レポート08 / 2016.06.15
本のプロフェッショナル「校正者」編

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本に関わるプロの仕事を紹介するこのシリーズ。今回は、『重版出来!』や『校閲ガール』で、その存在が少しずつ知られている「校正者」編です。校正校閲のプロフェッショナルとして最前線で活躍する、株式会社鷗来堂さんに取材して“リアル校閲ガール”の仕事に迫ります!

校正校閲って、何?

この仕事を簡単に言うと?
「間違いを見つけて本をよくする」仕事です。文字や内容が間違ったまま出版されると、せっかくの本の価値も落ちてしまいますよね。原稿とゲラを比べ合わせ、著者さんや編集者さんの意図どおりになっているかをチェックするのが「校正」、ゲラを読み、言葉の使い方や整合性、事実などに間違いがないかを確認するのが「校閲」です。あわせて「校正」と呼ぶことが多いですね。
仕事の流れは?
主に出版社さんから営業部にオーダーがあります。作業内容を詰めたあと、ゲラが届くと、ジャンルや納期などいろいろな要素を考えた上で、適当な校正者に割り振ります。1回しか校正しないゲラもありますが、初校、再校と数回お預かりするものでも、指摘の視点を変えるために校正者を変えるので、常にドキドキのワンチャンスですね。

どんな仕事?

1日のスケジュールは?
1日中ひたすらゲラを読む(笑)。集中力を持続することが大切なので、合間に音楽を聴く人もいれば、気分転換に散歩する人もいます。座り仕事なので、食後など、どうしても眠くなることがありますが、そんな時は無理して続けるより、寝たほうがいい。10分くらい寝て、しゃきっとしないと、普段見落とさない間違いも見落とします。間違いを見落とさないための環境づくりは、みんな一番に心がけていることですね。
どんなことをするの?
基本的に、1人が1つのゲラと向き合います。場合によっては同じゲラと、数ヶ月向き合うことになります。歴史書の担当を終えたときは、このまま歴史のクイズ大会に出たら優勝できるんじゃないかと思いました(笑)。ただし、終わったら全部忘れてしまいます。この切り替えが結構大事で、ゲラの内容やゲラごとのルールが頭に残りすぎてしまうと、次の案件がやりづらくなったりするので、それも仕事ですね。

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校正をする時は、集中するポイントはもちろんのこと、普段の読書ペースとは全く異なります。

プロの技を知りたい!

こだわりを教えて!
著者さんの「文体」にはあまり触りたくないんです。日本語としては間違っているかな、と思われる表現でも独特の作風として完成している場合があるので、その場合はあえてチューニングを緩めます。単に日本語としての正誤を見るのではなく、ゲラの空気を読めなくてはいい校正はできないのではないでしょうか。一人で行う孤独な作業のようで、ゲラ上ではありますが、意外にコミュニケーション能力も要求されるんですよ。当然納期との戦いもあります。限られた時間の中でより良い作品となるよう、いかに自分の校正力を発揮できるか。そう意識しながらも、毎回、自分の仕事に満足してはいけないとも思っています。

また「正確な情報」にたどりつくことが大事。昔と比べて調べ物はWebを利用することが多いのですが、Webではどうしてもたどり着けない情報もあります。そんな時は図書館に赴き、地道に資料を当たることも珍しくありません。人にもよりますが、国語辞典を使い分けたりします。新しい言葉ならこの辞典、用例が多いのはこの辞典、といった具合に。差別とされる用語や表現、最先端の言葉を知っておくのも大事ですので、日々アンテナを張っておくことですね。
どんな道具を使うの?
まずは鉛筆とシャーペン。鷗来堂では、ゲラを読んで指摘や疑問出しをする場合は、基本的に鉛筆やシャーペンを使います。芯はHBよりB以上を好む人が多いです。筆圧を調整することで、はっきりと書けて、消しても跡が残りにくいからです。

次に赤ペンですが、修正指示の出た箇所を書き込むときに使います。その際、修正液も使いますが、ゲラの文字が消えないよう細心の注意を払います。青鉛筆は修正指示がちゃんと直っているかのチェック用です。筆記用具も日々進化しているので、いろいろ試して自分にあったものを探すのも楽しいですね。

定規は引き出し線(該当箇所から指摘を書く余白まで線を引っ張る)用。人によっては、文字を追っている行に集中するために、次の行を定規で隠しながら読む人もいます。当然、辞書は最新のものを使っていますが、わざわざ旧い版と見比べたりすることも。

最後に鷗来堂のオリジナル級数表。耳慣れないかも知れませんがプロの知恵がぎゅっと詰まったツールで、紙面に並ぶ文字の大きさや、行間を測ったりするときに使います。編集者でもめったに使わないマニアックな機能が満載で、校正者を目指す人は必携!

