レポート28 / 2017.04.14
ブクブク交換 in 西国分寺

イメージ

「ブクブク交換」というイベントが盛り上がっているらしい。やることはシンプルで、テーマを決めて本を持ち寄り、自己紹介と本の紹介をして、欲しい本と名刺を交換するというもの。まずは動画サイトで映像をチェックしてみると、世代を超えてざっくばらんに会話しており、ふむふむ確かに楽しそう。ということで、さっそく参加兼取材を申し込むことに。急なお願いにもかかわらず、今回の主催者であるセキさんのご協力により、許可をいただくことができました。今回のテーマは「笑」。小難しいテーマよりマシかと思いきや、あらためて考えるとハードルが高い……。

みなさん、はじめまして。

イメージ
クルミと名がつく通り、ひょいとリスが顔を出しそうなかわいらしい造り。

ブクブク交換とは、イベントプロデューサーのテリー植田さんが発案&主宰となり、日本全国21都市で開催されている本の交換会。今回の会場であるクルミドコーヒーは、中央線・西国分寺駅から歩いてすぐの場所にあります。さまざまな本のイベントを開催しているほか、クルミド出版として本づくりにも取り組んでいるそうです。日が暮れてからの開催とあって、なんだかヒミツの夜会に参加するようなワクワク感が漂います。飲み物を注文して、まずは自己紹介からスタートです。

セキさん
私は旅先で本屋さんに行くのが好きで、あるとき静岡の書店で「ブクブク交換やってます」ってチラシを見つけたんです。調べると、八王子の本屋さんでもやってることがわかり、参加してみたらすごく楽しくて。本の紹介を通して、初対面でもキャラクターがよくわかるのが新鮮ですよね。結局参加者だったのはその一度だけで、あと10回くらいは主催しています。
キノモトさん
普段は高校の図書館で司書をやっているんですが、本のイベントに興味があったので、ビブリオバトル※にも参加したことがあります。ブクブク交換は、薦める本を手放すわけですが、思いがけない本が手元にくるのが嬉しくて、すっかりハマっています。去年は16回も参加しまして……、最近は主催もしています。
※5分間で本を紹介して、どれが読みたくなったか「チャンプ本」を決めるゲーム
研究員
普段は素人の方の本づくりをお手伝いしています。「本づくり研究所」というサイトを立ち上げて、本にまつわる取材をしています。これまでは書店をはじめプロの方を取材することが多かったんですが、実際に本を読まれる方の声もぜひ聞いてみたいと思って応募しました。

イメージ
参加メンバーは、男性が研究員の自分を含み2人、女性5人という華やかな回。

クルミド出版 イマダさん
このお店で働いています。現在はお店に立っている時間が1割くらいで、あとはクルミド出版という小さな出版社をやっています。去年は「book cafe KURUMED COFFEE」という本を紹介するイベントを月に1度行っていました。ブクブク交換は今回は2回目の参加ですが、楽しみです。
ノウトミさん
セキさんと友人で、ブクブク交換は3回目です。本について話すのは難しくて、何を喋ったか覚えていないくらいなんですけど、その緊張感も楽しいんですよね。キノモトさんとも以前ご一緒させていただいて、本を交換したことがあります。そのとき紹介していただいた本は、あとからシリーズで買うくらい気に入ったので、今回も良い本と出会えればと思っています。
ミツモリさん
私、ただ本を交換する会だと思ってたんですが、しっかりお話しするんですね。今、すごく緊張して唇が乾いているんですけど……。私は、国立本店という本好きが集まるスペースのメンバーをやっています。いつか本のイベントをしたいなと思っていたので、勉強のために来てみました。本当にふらっと来てしまった感じで。
カツミさん
セキさんとは「土鍋 de 朝ごはん」というイベントで知り合いました。本が好きなので参加しました。よろしくお願いします。

こうして自己紹介が終わり、一斉に本を取り出す瞬間。本について話す準備はしていましたが、まさか出すときに緊張するなんて!何かを打ち明けるというか、心の服を一枚脱ぐような感覚があります。きっとこれが病みつきになるんでしょうね。参加者の方々には「人に紹介するとなると、みんな売れ筋ではなく一回転半ひねった本をもってくる」という傾向があるそうです。なるほど、私もまさにそんな感じで本を選んでいました。

どんな本持ってきたんですか?

