レポート29 / 2017.05.02
本のプロフェッショナル「書店員」編

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本に関わるプロの仕事を紹介するシリーズ第4弾は「書店員」。今回は大阪・心斎橋のランドマークとして長年親しまれている、心斎橋アセンスの磯上竜也さんに取材しました。身近な存在でありながら、知っているようで知らない書店員の仕事の魅力に迫ります。

書店員とは?

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この仕事を簡単に言うと?
お客様と本との出合いをサポートする、そんな仕事です。最近「読書離れ」なんて言葉をよく聞きますけど、全然読書をしない人が増えたというよりは、どういう本を読んでいいかわからないという場合も多いんじゃないでしょうか。そういう方に、「ミステリーならこの本はどうでしょう?」「こんなおもしろい新刊が出ていますよ」と提案するのも、書店員の仕事だと思います。
私が本を読むようになったのは、国語の便覧がきっかけでした。「教科書に載るくらいの偉い人が書いた小説なんだから、おもしろいんじゃないかな?」と、パッと開いたページの川端康成『みずうみ』に衝撃を受けました。文章がうまいかどうかは当時わからなかったんですが、高校教師がストーカーする話だったので「文豪がストーカーの話を書いている!」ということに衝撃を受けたんです(笑)。といった具合に、きっかけは人ぞれぞれですから、本の面白さに気付く手助けになるような売り場をつくっていきたいですね。
1日のスケジュールは?
毎朝、取次店から本が届きます。新刊と売れた分の補充で、多いときは5、6箱になりますね。それを各棚の担当者に振り分けて店頭に並べます。その後はオープンに向けて店内清掃をしながら、前日に売れた商品の確認・発注作業。11時にお店が開店すると、レジや接客が主な業務になります。夕方になると、翌日に入荷される本のスペースを空けるため、売り場を整理して返品作業を行います。これが大まかな1日の流れですね。あとは業務の合間に出版社から新刊書籍の営業を受けたり、POPをつくったりします。
どんなことをするの?
目当ての本だけではなく、新しい本に出合ってもらえるように、試行錯誤しながら売り場をつくっています。「考える棚」「緑の棚」「暮らしの棚」などわかりやすいキーワードでくくった棚を設けたり、売り場の一角を使ってフェアを行ったり、本の面白さを伝えるPOPをつくったり。「知らなかった本に手が伸びるような書店にしたい」というのがうちのスタンスです。インターネット書店でも購入履歴からオススメの本が出てきますけど、ジャンルをまたいで本を並べてみたり、合わせて雑貨を販売したり、リアルの店舗でしか楽しめない視覚的な仕掛けをいろいろと考えています。
また、イベントスペースを使って出版社との合同企画も行います。具体的には絵本作家のパネル展示や、写真家のトークイベントとか…。例えば、芥川賞作家・藤野可織さんのサイン会を企画したりしました。作家のスケジュールが合わなくて断られることもありますが、書店に来る人をどんどん増やしたいので、積極的に出版社に働きかけています。現在展示中の(取材時)山田かおりさんの『猫には嫌なところがまったくない』という本のパネルも、出版社に相談して画像データを提供してもらったんですよ。
出版社との信頼関係はやっぱり大切ですね。本の売れ行きを伝えるために、営業の方の来店を待って「この本売れましたよ」と直接注文したり、FAXで「これだけ売れました」と一筆添えて注文したり、きちんと反響をお返しするよう心がけています。

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プロの技を知りたい!

