レポート46 / 2018.02.20
本のプロフェッショナル「印刷・製本」編

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本に関わるプロの仕事を紹介するこのシリーズ。今回は本づくりの基本、「印刷・製本」編です。原稿データがどうやってカタチになるのか、その工程を追ってみることにしました。今日協力してくださったのは、中央精版印刷株式会社さん。なんと、あの大人気漫画『ONE PIECE』も取り扱っている大手で、埼玉県・北戸田に大きな印刷工場をもっています。
今回つくる本はコチラ。

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『こけし姉弟の春夏秋冬』えりごりやん(Parade books)仕様:B5判変型64ページ/ハードカバー
故郷、その美しい季節との出会いと切ない別れの物語。飛騨の山奥でひっそりと暮らす老夫婦とこけし姉弟の実写版昔話風写真集。

広々とした清潔な工場内を、フォークリフトが所狭しと走り回っています。パレットに積まれた本の帯には「●●賞受賞!」など華やかなコピーが書かれていました。うーん、さすがですね。認証つきの重い扉をくぐり、車が入りそうな大きなエレベーターに乗って移動すると、いよいよ印刷機のあるフロアに到着です。
工場内はなんだか、しっとりとした空気。辺りを見渡すと、天井の装置から水蒸気が吹き出ているのが見えました。紙が伸び縮みしてしまうのを防ぐため、施設内は常に湿度25~26度にキープしているそうです。すぐに印刷を見学したいところですが、一旦オアズケ。PCのあるオフィスへお邪魔します。

1.印刷用データの作成

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当然ながら、印刷するためには元になるデータが必要です。このときポイントになるのが、ページの配置。本のような大量印刷物は、1、2ページずつではなく大きな紙(原紙)に何ページ分もまとめて印刷するため、できるだけ紙のムダが出ないように配置します。本や紙のサイズによりますが、大型本は片面8ページ(両面16ページ)、文庫本のような小さな本は片面32ページ(両面64ページ)あたりが一般的です。
今回つくる本は、片面16ページ(両面32ページ)という配置になりました。64ページの本なので、抜群に効率が良いです。

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2.刷版

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次に、できあがったデータを大きなコピー機の様な装置に転送し、アルミ製の版を出力。これを「刷版(さっぱん)」と呼びます。「版」といっても凸凹があるわけではなく、水と油の反発現象を使って、画線部にだけインクが付くようにして印刷します。
出力した版は全部で16枚。「えっ、面付データは4枚だから、版も4枚じゃないの?」と思うかもしれません。確かにモノクロならその計算で合っているのですが、今回の本はフルカラーの写真集。カラー印刷はCMYK(※)4色の掛け合わせで表現され、しかも1色につき1枚が必要なので、4枚×4色=16枚が必要になるんです。
シアン(Cyan=青)マゼンタ(Magenta=赤)イエロー(Yellow=黄)、キープレート(Key plate=黒)
出力が終わったら、前半32ページ分の版(8枚)を印刷機にセットします。

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    巨大な印刷機。版をセットする「印刷ユニット」がラクダのこぶのように突起している。印刷ユニットには、常にインクが送られてきている。(写真左上)/左から順にイエロー、マゼンタ、シアン、ブラックと並んだ大きなインクタンク。(写真右上)/薄く大きな版が吊るされる様に印刷ユニットにセットされていく。(写真下)

3.印刷

いよいよ印刷開始!印刷機のローラー部分に、大きな紙がどんどん吸い込まれていきます。K→C→M→Y。あっという間に4色分の印刷ユニットを通過して、印刷された紙が山積みになっていきます。そのスピードは1時間に約1万枚(!)。
ローラー部分で何が行われているのか、わかりやすく図にしてみました。

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先ほどセットした版は版胴に巻きつけられるのですが、そのまま直接紙に触れるのではなく、1度ゴム胴に転写されます。こうすることでアルミの版がすり減るのを防ぎ、印刷品質も安定するというワケです。この印刷方法をオフセット(転写=offset)印刷といい、大量印刷には最も適した方法と言われています。
前半32ページを印刷したら、版を入れ替えて後半32ページ分を印刷します。今回は64ページの本なので2時間ほどで済みましたが、分厚い本や何十万部も刷る本なら、24時間体制で数週間かかることもあるそうです。

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  • インキローラーはものすごい光沢と発色!(写真左)/印刷の終わった紙が重なるデリバリ部。乾燥させるための粉末スプレーを噴射し、印刷直後の紙同士がくっつかないようにしている。(写真右)

4.断裁

本文が刷り上がり、ここから後半戦。「製本」の工程に入ります。印刷機はあっても製本機がなく、外注する印刷会社も多いようですが、中央精版さんは自社内にどちらの設備ももっています。大量の紙を輸送する手間や万が一の刷り直しなどを考えると、社内で完結できるのは大きなメリットですね。大きな紙の状態では製本できないので、両面32 ページを、両面8 ページ×4 セットに断裁します(断ち割り)。

