レポート44 / 2018.01.23
SNSから書籍化

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素人が出版デビューを目指すというと、著者が積極的に動くイメージが強いかもしれません。でも、最近ではSNSを経由したまったく新しいカタチの出版が増えています。「ただ落書きを投稿していたら、なぜか人気が出てしまった」なんてゆるいケースもあったりして。
ということで今回は、SNSの発信をきっかけに書籍化されたタイトルをまとめてみました。

twitter

SNSの魅力は、作品が何人の関心を引いたかが数字でわかること。投稿のたびに何千何万と「いいね」「リツイート」されていれば、出版社にとっては大きな安心材料になります。最初に紹介するのはTwitterの書籍化事例。SNSの中でも利用者数が多く、10代の人たちも気軽に利用するため、爆発的な流行、いわゆる「バズる」ケースが起こりやすいといえます。

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●意外に珍しい「つぶやきが本になる」タイプ
『僕の隣で勝手に幸せになってください』蒼井ブルー(KADOKAWA/中経出版)
同書は、フォトグラファー・蒼井ブルーがフォロワー11万人の人気アカウントでつぶやいた言葉に、撮り下ろし写真とエッセイを加えて書籍されたもの。小松菜奈さんに文字が重なる表紙が印象的ですね。

「悲しい時に温めたらまたうれしくなって頑張れるだろうから、かけてもらった言葉を冷凍庫に入れよう。うれしいを保存しよう。」
「好きな人みんな自転車で行ける距離に住んでたらいいのに。嘘ついてたまたま通りかかるのに。」

タイトルも含め、その言葉には親密さと冷静さが隣り合ったような独特の温度があり、まさに新世代を感じさせる1冊。デビュー以来数タイトルが発刊され、現在フォロワーは20万人に迫る勢いです。

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●書籍化一番人気は漫画
『Croak! 世界の不思議なカエル』黒川宇吉(実業之日本社)
SNS全体を通して一番人気のジャンルは、やっぱり漫画。「ゆるい」「かわいい」ものは安定の人気です。動物では猫やウサギあたりがポピュラーですが、カエルを題材に、リアルな画風で描かれたのがコチラの本。ある会社員が学生時代に卒業制作につくったカエルのイラストをTwitterで発信したところ大反響を呼び、書籍化されました。
世の中、欲のない人もたくさんいますから、SNSのような気楽な場がなければ埋もれてしまう才能もきっと多いんでしょうね。帯に書かれた「じわじわくる」という言葉。これもやや斜に構えたネット民をくすぐる、見逃せないポイントのひとつです。

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●Twitterならではの“ユーザー参加型”コンテンツ
『あたりまえポエム 君の前で息を止めると呼吸ができなくなってしまうよ』氏田雄介(講談社)
ひとつのつぶやきが多くのユーザーを巻き込んで本になった例もあります。
一見かっこいいけど、よく考えたら当たり前のことを言い合う。ある時、そんな遊びがTwitterユーザーのあいだで爆発的に流行りました。短く、気軽に、意味がなくてもいい。媒体の特性をフルに活かしています。ネタ元となるツイートをした氏田さんの本業は、広告プランナー。「人は中身のないものもおもしろがれるのでは?」という発想から生まれたアイデアだそうです。計算通りに進んでついには本になってしまうのだから、プロの力恐るべし。ちなみに巻頭には、「この本を読者のみなさんに捧げます」と書かれています。

『もし文豪たちがカップ焼きそばの作り方を書いたら』神田桂一、菊行良(宝島社)。
文豪の文体を再現する「文体模倣」ネタ。きっかけは著者の菊地さんによる村上春樹風ツイートでした。
「きみがカップ焼きそばを作ろうとしている事実について、僕は何も興味を持っていないし、何かを言う権利もない」
思わずわかるわかる!と叫びたくなるこの感じ。本好きのツボをくすぐり、驚異の3万リツイートをたたき出しました。なんとなく、あたりまえポエムにも見えなくもないですね。