こだわりを教えて!
売り場が個性的過ぎてもお客様にとってはうるさいだけなので、自分の趣味が出過ぎないようにしています。新刊書店の場合は、目当ての欲しい本があって来店するお客様がほとんどなので、まずはそういった方に満足していただけるような品揃えを心がけています。人気作家の新刊や話題作が発売される時は「たくさん売りますんで、配本増やしてもらえませんか」と出版社にお願いすることもあるんですよ。
毎日たくさんの新刊本が届くので、それだけでいろんな情報が集まります。興味のなかったジャンルやテーマでも、入ってきた新刊を見て気になることがよくあります。流行っているもの、問題になっていることなど、新たな情報がどんどん集まるのが新刊書店の魅力だと思うんです。私、出不精なんですけど、書店に勤めているというだけでトレンドの情報が手に入るので助かっています(笑)
どんな道具を使うの?
特にこだわりの道具というのはないんですよね(笑)。強いていうならパソコンでしょうか。発注作業も主にパソコンで行います。うちはデザイン室という部署があるので、POPはそこでつくっていますが、小さなPOPはパソコンでつくります。特殊なソフトは使っていなくてWordで(笑)。慣れると5分くらいでつくれちゃうんです。あとは……棚替えなんかをするとどうしても埃が出るので、ダスキンのモップとか?(笑)。
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プロの視点
フェアの企画を考えている時、ヒントを求めて他の書店に行きます。「あ、この本いいかも」と直接的なアイデアをもらうこともありますが、他の書店と比較することで自分の売り場を客観的に見ることができます。発見が多くてかなり勉強になりますね。他の書店では本を買わない、なんてこともなく、むしろ良い展開のフェアや棚に出合って「あ、やられたな」と思ったら購入して参考にしています。敬意を込めてそのお店で本を買うようにしています。もちろん自分のお店であるアセンスが一番面白くありたいですし、生き残っていくことが大切なんですけど、排他的になるのは嫌なんです。

この仕事ならではのこと。

嬉しいこと、辛いことは?
「なんかその本読んだら元気になるみたいやねん…」とか「表紙がオレンジ色っぽい…」とか、テレビやラジオのアバウトな情報で本を探しにこられたお客様に、「これですね」と目当ての本を差し出せた時はすごく手ごたえがあります。お客様も「これ!これ!」と一緒になって喜んでくださるので、相乗効果で嬉しくなります。他には、自信を持って置いたものが売れると嬉しいですね。辛いのは、その逆に「これは売れる!」と確信して仕入れた本が売れなかった時。何より出版社や著者の方に申し訳ない気持ちになります。売上がどうこうよりも、本の魅力がちゃんと伝わらなかったことの悲しみが大きい。どんな本も必要な人に届けば売れるはずなので…。ただおもしろいと思ったから棚に並べる、ということではダメで、ふらっと書店に入ったお客様に提案を届けられるような売り場づくりを追及しないといけないと思います。
職業病ってある?
ほかの書店に行くといつの間にか棚の乱れを整えているんです(笑)。文庫を数字順に並べたり……。これはどこの書店員もそうだと思いますよ!

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書店員になるには?

仕事に就いたきっかけは?
高校生のころから本に興味はあったものの、自分が本について全然知らないことに気づいたんです。本のことを知るなら本屋で働いたら早いだろう、そんな適当な感じで思ったのがきっかけ(笑)。アセンスを選んだのは、一般書店として話題の新刊をしっかり押さえていながら、棚を一つずつを見ていくとすごく個性がある、このお店でなら自分の知らない本をたくさん知ることができそう、そんな売り場づくりに興味を持ったからです。入社してからは、本を積極的に読むようになりましたね。それまでは作家の名前もあんまり知りませんでした。当時は変なこだわりを持っていて、亡くなった作家の作品しか読まないようにしてたんです。「全部読んだ」「全部揃えた」という感じが好きだったので、新作を書かれたら困るということで(笑)。もちろん、今はそんなことはありません。
どんな人が向いてる?
どんな人でも向いていると思うんです。人それぞれ興味があることは違いますが、その興味についての本は必ず出版されていますから。本を全然読まない書店員も知っていますしね(笑)。「本が好き」というだけで向いているかというとちょっと違うけど、接客が得意だったらそれで成り立つ部分もあると思うんですよ。新刊書店はどんどん新しい本を入荷して柔軟に売り場をつくっていく必要があるので、本にこだわりがありすぎる人は向いていないかもしれませんね。

文芸書、ビジネス書、人文書と幅広い棚を担当している磯上さん。その品揃えやお話の随所から、読書家であることが伝わってきましたが、それ以上に感じられたのがお客様想いの姿勢です。「自分は本が好き」ということよりも、「お客様はどんな本が好きか」。良い本をちゃんと届けたいというホスピタリティが、書店員にとって大切な技術なのかもしれません。

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心斎橋アセンス
〒542-0085 大阪府大阪市中央区心斎橋筋1丁目6-10
1986年にオープンしてから大阪・心斎橋のランドマーク的な本屋として、地域の人々、心斎橋を訪れる人々、作家、クリエイター、アーティスト、多くの人に愛されてきた。
2016年10月にリニューアルし、本の楽しさを発信し続けている。
http://www.athens.co.jp/