却などの利用者対応をメインに行い、席を離れる作業は左側の担当者が行います。
青木さん
利用者対応は、貸出・返却と、レファレンス(利用者の要望する資料を提供すること)がメインですね。当館ではご年配の方が多く、「今朝、ラジオで聞いた何とか」と、少しのキーワードで本を探されている方が数多くいらっしゃいます。最初の頃は戸惑ってしまいましたが、今では何を言われても分かるようになりました。あいまいなフレーズでも、これまでのコミュニケーションから推測できます。もちろんインターネットに頼ることもあります。
藤澤さん
「おじさんと小さい子が手繋いでる表紙なんだけど…」って仰る方も(笑)。そんな時は内容についても伺ったり、他の職員を頼って見覚えがあるかどうか、という情報をもとに本を探すことになります。
青木さん
返却業務では、返却時に汚れや破れがないか、利用者の私物が入っていないかをまずチェックします。多くの方が利用されますので、返却された本は専用ぞうきんで一冊ずつ拭いています。昨年、風で自動的にページをめくって99.9%菌を飛ばす、話題の書籍消毒機も導入しました。お子様にとても好評です。少しの破れなどは私たちで毎日修理しています。利用者には、気持ち良い状態で読んでいただきたいと思っています。
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  • コンテナに振り分けて各館に発送(写真左)/一度に5冊まで入る書籍消毒機(写真右)

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    試しに席カウンターに座ってもらうと、ひっきりなしに対応業務が入る。

●バックヤードの仕事

選書/寄贈受入れ/除籍/地域資料の受入れ・入れ替え/予約リクエスト対応/返却督促/CD選定・発注/障害者向けサービス・図書制作/ポスター・パネル等各種掲示物制作/広報/イベント企画/フリーペーパー/資料電子化など

青木さん
たくさんの業務がありますが、まず大切な業務の1つが選書です。新宿区では週に1度、区内全館が中央図書館に集まり、半日がかりで選書会議をします。「見計らい」と言いますが、契約書店から配本された新刊本の現物が並べられるので、直接手にとって見ることができます。購入方針は各館の地域などによって異なります。戸山図書館の場合は病院が近くにあるので、医学書や障害者サービス関連の専門書が多いです。
大城館長
長期・短期2種類の選書計画を立て、話題の本やタイムリーで優れた内容の本を追加します。選書にはバランス感覚が非常に重要で、図書館員のなかでもエース級が充てられる仕事ですね。新宿区では司書資格がないと担当にはなれません。
青木さん
あと、見計らいとは別に契約書店からインターネットで購入することがあって、週に100冊ほど受け入れます。同時に除籍も必要になりますが、購入して5、6年ほどは置いておき、月に1度リサイクル本として利用者に活用していただいています。

図書館員になるには?

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仕事に就いたきっかけは?

藤澤さん
一般企業に勤めていたんですが、図書館によく通っていて、どんな仕事をしているのか興味を持ちました。司書資格は大学にいる時に取得していたので。
青木さん
私はいずれブックカフェを自分で開きたいと思っていて、本の勉強がしたかったんです。司書資格は通信で取得しました。合格通知に図書館の求人募集が入っていて「公務員でなくてもなれるんだ」と興味をもって応募しました。
大城館長
今も昔も応募者はたくさんいますが、要はどれだけ情熱があるか。本が好きなのは当然ながら、図書館で何をしたいのか?が重要です。資格の有無は当然考慮しますが、当図書館のスタッフも全員司書資格を持っているわけではありません。

どんな人が向いている?

青木さん
明るく、話しかけやすい人ですね。戸山図書館は地域密着型なので顔見知りができるんですよ。会話の中で、この人は時代小説、この人はノンフィクション、と自然に好みも分かりますから。
大城館長
図書館って敷居を高くするのは簡単なんです。でも、それじゃ誰も来ませんから、できるだけ敷居を下げて、フレンドリーで司書と気軽に会話ができる雰囲気の図書館じゃないと。そういった意味では接客スキルは大事ですね。

この仕事ならではのこと。

嬉しいこと、辛いことは?

青木さん
選書業務をしていて、週に1度出す新刊が一気に借りられていたらうれしいですね。逆に残っていたら、何が悪かったのか気になってしまいます。かと思えば次の日には借りられたりして「よかった」って一喜一憂してます(笑)。逆に辛いというか悔しいのは、お客さんが求めている本が提供できないときです。そういう時はずっと頭に入れておいて、良い本に出会ったら購入するようにします。
藤澤さん
私もCDの購入担当だった時に借りてもらえると嬉しかったです。辛いことは、いくら督促しても返してもらえない時。本が回らないのは辛いですね。

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職業病ってある?

青木さん
すごくあります。本屋が好きなのでよく本屋に行くんですが、自分が買いたい本よりお客さんが好きな本を探してしまうんです。店頭の面出しを見ても、自分が読む本というのが二の次になったりして。
藤澤さん
私は本の題名を言われた時に、読んだことがない本でも作家の名前を思い浮かべてしまったりしますね。本屋なんかでは、ジャンル違いの場所に並べられていたり、乱雑に置かれていると気になったり、つい直してしまったりします(笑)。
大城館長
うちにはいませんが、他の館では腰や腕を痛めたり、腱鞘炎になったというのを聞きます。

図書館の現在と、これから。

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今人気の棚番号595(理容、美容)。

流行の本は?

青木さん
やっぱり王道の文学が人気ですが、最近は自己啓発本も人気があります。おそらく、TVなどで紹介されたのを見て興味を持ち「買うほどではないんだけど読んでみたい」という方も多いのではないでしょうか。その他、画集なんかは高くて買えないけど見てみたい、ということでリクエストがあったりします。

どんな人が来館するの?

青木さん
30~40代の女性が増えているな、と感じています。家事の本とか、天然生活系のおしゃれな本がすごく借りられるんですよね。新刊も増えています。スキンケア、ダイエット、ヘアメイクなどなど…独身の方はもちろん、子育てをしながらオシャレをしたいけれど、いろいろな本を買うことはできないという方が、図書館を利用されるんだと思います。子供が児童書を見ているあいだに短時間で読めるのもいいのかもしれません。

今後の夢は?

大城館長
普及という意味では、電子図書館を作らなければいけないと思っています。みなさん調べ物をする際も、図書館をあまり利用されなくなっています。ボストン図書館は、所蔵資料を電子化したことで世界中からアクセスが増えました。言語の問題もありますし、日本の場合は装丁とか手触りにもこだわりが強いのですが、それも大切にしながらデジタル資料と両立したいですね。
戸山図書館ではたくさんのイベントを行っています。バリアフリー映画会や落語会、クラシックコンサート、子どもたちのための実験教室など。早稲田大学との連携事業も人気があります。「なぜ図書館が?」と思われるかもしれませんが、私は図書館を文化の発信地だと考えているんです。活字の他にも情報がたくさんあることを、企画したイベントを通して知ってほしい。地域密着の拠点として、癒やしと学びを提供して行きたいです。

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新宿区立戸山図書館
〒162-0052 新宿区戸山2-11-101
TEL:03-3207-1191
窓口時間:午前9時~午後7時(火~金)、午前9時~午後6時(土・日・祝)
※児童室は午後6時まで
休館:月曜日、館内整理日(第3木曜日)

TRC(株式会社図書館流通センター):https://www.trc.co.jp/