イメージ
バーン!ということで、今回の本はこんな感じ。雑誌、マンガ、写真集、エッセイ、小説と幅広いジャンルが揃いました。みなさんは目についた本がありますか?

ブクブク交換の流れを説明しておきます。まずは主催者のセキさんが自身が持参した本を紹介。終わったら、セキさんが気になっている本を指さします。その本の持ち主が、自分が持参した本についてまとめて話す、という流れです。本の紹介は、内容でも、好きな理由でも、出会いでもなんでもOK。

セキさん
『旅はゲストルーム』浦一也(知恵の森文庫)
建築家の方が世界中を旅して、高級ホテルのゲストハウスを図面に起こした本です。もちろん実際に上から見たわけではないんですが、ホテルに入った瞬間採寸して書き起こすみたいです。アメニティグッズの絵なんかも描かれています。写真もいいんですが、絵も個性が出ていいなあと思います。作者は26色の絵の具とパレットをいつも持ち歩き、旅先でうまく表現できない色があったら、カーぺットの一部を削って持ち帰って再現するとか(笑)。その情熱に思わずクスッとしてしまう本ですね。
『漁港の肉子ちゃん』西加奈子(幻冬舎文庫)
ベタな本でスミマセン…。ってみなさん読んだことないんですか!? 信じられない! 主人公の肉子ちゃんは男運もないし、洋服のセンスも良くないし、貧乏で借金もある。設定は散々なんですが、生きてるだけでラッキー!ハッピー!みたいな楽しい本。西加奈子さんの本は何冊か持っていますが、最高傑作だと思います。彼女独特のセンスで、えぐい暗さが笑いになる文才が素晴らしいですね。

イメージ
セキさん

セキさんが気になった本は『CASA BRUTUS No.165 読み継ぐべき絵本の名作100』。ノウトミさんが持ってきた、今回唯一の雑誌です!

ノウトミさん
『CASA BRUTUS No. 165 読み継ぐべき絵本の名作100』マガジンハウス編集・発刊
私は雑誌が好きで、表紙の『ぐりとぐら』を見ただけでみなさんの顔が緩むんじゃないかと思って持ってきました。有名な本の制作秘話や、私が昔から好きな谷川俊太郎さんオススメの本、日本と外国の絵本美術館のこと、食がテーマの絵本、男の子向けの絵本など、いろんな切り口で紹介されています。絵本は時間が経っても色あせないので、まさに永久保存版!ですが、今日は交換会なので手放さなきゃいけません(泣)。
『本気になればすべてが変わる―生きる技術をみがく70のヒント』松岡修造(文春文庫)
あの熱いキャラクターから、日本の天気を左右すると言われるなど、ネタになっていますよね(笑)。でも元一流選手だけあり、実はすごくロジカルな方。実体験に基づいた指導方法やエピソードがたくさん書かれていて、あのポジティブなエネルギーにも理由があるんだな、と思わされます。「落ち込み・イライラ・無気力からのリセット術」といったビジネス書的な見出しで、一般の方も参考になる考え方がたくさん。読み終わると前向きな気持ちになれますよ。
  • イメージ

    イメージ

  • ノウトミさん

ノウトミさんが気になった本は『笑った』。何を隠そう研究員の持ってきた本、ついに来た!やっぱり喋るのも緊張しますよね・・・・・・。

研究員
『笑った。』高橋昇(本の雑誌焚き火叢書)
高橋昇さんは、篠山紀信さんのお弟子さん。文字通り世界中を歩き、「笑って」とカメラを向けた写真集です。困ったように笑顔を浮かべる男の子、真顔でじっと見つめ返すスペインの少女のほか、モンゴルのお母さんは「いまさら夫婦で写真撮られるなんてやだよ~」と、いかにも日本的なノリをもっていたり、ページをめくるだけで楽しいですよ。飾らない文章も魅力的で、「人はなんで笑うんだろう?」「まあいっか」と自問しながら、旅は楽しいから別れが辛くて、だから仕方なくて笑うんだ。そんな答えを最後につぶやいています。
『バカボンのパパよりバカなパパ 赤塚不二夫とレレレな家族』赤塚りえ子(徳間書店)
笑いといったらこの方は欠かせません。赤塚不二夫さんの本はたくさんあって「赤塚論」のような難しいものもありますが、この本は娘さんが書いているのがポイント。家族の目線なので、すごく親近感が湧きます。また、家族ならではの秘蔵写真も満載。夫婦で手を繋いでいる写真はないのに、足を繋いでいる写真が残っていたり。圧倒的なバカバカしさです。離婚、病気、死と重いテーマも扱いますが、笑わせるより笑われて死にたいと言った、人としての透明感が光る一冊です。