Facebook

続いてFacebook。実名登録の義務があるため、Twitterに比べてユーザーの層も堅めになりますが、書籍化されるのはどんなものが多いんでしょうか。

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●著者の気合が書籍化を呼ぶ?
『死ぬまでに行きたい!世界の絶景』詩歩(三才ブックス)
おそらくみなさんも一度は耳にしたことがあるタイトルであろう、大人気シリーズ。この本、実は広告会社の新入社員研修がきっかけでした。「Facebookページをつくって、いいねの数を競う」という課題に対し、著者の詩歩さんは「絶対1位になってやる!」と奮起。大学の卒業旅行で車が横転して死にかけた、という衝撃的な過去の経験から、後悔しないために行っておきたい絶景スポットをまとめたそうです。
もともと広めるためにつくられたコンテンツとはいえ、まさかまさかのスマッシュヒット。2014年の流行語大賞にもエントリーし、人気シリーズとなりました。確かにそのころから、頭に「世界の~」とつくタイトルの本はかなり増えましたよね。

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●国境を越えるエネルギー
『ママは日本へ嫁に行っちゃダメと言うけれど。』モギさん、モギ奥さん(新潮社)
同書はFacebookで知り合った日本人男性・台湾人女性カップルによるノンフィクション。友だち申請をして、文字通り「お友達からお願いします」で始まったふたりのお話です。
もともと日本好きだったモギ奥さん(リンさん)。東日本大震災のあった2011年。占い師に止められ、母親に反対されても、日本行きを曲げない真っ直ぐな気持ちがタイトルに表れています。2013年に結婚すると、3万人以上のファンの後押しをうけて翌年に書籍化。2017年6月にはついに映画化されました。いまでも本人たちの微笑ましいFacebookページを見ることができます。

●身近な繋がりを強くする
『本気で遊ぶ まちの部活』(ゆたり文庫)
遠くのふたりをつなぐこともあれば、近くのみんなを強くつなぐこともあります。本書は、Facebookで趣味の合う仲間を募集し、一緒に部活を楽しむ「前橋○○(まるまる)部」の5年間をまとめた記念誌的な本。ユーザー同士の顔が見えないタイプのSNSでは、なかなか実現しないかもしれません。
Facebookで話題になった本は、当然Facebookページをもっていることが多く、本を買った後もファンとして追いかける楽しみがありますね。版元のゆたり文庫は、北関東本を多く出している出版社。お近くの方、興味のある方は、友だち申請してみては?
https://www.facebook.com/pg/yutari.jp/

ちなみに運営会社のFacebookも、登録ユーザーが10万人を超えた記念に本をつくり、全社員に配ったことがあるそうです。赤い表紙の本で、中身はFacebookの誕生秘話や企業としての価値観をまとめた格言集。読むには社員になるしかないという幻の本です。

Instagram

「インスタ映え」が流行語になった通り、よりビジュアルに特化したSNSがInstagram。ユーザーの目も肥えているので、単なる風景写真では目立てません。

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●家族モノが大人気
『色気は分娩台に置いてきました。』ヤマダモモコ(三才ブックス)
Instagram発の本で、去年もっとも勢いがあった本がコレ。子育て中の主婦の生活を自虐的にまとめたひと言ネタが爆発的にウケました。絵もパンチが効いていますが、なによりワードセンスがズバ抜けていますね。Instagramでは家族モノ、特に「育児日記」が書籍化の一番人気。メインユーザーは20代~30代女性とあって、忙しい子育ての合間を縫って、せめてポジティブな一瞬を共有し合おうという連帯感を感じます。ちなみに、研究員にも育児中のママが数人おりますが、もれなく愛読しているそうです。

『アンガールズ 山根良顕 家族の瞬間 ~Instagram*oment~』(KADOKAWA)
意外なところでは、アンガールズ山根さんのアカウントが大人気。時々綴られる家族への想いが話題になりました。フォロワーは18万人超。こうなると、「ungirls」という響きすらかっこよく思えてきます。キモカワをほっこりイクメンパパに昇華させるインスタの魔力、恐るべし。

