レポート58/2018.08.24
サッカーと本

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スポーツと本は意外と関わりが深いもの。メンタルが重要な世界で生きてきた選手の言葉は、私たちに大きな力を与えてくれます。一昔前は、スポーツ選手の本といえば引退後に書くものという風潮がありましたが、最近はSNSを通じて選手自ら発信する機会が増えたこともあり、現役中に出版するケースも珍しくありません。今回は、先日のワールドカップで日本中を熱狂させたサッカーをテーマに、現役・過去それぞれの日本代表メンバーの出版例をまとめました。

2018ロシアW杯日本代表

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GK 川島永嗣

『本当に「英語を話したい」キミへ』(世界文化社)
川島選手は英語学習の本を2冊出しています。なんでも、高校卒業直後のイタリア留学で言葉が通じずショックを受け、語学に取り組むようになったとか。本を出版したのは、同じような挫折を味わった人を救いたいという気持ちがあったようです。これまでにベルギー、スコットランド、フランスと海外を渡り歩き、日本語以外に6カ国語を習得。雑誌『GOETHE』で2回にわたり表紙を務めるなど、オトナの男性としてビジュアル面でも評価が高いプレイヤーです。

DF 長友佑都

『日本男児』(ポプラ社)
無尽蔵のスタミナと、コミュニケーション能力に定評のある長友選手。いまや一般的になった「体幹」という言葉は、彼の著書『長友佑都体幹トレーニング20』をきっかけに爆発的に普及しました。他にもメンタル関係、ヨガ、自身をモデルにした漫画などさまざまなテーマに取り組み、結婚後には『長友佑都の食事革命』を出版。守備範囲をどんどん広げています。
しかし、なんといってもオススメは自伝的作品『日本男児』でしょう。体幹同様、どんなときもブレずに努力し続けてきたからこそ、その言葉には圧倒的な説得力があるのです。

イメージ『本当に「英語を話したい」キミへ』川島永嗣(写真左)/『日本男児』長友佑都(写真中)/ポストカードにある「意志あるところに道あり」は長友選手の出身校、東福岡高校の校訓。(写真右)

DF 槙野智章

『ビッグ・ハート 道を切り拓くメンタルの力』(朝日新聞出版)
常にカメラを意識する、日本屈指のパフォーマ-。我が我がという姿勢は時に叩かれることもあるものの、DFに不可欠な強いハートを持ち合わせたプレイヤーです。上下関係の厳しい日本で、「アモーレ」「ケイスケホンダ」と両先輩をいじれる存在は、彼をのぞいて他にいないでしょう。もう1冊の著書は『守りたいから前へ、前へ』と、こちらも“らしい”タイトル。しかも、別の出版社から2冊同時出版!うーん、さすがに攻めますね。

DF 吉田麻也

『レジリエンス――負けない力』(ハーパーコリンズ・ジャパン)
日本人の鬼門といわれたセンターバックでプレミアリーグのレギュラーをつかみ、キャプテンを務めた守備の要。英語が堪能なことでも有名ですが、もともと「サッカーのうまいブロガー」の異名がつくほど、日本語力にも定評がありました。リラックスした雰囲気で日常を綴る本から、厳しい表情でレジリエンス(精神的回復力)を語る最新刊まで、その筆さばきはコントロール自在です。

DF 酒井宏樹

『リセットする力「自然と心が強くなる」考え方46』(KADOKAWA/中経出版)
またまた「~力」シリーズです。酒井選手はもともとスポーツ選手の中では珍しいほど控え目で、すぐに謝ってしまうような性格。そんな弱点を克服するため、常にメンタル面の強化に取り組んできたそうです。本書は過去の経験を活かし、「もともと弱気な人がどう不安を払拭するか」を徹底解説。第1章「心を強くする」→第2章「不安を遠ざけ自信を深める→第3章「切り替える」→第4章「勝負に強くなる」→第5章「僕が僕であるために」と、あらゆる角度から読者を勇気づけてくれます。

イメージ『ビッグ・ハート道を切り拓くメンタルの力』槙野智章(写真左)/『レジリエンス――負けない力』吉田麻也(写真中)/『リセットする力「自然と心が強くなる」考え方46』酒井宏樹(写真右)

MF 長谷部誠

『心を整える。勝利をたぐり寄せるための56の習慣』(幻冬舎文庫)
ロシアワールドカップ終了後、惜しまれながら日本代表を引退したキャプテン。本書はサッカー本屈指の大ヒット作で、現役選手が書いた本では初のミリオンセラーとなりました。どんなポジションも器用にこなす視野の広さは執筆にも遺憾なく発揮されていて、カラーページあり、「長谷部的ミスチル曲ランキング」ありと、飽きさせない仕上がりになっています。今ではすっかり長谷部選手=本というイメージがついていますが、出版したのは意外にもこの1冊だけ。

