レポート24 / 2017.2.14
ハードカバー製本体験

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お気に入りの本ほど、何度も読んでいるうちにカバーがぼろぼろになってしまいますよね。特に文庫本のようなソフトカバーだと、どうしても傷むのが早くなります。ハードカバーだったら、もっときれいに保存できたかも…。そんな風に考えたことありませんか?
実は最近、ソフトカバーの本をハードカバーに仕立て直すのが密かな人気なんです。製本なんていかにも難しそうですが、意外に自分でもできるんですよ。というわけで、生地を持参して実際に仕立て直してみることにしました。

素材の準備。

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今回用意した本は、トーベ・ヤンソンの『ムーミンパパ海へいく』。ムーミンのテキスタイルがカバーになったら素敵だろうな、ということで探した結果、作中の挿絵をモチーフにした綿のハンカチがあったのでカバーに使いましょう。素材はB4程度の大きさがあれば、綿、絹、もちろん紙もOKです。そのほかハードカバー製本に必要な見返し・スピン・花布はアトリエで選ぶことができます。色や柄など種類が豊富すぎて、あれこれ迷ってなかなか決められない…。

協力していただいたのは、大阪・南森町の「本のアトリエEIKO」。主催の中尾エイコさんは、海外の製本コンクールでも入賞経験のある本格派で、アトリエで製本を教えるほか、各地でワークショップも開催しています。製本教室は少ないので、北海道や九州からも生徒さんが集まります。ちょっとしたコツで仕上がりに大きな差が出るため、独学で始めてみたけどどうもうまくできなくて…とアトリエを訪れる方も多いそうです。

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  • 選べる紙のほんの一部(写真上)/花布だけでもこの種類(写真左下)/中尾さんオリジナルのほつれにくいスピン(写真右下)

カバーを作る。

ハードカバーは、柄の入った紙や布をボール紙に巻いて仕上げますが、綿を使用する場合、柔らかすぎるのでそのままでは巻けません。まず、和紙に裏打ちをして強度を出します。ベニヤ板の上に水で濡らしたハンカチを広げ、余分な水分を取ったら、糊の付いた和紙をかぶせてブラシで叩きます。なんだか楽しい作業ですが、和紙とハンカチの繊維を密着させるための、とても大事な工程なので油断は禁物です。

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  • タオルを使ってしっかり水分をとり、乾いたブラシでトントン叩いて密着させる。

しっかり乾いてハリが出たら、ベニヤ板から剥がしてひと段落。
本のサイズに合わせてボール紙をカットします。オモテ表紙、背、ウラ表紙、それぞれ誤差1mm未満のレベルで正確にサイズを計算。目がチカチカしてきますが、手間を惜しんではいけません。ボール紙の角は少し削って丸みを出すのがポイント。こうしないとカバーの角で布が破れてしまったり、シャープすぎる印象になってしまうんだそうです。
「これはきっと初めてだとできないと思うけど…」と中尾さんが見せてくれたのは、カッターナイフを斜めに寝かせて、ボール紙を薄く削り取る熟練のワザ!確かに初心者にはとてもマネできそうにありませんが、代わりに紙ヤスリを使って削ってもいいのでご安心を。ちなみに今回は、3枚のボール紙を薄い紙であらかじめ接着して作業しました。中尾さんおすすめの失敗しにくい方法です。さすが人気の先生、不器用な人にもやさしい製本です。

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  • 簡単にはマネできないワザ(写真左)/3枚のボール紙を薄い紙でつなぐ、中尾さんオリジナルの方法(写真右)

次に、裏打ちした布をボール紙より一回り大きくカットします。表紙の絵柄が決まる大事な工程です。さんざん悩んだ結果、今回は『ムーミンパパ海へいく』なので、オモテ表紙に主役のパパがくるようにしました。大きな柄の場合、どの部分を使うかで本の表情がガラリと変わります。折り込みやすいように布の四隅を斜めにカットしたら、ついにボール紙と合体。布全面に糊を塗って慎重に貼り付け、はみ出た部分を内側に折り込む。これで終わり…と思いきや、布とボール紙の段差を埋めるために紙を貼るのが隠し味。こういうひと手間が大切なんですね。