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●料理は花形コンテンツ
『Rola's Kitchen』ローラ(エムオン・エンターテインメント)
Instagram×料理の組み合わせの有名人では、なんといってもローラさんが有名ですよね。普段、バラエティ番組などではテキトーさ全開のキャラクターですが、SNSではデキる女の一面を存分に見せつけました。大人気のレシピをまとめた1冊は、モノトーンが際立つ落ち着いた仕上がり。と思いきや、「きのこはうまみが逃げちゃうから、水洗いしないでね♪」と注意書きだけはいつもの口調でなんとも和みます。
この本の出版でファンの心をさらにガッチリとつかむだけではなく、Instagramの知名度も大幅に上げることに。彼女のアカウントは、すべての写真が雑誌の表紙になってもおかしくないほどの完成度です。

Instagramでは、arikoさんの『arikoの食卓』(ワニブックス)など一般の方の出版例も多数。みなさんセンス抜群ですね。ちなみに、特に美味しそうな写真をアップする方を「デリスタグラマー」と呼びます。デリシャス。

●楽曲との同時リリース
『1分間のラブソング』仲宗根泉(ディスカヴァー・トゥエンティワン)
2017年10月と比較的最近の本。HY・仲宗根泉さんが同CDを発売するにあたり、同時にエッセイ&写真を編集した書籍を発売しました。もともとCD化のきっかけは、Instagramに投稿した1分間の楽曲でした。反響の大きさから正式に再録が決定。他の収録曲の中には、Instagram上で人気投票も行って選ばれたものもあります。アーティストが普段着感覚で発信する。それを聞いた人が欲しいものを、商品化して届けてあげる。これまでになかった1冊です。

LINE

出版事業に積極的に参入しているLINE。2016年にはLINEコミックスというレーベルを立ち上げました。つまり漫画は公式にたくさん書籍化しているということなので、それ以外の出版例を2タイトルご紹介。

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●定番コピーは「スタンプ使用率No.1!」
『おにくうさぎ』ほしにく(ワニブックス)
LINEスタンプからの書籍化もたくさんあります。スタンプ用にキャラクターの表情・動きにはさまざまなバリエーションが用意されているので、グッズ化されやすいのも特徴。言わば本もファングッズのひとつという感じですね「昔の作品がスタンプで見直される」「本の購入特典でLINEスタンプがもらえる」などなど、LINEと漫画・イラストとの相性は抜群。時代を超えて、キャラクターの魅力を教えてくれます。

●×コメント ◯会話 ならではの独特なノリ
『84年製ゲイうっちーと母・みちよのメールが面白すぎる件』うっちー(宝島社)
LINEのやりとりをまとめた本なんてあるんだろうか…と思い、調べてみたところ見つかりました。2014 年発刊、ちょうど「おかんメール」が流行った時期ですね。母と子の軽妙なやり取りが話題になり、検索ポータルサイト「NAVER」を通じて100万PVを達成しました。著者がゲイと名乗っているのも大きなポイントですが、注目すべきはお母さんの鋭いボケ。最近ではブルゾンブームに乗った「母に生まれて良かった!」の名台詞を生みだしたそうです。

以上、4つのSNSから出版された有名な例をまとめてみました。どれもこれまでにない、ユニークなきっかけが多いですよね。
今回挙げた他にも、イラスト投稿サイトの「Pixiv」では利用者同士がお題を出し合って、一斉に絵を描くといった企画が日常的に行われています。幻冬舎・テレビ朝日とは共同で小説投稿コンテスト「pixiv文芸大賞」を開催するなど、業界内の注目度は抜群。もちろん出版例も多いです。つくり手との強固なネットワークを武器に、今後新しい出版の形を生み出してくれることでしょう。
SNSには、誰もが気ままに楽しめる良さがあります。クリエイターは好きなときに発信できますし、ユーザーは、「過去の投稿をスクロールするのが面倒だから書籍化して!」なんて好き勝手リクエストできます。一見まだまだアナログな出版業界も、思ったよりずっと変化しているのかもしれませんね。