MF 香川真司

『MYSELF 香川真司』(カドカワムック)
著者ではなく編集の立場で参加したムック本。本人のメッセージと、38人が語る香川真司評で構成されています。ドルトムントでの活躍、マンチェスターユナイテッドへの移籍、そして古巣への復帰。若くして成功と挫折を味わった、その胸中を語ります。ブログ・SNSでも頻繁に発信していますが、写真がメインで「語る」という感じではないので、本は貴重です。

MF 本田圭佑

『ファンタジスタ ステラ』(小学館)
いきなりのマンガ登場に、一瞬なんのことかわからないかもしれませんが、世界のケイスケホンダがつくり手(原案者)として協力しているのは本作だけ。草場道輝さんによる作品『ファンタジスタ』の続編で、本田圭佑さん自身がそのまま架空のチームに加入するという斬新な設定です。連載期間は約3年間、単行本全14巻が発売されました。
本田選手自身、本にまったく興味がないというよりは、ご自身で本格的なメルマガ(週3万字以上)を配信していたり、すでに取材をもとにした本が多数出版されているという事情もあるかと思います。

FW 岡崎慎司

『鈍足バンザイ!僕は足が遅かったからこそ、今がある』(幻冬舎)
常に降格争いがウワサされていたチーム(レスター)の起爆剤として、プレミアリーグ制覇に大きく貢献した日本屈指のストライカ-。その泥臭いプレースタイルを象徴するように、本のタイトルにも「悩む」「未踏」など正直なワードが並びます。中でも、鈍足という身体的なマイナス面を強調した本作はインパクト十分。確かに成長過程の子どもや学生なら、勇気づけられそうですね。

イメージ『ファンタジスタ ステラ』本田圭佑(写真上左)/『MYSELF 香川真司』香川真司(写真上右)/『心を整える。勝利をたぐり寄せるための56の習慣』長谷部誠(写真下左)/『鈍足バンザイ!僕は足が遅かったからこそ、今がある』岡崎慎司(写真下中)/『勝利のルーティーン 常勝軍団を作る、「習慣化」のチームマネジメント』西野朗(写真下右)

監督 西野朗

『勝利のルーティーン 常勝軍団を作る、「習慣化」のチームマネジメント』(幻冬舎)
早くから指導者としての才覚を見抜かれ、1994年にはオリンピックの代表監督として「マイアミの奇跡」を経験した名将は、指導者目線での本を2冊出しています。最新刊となる本作はスタッフに対する気の配り方なども細かく書かれていて、一般企業に勤める管理職の方にとっても大いに役立ちそうです。監督就任時に数千部増刷、初戦のコロンビア戦勝利でさらに数千部が増刷されたというから驚きです。

コーチ(新監督) 森保一

『ぽいち 森保一自伝―雑草魂を胸に』(フロムワン)
プレイヤー時代は日本代表としてドーハの悲劇を経験、Jリーグの監督としても4年間で3度のリーグ優勝を経験するなど、指導者としての実績も豊富な森保新監督。これまでに3冊の本を出しています。その人柄をさらに知るべく、ぜひ自伝を読んでみたいのですが…残念ながらすでに絶版。数千円のプレミアがついていたので断念しました。日本代表の躍進とともに、復刊されることを望みます!

元日本代表のレジェンドたち

イメージ『カズ語録』三浦知良(写真左)/『ラモスの黙示録』ラモス瑠偉(写真中)/『魂の在処』中山雅史(写真右)

三浦知良

『カズ語録』(PHP研究所)
51歳を迎えていまだ現役、言わずと知れたレジェンドです。あらためて著作を振り返ると、「!?」となる作品もチラホラ。2冊出している新書のタイトルは『やめないよ』『とまらない』とまるでお菓子のコピーのよう。初のエッセイ集のタイトルは『おはぎ』。さらに『KAZU-ハーブ・リッツ写真集』ではボールを使ったヌードを披露するなど、随所に個性があふれ出ています。その他にも自伝・名言集などを多数出版。特に日本人サッカー選手での名言集はかなりレアです(元日本代表監督のイビチャ・オシム氏がダントツで多い)。

ラモス瑠偉

『ラモスの黙示録』(ザ・マザダ)
帰化したスポーツ選手の中には、日本生まれの選手以上に日本愛を表現する方がいますが、ラモスさんもそのひとり。過去には、表紙に大きく日の丸をあしらった作品を出したほどです。ただ、「日本人としての自伝」となる本書では、純粋に経済的理由で来日し、日本には何の知識もなかったことを正直に告白しています。大好きなヨミウリ、チームメイト、家族、芸能界でのつながり。真っ白なキャンバスに絵が描かれるように、人との出会いが綴られていきます。

中山雅史

『魂の在処』(幻冬舎)
あまり本を出しているイメージはなかったのですが、つい最近(2014年)、十数年ぶりに新作が出ていました。その文章は、貪欲に笑いをとりに行くバラエティモードとは対照的。「言いわけをしないためには練習のときから本気を積み重ねるしかない」「褒められるのは好きじゃない」など、硬派な言葉が続きます。