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5.折り

まだまだ大きいので、さらに紙を2回折ります。このように、製本するために折りたたまれた紙を「折丁(おりちょう)」といいます。
折り工程も専用の機械を使って行われるのですが、仕組みがなかなか斬新。流れる紙に、ナイフをすとんと落として軽く折り目をつけ、その瞬間、折り目の山側を上下2つのローラーで吸い取るように挟み込みます。こんなに薄い紙を高速でちょうど良い具合に折る、という繊細な作業にあらためて驚き。

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  • 2回目の折りでナイフが落ちる瞬間。1回目の折りに対して垂直にナイフをおろす。(写真左)/折った紙がローラーに吸い込まれる瞬間。ものすごいスピードで作業が進んでいく。(写真右)

6.丁合

折丁がたくさんできたら、1折目(1~8ページ)、2折目(9~16ページ)…と実際の本の順番通りに重ねていきます。この作業を「丁合(ちょうあい)」といって、長さ数十メートルの大がかりな機械を使って行われます。
流れてくるトレイに、クレーンで折丁をつかんで載せていくだけ。仕組みは実にシンプルですが、乱丁・落丁が起こればすべてが台無しになってしまうため、ミス防止には細心の注意が払われます。各ポイントにはセンサーを設置。さらに折丁の背中側には目印(背標)がついているので、目視でもチェックできるようになっています。

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クレーン先端の黄色い部分が器用に折丁をつかみ重ねると、バーに押されて隣のユニットへ。(写真上)/背標。斜めのラインを目印に乱丁・落丁がわかる。中にはV字になっているものも。(写真下)

7.糸かがり

本文と表紙をくっつける方法は、「あじろ綴じ」「糸かがり製本」が主流です。

●あじろ綴じ

折丁の背中に切り込みを入れて、接着剤をしみこませる方法。強度が上がる分、本は開きづらくなります。

●糸かがり製本

あらかじめ折丁を糸でかがる(縫いつける)方法。やや割高ですが、接着剤の量は少なく済むので開きがよくなります。見た目はまるで和綴じのようで、歴史を感じる製本方法。

今回は糸かがり製本を採用しました。本の背をしっかり固定したら、コの字型に刃物が付いた断裁機で背以外の三方を切り落とし準備が完了です。これでやっと、最終的なページサイズになりました。

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  • 本を糸で縫い付けるところ。パタンパタンと上下する姿は機織り機に似ている。1時間に大体900冊のペースでかがることができるそう。(写真左)/見た目にも糸の存在感は抜群。このまま表紙を付けずに完成、という「コデックス装」は世界的に流行っている製本(?)方法。(写真右)

8.くるみ製本

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ついに表紙と本文が出合う瞬間。くるみ製本の工程です(ナッツの方ではなく、シンプルに「くるむ」という意味です)。
今回は日程の都合で見学できませんでしたが、表紙も既に印刷済み。ハードカバーなので、本文と同じように印刷した紙を、厚い台紙に貼り付けてつくられます。レポート「ハードカバー製本体験」を見ていただければ、イメージがつかめるかと思います。)
糸でかがった本文をコンベアーに投入すると、まずは万力で押して厚みを均一にします。背の部分に高速回転するローラーでニカワ(糊)、寒冷紗(芯材)をつけ、1番外側の紙(見返し)にも糊づけ。最後に背中側から上昇して、待ち受ける表紙と合体!またたく間に本の形になりました。

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  • 本の背中にニカワ(糊)を塗るところ。ニカワの原料は動物の骨や生皮など意外な素材が使われている。(詳しくは「本の解体ショー」を参照。)(写真左)/上に上がりながら、本文と表紙が重なり接着される(写真右)。

9.仕上げ

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仕上げは手作業。表紙カバー・帯をつけて、スリップ(注文票)を封入します。本のサイズに合わせて、あらかじめ帯や表紙カバーに折り目を付けてから、本にカバーと帯をかぶせていきます。大体の本はここまでですが、今回はポストカードの付録つきなので、ビニール包装(シュリンク)を行います。
シュリンク工程は2段階に分けて行われます。まず本をビニール袋に入れて、熱でふんわりと仮留め。それからコンベアーで、150度に熱した空間に投入します。温度が低いと緩んでしまい、逆に温度が高いと本自体が波打ってしまうので、温度設定のブレは許されません。

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  • シュリンク用の機械は意外と小ぶり。(写真左)/仮留めの状態。これに熱を加えることでビニールが縮み、密着する。(写真右)

10.完成

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ようやく完成!ここまで駆け足で説明しましたが、すべての工程を終えるまでに1週間以上かかりました。
それだけの時間と労力をかけて、やっと1冊の本が生まれるんですね。丁寧につくられた本だから、やっぱり多くの人に見てもらいたい。あらためてそんな想いを強くしました。
モノクロの本、ソフトカバーの本、特殊なインクを使った本。本に合わせてさまざまな印刷の方法があるので、機会があればぜひ、見学してみたいと思います。

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中央精版印刷株式会社
〒335-0032 埼玉県戸田市美女木東1-1-11
TEL 048-421-1611
http://www.seihan.co.jp/