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  • 使わない部分もすてきなのでもったいない(写真左)/段差を埋める紙を貼り、しっかりこする(写真右)

さあ、オモテ表紙にタイトルを入れる緊張の瞬間!元々の表紙カバーを切り取って貼り付けることも多いそうですが、今回はオリジナリティ重視で、ホットペンで箔押しすることにしましょう。ホットペンでロール箔をなぞると、熱で箔が転写されます。楽しいけど緊張…。布の柄に溶けこむように、白いロール箔で原題を小さくいれました。

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ホットペンでロール箔をなぞると、熱で箔が転写される。

本の準備

あとはハードカバーと本をくっ付けるわけですが、そのために表紙を剥がす必要があります。本文が破れてしまわないように、外側に向けて慎重に…ゆっくりと…。表紙を剥がしたら、次は見返し。2つ折りにした見返しの折り目側5mmほどに糊を付け、本の背に沿って貼り、余分な部分をカットします。ぷらぷらと外側の紙が遊んだ状態ですが、こちらはハードカバーとくっつきます。

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  • 製本の技術が上がり、昔の本に比べて剥がしにくくなったそうだが、なんとかキレイに剥がせた(写真左)/外側の紙がカバーと接着される(写真右)

花布とスピンを本のサイズに合わせて切ります。「本の対角線より少し長めにね!」と中尾さん。「対角線より長く?けっこう長い…?」と考えていたら、「スピンをつまんで本を開くとき、弧を描いて本の対角線上を通るでしょう?だから、それよりも長くないとね」。普段は意識していないけど、作ってみると、あらためて納得です。さらに強度を高める「寒冷紗」、開きをよくするクラフト紙「クータ」を準備。材料がすべて揃いました。

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左から見返しを付けた本、スピン、寒冷紗、花布、クータ。

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  • スピンは本の幅の中央にくるように(写真左)/背の天地に花布をのせる(写真右)

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  • 寒冷紗は指でしっかりこすって接着(写真左)/クータを接着して本体の準備は完了(写真右)

カバーと本を合体

いよいよカバーと本をドッキングします。本の背にたっぷりと糊を付けて布に貼り付け、本を閉じたら背に向かって力いっぱい押し込みます。
「ぐっと押し込んで!」
「本がカバーから飛び出そうとするから、もっと力を入れて!」
中尾さんからの檄に、思わずお腹に本を当てて押し込むと
「お腹に当てちゃダメ!」
とすかさず注意。

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  • カバーにたっぷり糊を付ける(写真左)/本の背に糊を付ける(写真右)

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位置を整えたら、すかさず力いっぱい押し込む!

しっかり接着させたら、みぞを作ります。温めたコテをボール紙同士のすきまにグイグイ押し込む。遊んでいた見返しとカバーを糊付けしたら、すかさず板に挟んでプレス機でプレス!しっかりと形を定着させるため、3日ほどプレスするのが理想ですが、紙でぴっちり包んで、本の間に挟んでおいてもOK。

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  • みぞを作る(写真左)/プレス機でしっかり抑えないと、本が開いた状態で定着してしまう(写真右)

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完成!想像以上の仕上がりに感激です。
糊を塗る時にハケを動かす方向や、布の角をキレイに折り込むコツなど、細かなポイントを先回りしてアドバイスしてくれるので(見かねて直接手が伸びてくることも)、初心者でもとてもきれいに作ることができます。用意する布は新品でなくてもかまわないので、思い出の生地で本を仕立てるのもいいですね。中尾さん自身も、娘さんの使っていたパジャマの生地を使って、娘さんのお絵かき集を作ったことがあるそうです。まさに世界に一冊の本、素敵ですね。
初めて製本を体験してみてわかったのは、たくさんのパーツが正確に合わさって、はじめてきれいな本ができ上がるということ。本が生まれ変わっただけでなく、ハードカバーの造りや仕組みを知る興味深い研究となりました。

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「本のアトリエEIKO」主催の中尾エイコさん

本のアトリエEIKO
〒530-0043 大阪市北区天満3-12-19-101
TEL 06-6351-4887 FAX 06-6351-4648
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