イメージ『父親というポジション』北澤豪(写真左)/『第二の人生』前園真聖(写真中)/『お菓子を仕事にできる幸福』中田英寿(写真右)

北澤豪

『父親というポジション』(中央公論新社)
子育てについて綴ったエッセイや、子ども向けのDVDブックを出されています。岡崎選手と同じく、自分自身に飛び抜けた身体能力がないと考えているからこそ、等身大のアドバイスができるんでしょうね。2016年には日本障がい者サッカー連盟会長に就任。サッカーの普及という意味でも、父親的存在になりつつあります。

前園真聖

『第二の人生』(幻冬舎)
前園氏はサッカー選手としては珍しく、現役時代のイメージからガラッとキャラが変わった方。最新刊では、成功したサッカー選手としてだけではなく、失敗とも向き合った、人間・前園真聖を語っています。ただ、章タイトルだけみると、やっぱりスポーツの本っぽいですね(「弱い心を認める」「強い気持ちだけがミラクルを起こす」「アウェイで平常心を発揮する」)。

中田英寿

『お菓子を仕事にできる幸福』(日経BP社)
セリエAで一時代を築いた現・旅人は、有名作『中田語録』を筆頭に、数多くの本を出版しています。中でも『nakata.net~』は、98年~08年まで毎年のように出された名物シリーズです。
今回あえてご紹介するのは、絵本『お菓子を仕事にできる幸福』。東ハトの執行役員、つまり裏方として参加した1冊です。2003年春に経営破綻したあと、社員の士気を高めるために制作され、社員全員に配られたブランドブック。超有名人が関わった本にもかかわらず、帯や表紙にその名前はありません。

岡野雅行

『野人伝』(新潮社)
こちらもかなりのプレミアがついていたため購入を見送りましたが、すさまじくインパクトのある表紙です。ぜひ、検索してみてください。本書のアマゾンレビュー欄には、「フィールドを所狭しと走り回る岡野選手のごとく一気に読んでしまいました。」と素晴らしいコメントが。ワールドカップ初出場を決めたゴールデンゴールは、何度見ても素晴らしい。

中村俊輔

『夢をかなえるサッカーノート』(文藝春秋)
世界に誇る天才レフティは、その繊細なイメージとは裏腹に、太く長く選手生活を続けています。本作は、自身が17歳の時から目標や課題、夢などを書きためたノートを公開したもの。中村選手のノートの存在から、こうした「アスリートノート」が注目&重要視されるようになった、といっても過言ではありません。ちなみに、文字は右手で書くそうです。

イメージ『夢をかなえるサッカーノート』中村俊輔(写真左)/『それでも俺にパスを出せ サッカー日本代表に欠けているたったひとつのこと』釜本邦茂(写真中)/『夢はみるものではなく、かなえるもの「100年インタビュー」保存版』澤穂希(写真右)

釜本邦茂

『それでも俺にパスを出せ サッカー日本代表に欠けているたったひとつのこと』(講談社)
日本人ストライカーの元祖といえばこの方。国際Aマッチ76試合で75得点を挙げ、第1回日本サッカー殿堂入りを果たしました。さすが第一人者、本のタイトルも激アツ!74歳を迎えてなお、パスを求める貪欲な姿勢はさすがです。2010年発刊の新書『最前線は蛮族たれ』ではFWを「蛮族」と表現し、「最前線は中盤(MF)の家来ではない」と独特の表現でサッカー論を展開しています。

澤穂希

『夢はみるものではなく、かなえるもの「100年インタビュー」保存版』(PHP研究所)
最後は女子サッカーきってのレジェンドです。澤選手の本は「夢」という言葉が入った本が多いのが特徴。北京オリンピックの名台詞「苦しいときは私の背中を見なさい」の姿勢そのままに、引退後も女子サッカー選手を目指す人たちの目標であり続けています。本作は文字サイズも大きく、ふりがながついているのでお子さんにもオススメです。
男子に比べると、女性選手の出版はかなり少なめ。女子ワールドカップ優勝の輝かしい実績は記憶に新しく、女子サッカーはまだまだ盛り上がりを見せるはず。今後ますますの出版に期待です。

新旧サッカー選手の本、いかがでしたでしょうか?調べているうちに気がついたのは、時代が新しくなるほど技術的な解説書が減り、メンタル強化の本、プロとしての心構えを説く本が増えているということ。スポーツと関係のない読者でも、アスリートから学ぶべきものが多いと認識するようになったのでしょう。
2018年のメンバーの中には、柴崎選手や乾選手など出版予定のない大物もまだまだ多く、楽しみは尽きません。個人的にはやはり、「大迫ハンパない」というタイトルの本に期待しています。