研究員が気になった本は『へろへろ雑誌『ヨレヨレ』と「宅老所よりあい」の人々』。
文字通り、緊張感から解放されてへろへろでした。クルミド出版のイマダさんにバトンタッチ。

イメージ
イマダさん

イマダさん
『へろへろ雑誌『ヨレヨレ』と「宅老所よりあい」の人々』鹿子裕文(ナナロク社)
本棚に笑いがあまりなくて……、自分は本に笑いをあまり求めてないんだろうな、と。唯一あったのがこの本です。「ヨレヨレ」っていう福岡の宅老所をテーマにした人気雑誌を、一人でつくっている鹿子さんが書いた本です。飾ることのない日常を描いていて、大変だけど面白おかしい。ユニークな方で、宝島社でエロ本のようなものをつくっていたんですが、嫌になって辞めてしまい、10年くらい鳴かず飛ばずだったんです。そして宅老所に流れ着き、過去の経験を生かしてまた雑誌をつくるようになったわけです。
「ヨレヨレ」には谷川俊太郎さんも絡んでいるんですが、扱いがひどくて……。ファンの方には衝撃のようです。創刊号の帯に「谷川さん、あんた認知症でしょ」って書いてあったし、あるチャリティイベントで谷川さんが何も持ってこなかったとき、宅老所のおばちゃんに「脱ぎなさいよ」と言われ、谷川さんも言われるがまま上半身裸になったとか……。もちろんそれも愛があってのことで、谷川さんもまんざらじゃなかったみたいですが(笑)。

イマダさんが気になった本は『ジャージの二人』。持ち主のミツモリさんは、本当にふらっとやってきてしまったことを嘆いてらっしゃいました。

ミツモリさん
『ジャージの二人』長嶋有(集英社文庫)
表紙がとにかく和やか。映画化もされている作品です。作家志望でうだつの上がらない30代の息子と、そのお父さんの様子を描いた話。ただ、本当に何も起こりません。二人で避暑地の軽井沢に行き、東京が気温38度と聞けば「ヨシッ」と喜んだりとかそれくらいで。きっと著者の長嶋有さんの実体験なんじゃないかなあ。長嶋さんのお父さんが国立で古道具屋をやっていると聞いて、行ってみたことがあるんです。初対面なのに食べかけのパンを「食べる?」って差し出されました(笑)。すごくトリッキーな方ですね。独特の魅力でクスリとくる本です。本当に何も起こらないんですけど(笑)。
『悪意とこだわりの演出術』藤井健太郎(双葉社)
TBSで水曜日のダウンタウンという番組をつくっているプロデューサーが書いた本です。この方が手がけるのは悪い笑い。芸人さんに目隠しをして遠くに連れて行き、鳩の帰巣本能と競わせるとか、尖った企画が多いですね。ただ、その笑いのなかにも緻密な計算があって、番組のナレーションやテロップもとことんこだわっているのがわかります。まさに天才、ぜひ見て欲しい本です。水曜22時『水曜日のダウンタウン』よろしくお願いします。誰なんでしょうね、私は(笑)。
  • イメージ

    イメージ

  • ミツモリさん

気になった本は『ガイコツ書店員本田さん(2)』。キノモトさんの本で唯一の漫画。

キノモトさん
『ガイコツ書店員本田さん(2)』本田 (ジーンピクシブシリーズ)
書店員の日常を描いた、実話のエッセイコミックです。pixivという漫画サイトにもUPされているので、そこでなら無料で見れます。今回持ってきたのは第2巻。というのも第2巻発売時に、書店によって違うチラシが封入されたんです。違うチラシ入りのを見つけたら買おうと思っているので2巻にしましたが、1巻から読まなくても全然楽しいのでご安心ください。鋭い人間観察が魅力的な作品です。問い合わせにすぐテンパってしまう主人公をはじめ、店員、お客さん、登場人物がみんな個性的なんですよ。どこの書店がモデルかはわからないけど、やたら外国のお客さんが登場するのでもしかしたら秋葉原かな?と思ったりしています。興味があったら、まずはWebで見てみてください。
  • イメージ

