レポート60/2018.09.21
本棚プロファイリング シーズン2

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「本棚を見るとその人の内面がわかる」
ということで、本棚を拝見して、持ち主の性格・ライフスタイルを読み解くシリーズ第2弾。前回に引き続き、共働きで子育て中のご家庭を訪問しました。初の試みとなった前回、「ご夫婦の職業」「子どもの存在」が選書や陳列に大きく影響していましたが、今回はどんな結果が出るでしょうか。

持ち主(Mさん)の基本データ

【年齢】 39歳
【性別】 女性
【出身地】 東京都
【家族構成】 夫(38歳)、娘(4歳)
【職業】 夫婦ともに会社員
【居住地】 千葉県浦安市
【居住形態】 マンション

今回ご紹介する本棚は、物置部屋にありました。つまり、誰かに見られることを最初から想定していないということです。

検証1 レイアウト

左に文章ものがメインの背の低い棚、右に背の高いコミック棚。どちらも前列後列の二段収納です。余ったスペースにも本がギュウギュウに詰まっていて、一見何の法則性もないように思えますが、細かく見ていきましょう。

・「文庫」「実用書」「雑誌・ムック」「コミック」とブロックごとにざっくりと分類されている
・ブロックごとに本の量はまちまち
・中には書店のブックカバーをつけたままの本もあり、目当ての作品がすぐに見つけられるほどには整理されていない
・比較的新しい本棚

以上のことから、「子どもが生まれたことで引っ越し、それ以来忙しくて本を整理する余裕がない」状態とみます。ジャンル別に段ボールに詰めて運び込んだものをそのまま棚に押し込んだ。その後は育児と仕事に追われて、本棚はもちろん他の部屋も本格的に片付ける余裕がない、というところでしょう。
この程度の推理は小手調べ。おそらく当たっていると思いますが、そうなると疑問がひとつ生まれます。あるジャンルの本の多さと関係しているのですが…次項で詳しく見ていきましょう。

〈プロファイリング1〉

育児や仕事が忙しく、本棚は引っ越ししたままの状態。

検証2 実用書

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今回、もっとも特徴的なのが実用書の豊富さ。仕事術、保険、投資など、将来設計をみすえた堅実なタイトルがずらりと並んでいます。隣接するスペースには『男の着こなし実践術』『男子厨房に入る・別冊男の家事』といった男性向けの雑誌・ムック本があることから、この一角は旦那さんの持ち物と考えるのが自然です。仕事も家庭のこともしっかり調べて、自分なりの考えをもちたい。そんな生真面目な一面が見えます。

さて、検証1で挙げた疑問点ですが、これだけ「効率」「整理術」といった実用書が多数あるにもかかわらず、なぜ本棚を整理しないのか?ということです。もちろん、おおらかな一面ももち合わせていると言えばそれまでですが、本当の理由は忙しさにあるのではないでしょうか。『なぜ一流の人はみな「眠り」にこだわるのか?』『世界のエリートがやっている 最高の休息法』『疲れた体がよみがえる リセット7秒ストレッチ』などの本を見るに、心身ともに負担の大きなお仕事をされているのがわかります。

時計やスーツのムック本、メール術といった本から営業職と推定。出張が多いので家でゆっくり本を読む余裕はなく、本棚を利用するのは一時帰宅した際に持ち歩く本を入れ替える程度。料理の本が多いのも単に興味本位というだけではなく、転勤や単身赴任の経験があるのではないかと思います。

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〈プロファイリング2〉

・旦那さんは何事も自分できちんと調べるタイプ。
・旦那さんは出張が多いご職業。読書は外出先で。

検証3 文芸書、趣味の本

文芸系は、海外文学、詩集、日本の小説ととにかく多彩。社会派エンタメ系といえる村上龍『半島を出よ』、池上永一『シャングリ・ラ』、黒川博行『国境』があるかと思えば、いきなり独創的な作風で知られる山田風太郎の『戦中派不戦日記』が出てくる。さらにはいしいしんじ、町田康、古川日出夫など、日本の文学賞を賑わす作家や、G・ガルシア=マルケス、J・ケルアック、カズオ・イシグロといったノーベル文学賞クラスの海外作家の名前も並びます。

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全体的に話題作重視、やや男性寄りの選書です。社交的で、日ごろからいろんな人にオススメ作品を聞きつつ、TVや雑誌・新聞で紹介された話題作も抑えておくビジネスマン。そんなイメージが浮かびます。育児のエッセイも、かわいいデザインのものはもうひとつの本棚に分けられていますし、もしかしたら背の低いほうの棚全体はすべて旦那さんのものでは…?そんな仮説も浮かびました。

しかし、茨木のり子さんの詩集についていたカラフルな付箋を見ると、そうではないことがわかりました。お気に入りの箇所をマーキングする女性らしい感覚。やはりこの本棚は夫婦共用でしょう。特に上段中央の棚は落語とオペラ、国内外の映画など、一人で読んでいるとは思えないほどバラエティに富んだラインナップです。
旦那さんは実用書を好む理知的な性格、Mさんは詩集が好きな情熱派。対照的な二人が共通の趣味である映画や舞台を一緒に見に行くようになり、やがて結婚した。オペラのDVDは、そんな時代の良き思い出。そんな風に考えると、『「原因」と「結果」の法則』『ティファニーで朝食を』『21世紀に生きる君たちへ』『もう一度読みたい 教科書の泣ける名作』『グレート・ギャツビー』…と凸凹に並ぶ作品たちが、なんだかロマンチックにも思えます。