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2つの原稿を並べて比べる時は、赤ペンと青鉛筆の二刀流スタイルがかっこいい。

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赤ペンはジェットストリーム スタンダード/0.5mm、ユニボール シグノRT1/0.28mmなど、校閲部の中でも好みはさまざま。

プロの視点
本来の意味と違う用法で使われている言葉を聞くとやっぱり気になりますね。あらためて言われると、すぐに気がつくんじゃないでしょうか。

例1:おもむろに

本来「ゆっくりと」という意味。「不意に」という風に使われることが多い。

例2:一番最初に

繰り返さなくても、一番=最初ですよね。こういう表現を「重言(じゅうげん)」と呼びます。

この仕事ならではのこと。

嬉しいこと、辛いことは?
発売前の好きな作家さんの本を読めたりとか。逆に、普段なら手に取らないジャンルに触れることで、新しい世界が開ける場合もあります。著者さんから「ご指摘ありがとうございます」とメッセージをもらった時は、やっぱり嬉しいですよね。

辛いこととしては、1日中座っているので眠気と運動不足(笑)。体調管理と精神の安定はみな気を遣っています。仕事なので当然といえばそれまでですが、お酒を飲んだら絶対にできない仕事なので「飲んだら読むな」です(笑)。
職業病ってある?
街で誤植を見つけると気になる人もいるようです。私は完全にスイッチをオフにしてるので、読書中に誤植を見つけた経験は無いですね。実は向いていないのかもしれません(笑)。

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校正者になるには?

仕事に就いたきっかけは?
私は書店員をしていたんですが、校正の仕事が気になっていて、日本エディタースクールに通って勉強したんです。大学時代から編集サークルに入っていたような人もいれば、全く違う業界からくる人もいます。特にこのルートが一番多いというものはないようです。未経験者もたくさんいますし。最低限、書店・出版業界に興味があるというのは、みんな共通しているところではありますね。
どんな人が向いてる?
プロとして、全ジャンルを読めなくてはいけませんから、何事にも興味をもって臨める人が合っていますね。あとは、イライラしないことも大切。間違いを見つけていく仕事なので、とにかく集中。しかし物語に入りこみすぎるのも要注意です。ほかには、字がきれいな人は基本的にプラスな印象です。同じ指摘をしても説得力が違ってきます。ただ、熟練を重ねてくると、少し雑味のある字というのが好まれる場合もあります。たとえば飲食店で、普通の店員さんはお客様相手に丁寧語ですが、店長クラスだと友達のように喋る人もいて、その親しみやすさにお客様が集まるということがありますよね。そういうのは人の世の不思議。もちろん指摘の理由が妥当であるのが前提であり、基本的には丁寧であることが大切だと思います。

最後に、校正者にとって一番必要なことは何か聞いてみました。
「……辞書を使うこと、ですかね」長い沈黙のあと、そんな風に答えてくれました。疑問が出てきたら辞書を引くというのは当然ですが、自分の記憶に間違いがないか確認のために引くのは、自分を過信しないための極意だそうです。簡単な漢字や単語でも、意味の使い方を間違えて覚えていることが、意外とあります。この1ヶ月で辞書を引いたことがある方は、校正者に向いているかもしれませんね。鷗来堂は、校正者を育てる新たなクラスを開講するので、この仕事に興味のある方には絶好のチャンスです。

株式会社 鷗来堂
2006年創業。高い技術と豊富な経験を持つ、書籍の校正・校閲を専門とするプロフェッショナル集団。校正校閲に関する講座も主催しており、初心者向け、校正者を目指す方向けなど、幅広い層に向けて展開している。近年、新しいスタイルの書店「かもめブックス」をオープン。
www.ouraidou.net