    イメージ

  • キノモトさん

最後はカツミさん『世界から猫が消えたなら』と『ランドリー』。

カツミさん
『世界から猫が消えたなら』川村元気(マガジンハウス)
30歳で死を宣告されてしまい、悪魔から「世の中から何かを消したら1日命を延ばす」と告げられる話です。私ならそのままの日常を続けると思いますが、主人公はまず「ジェット機からスカイダイビング」、「恋がしたい……」など、死ぬ前にしたいことを10個書き出します。死の宣告、なんて話ですが、登場人物の悪魔のノリが軽くて、悲しくはありません。むしろほっこりする話なんです。映画もおすすめです。今日はみんな宣伝していますね(笑)。
『ランドリー』森淳一(メディアファクトリー)
頭にケガをして障害のある男の子が主人公。コインランドリーで洗濯物の見張り番の仕事をしています。そこに色んな人がやって来るんですが、ある女の人が洗濯機のなかに忘れ物をして、男の子が届けに行くことで物語が始まります。登場人物のなかでもお気に入りはサリ-です。映画では内藤剛志さんが演じていて、それもまた味があるんですね。
2冊とも、障害を乗り越えて「人生って愛しいなあ」って笑顔になれる本です。

イメージ
カツミさん

では、交換しましょう。

イメージ

全員の紹介が終了し、甘いものをオーダーしてちょっとシンキングタイム。自分では手に取らないような本もあり、書店で迷うのとはちょっと違う感覚です。交換方法は至ってシンプル。またしても指さすだけ。「いっせーの!」で指差した結果……、わりと偏りました。ひとまず研究員の本はドラフト1位指名ならずです。無念。一番人気は3 人が指さした、イマダさんの『へろへろ』。ジャンケンの結果、ミツモリさんの手に渡りました。さすが出版社の方。確かに読みたくなる紹介でした。こんな調子で交換会はどんどん進み、最終結果は以下。

  • イメージ

    イメージ

  • セキさん『本気になればすべてが変わる』『ランドリー』(写真左)/ノウトミさん『ガイコツ書店員本田さん』『笑った。』(写真右)

  • イメージ

    イメージ

  • イマダさん『CASA BRUTUS No. 165 読み継ぐべき 絵本の名作100』(写真左)/キノモトさん『旅はゲストルーム』(写真右)

  • イメージ

    イメージ

  • ミツモリさん『へろへろ 雑誌『ヨレヨレ』と「宅老所よりあい」の人々』『バカボンのパパよりバカなパパ』(写真左)/カツミさん『漁港の肉子ちゃん』『悪意とこだわりの演出術』(写真右)

イメージ
研究員『ジャージの二人』『世界から猫が消えたなら』

私がゲットしたのはこの2冊。『ジャージの二人』は見たことがなかったんですが、普段なら先に映画で見てしまうだろうな、と思ったことと、ミツモリさんの脱力系プレゼンに誘われました。『世界から猫が消えたなら』は、書店でさんざん見かけながらもあと一歩手が伸びていなかった本。背中を押してもらった感じです。「私のお気に入りポイント!」と言わんばかりの付箋もいいですね。タイプの違う2冊を手にして大満足の結果になりました。

準備してきた人も何となく来た人も気軽に参加できる交換会。今回はテーマが「笑」だったこともあり、すぐに打ち解けることができました。会ってすぐに好きな本の話をするのは珍しいことですが、新しく人と知り合う際には良い方法かもしれませんね。また、地元愛を強く感じるのもひとつの特徴。私も多摩地方の出身なので、ローカルトークに華を咲かせました。本好きと気軽に知り合いたい方、良い本を知りたい方に、ぜひオススメしたいイベントです。

ブクブク交換公式サイト
http://bukubuku.net/

クルミドコーヒー
〒185-0024 東京都国分寺市泉町3丁目37-34 マージュ西国分寺1F
TEL 042-401-0321/営業時間:10:30~22:30(L.O.22:00)/定休日:木曜
https://kurumed.jp/