〈プロファイリング3〉

・背の低い本棚は夫婦共有。
・ご夫婦は共通の趣味である映画・舞台鑑賞をきっかけに仲良くなった。

検証4 コミックス

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右側の本棚を見てみましょう。大半がコミックスで、わかりやすく王道思考のラインナップ。『ONE PIECE』と『ジョジョの奇妙な冒険』という、ジャンプコミックスを代表する2作が全巻揃っています。一見ミーハーにも見えますが、ジョジョ関連作だけでもスピンオフ作品、展示会のイラストカタログ、小説化作品などが揃っており、深く読み込む一面も伺えます。かなりのマンガ好きで、長期連載する王道作品を押さえていると考えると、実家にはこの数倍の蔵書があるのではないでしょうか。

少年誌の連載作品だからといって、旦那さんが読むと判断するのは早計。いずれも男女問わず人気のある作品ですし、旦那さんの現実的な性格を考えると、ちょっとピンときません。たかぎなおこさんのエッセイをはじめかわいらしい装丁の本が多く、こちらはシンプルにMさんの専用スペースと予想しました。
たかぎなおこ作品のちょうど後ろには「ことりっぷ」が見えます。Mさんにとっては旅に育児に共感する点の多い作家さんで、きっと独身時代から「ひとりぐらし」シリーズを愛読していたのではないでしょうか。

旦那さんの外出が多いとすると、Mさんは育児の大半を受けもっているはず。なかなか家で落ち着いてマンガを読む機会もないでしょう。読書はもっぱら移動中で、少しでも荷物を減らすために電子書籍を利用しているかもしれません。

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〈プロファイリング4〉

・Mさんの実家には、今の家の数倍のマンガがある。
・マンガ読書はもっぱら移動中、電子書籍。

以上でプロファイリングは完了です。
前回に比べると雑誌が少なく、時系列を知る手がかりが少なかったのですが、結果やいかに。

〈プロファイリングまとめ〉

・育児や仕事が忙しく、本棚は引っ越ししたままの状態。
・旦那さんは何事も自分できちんと調べるタイプ。
・旦那さんは出張が多いご職業。読書は外出先で。
・背の低い本棚は夫婦共有。
・ご夫婦は共通の趣味である映画・舞台鑑賞をきっかけに仲良くなった。
・Mさんの実家には、自宅の数倍のマンガがある。
・マンガ読書はもっぱら移動中、電子書籍。

答え合わせ

研究員
本棚にほぼ空きがない状態ですが、本は頻繁に購入されていますか?
Mさん
はい。実はこの部屋以外にも積ん読がたくさんありまして…。ここ数年、引っ越しや子どものことで忙しくて、なかなか整理できていません。
研究員
本棚も最近のものですし、もしかして、引っ越し以来そのままの状態では?
Mさん
大当たりです。もともと本棚は物置から動かすつもりはないので、急いで片づける必要はないんですけどね。「久しぶりにあの本が読みたいな」というときに探しづらいのがちょっと不便なので、さすがにそろそろ手をつけたいです。
研究員
それにしても実用書から文学作品まで、本当に幅広いジャンルがありますよね。
Mさん
特に夫は興味をもったら必ず調べるタイプなので、念のために、くらいの感覚で買う本も多いんです。凝り性ですし、何事も「どうせやるなら損をしたくない」という性格で…。私がハウトゥ本を読むようになったのも、主人の影響が少なからずあると思います。
研究員
ご主人は出張が多く、移動中に読書することが多いのでは?
Mさん
確かに出張は多いですね。家でもまったく読まないというわけではないんですが。
研究員
背の低い左側の棚は、おふたりが共用で使っているんですよね?
Mさん
いえ、あれは全部主人の本ですよ。私の本棚とはっきり分けています。
研究員
え!?あの文学作品の雑多なラインナップや、育児のエッセイ、オペラに落語に茨木のり子さんの詩集もすべて…?
Mさん
はい。興味をもったら、まず読んでみる人なんです。詩集にどんな基準で付箋をつけているのか、私にはわかりませんけど(笑)
研究員
これは意外です。相当好奇心豊かな方なんですね。てっきり、おふたりは舞台鑑賞が共通の趣味で、それをきっかけに仲良くなったと思っていました。
Mさん
お祭りやイベントは一緒に行きましたが、舞台は一緒に行かなかったですね。そこの趣味ははっきり分かれています。私は宝塚をよく見ていて、関連本はすべて実家に置いてあります。
研究員
マンガが相当お好きなようですが、最近もよく読まれるんでしょうか?実家にはかなりの蔵書があるんじゃないかとふんでいるんですが。
Mさん
確かに、少なくとも4~5倍はあると思います。子育てを機に引っ越してからは、電子書籍を購入して、通勤途中に読むようになりました、ホラーやバイオレンスまで、なんでも読むタイプなので隣の人をビックリさせてしまっているかもしれません(笑)。でも、お気に入りのマンガや子育て系のものは、紙の本で買うことが多いかな。
研究員
たかぎなおこさんの作品もありますよね。昔からお好きだったんでしょうか?
Mさん
私にとって、旅行が好きという共通点は大きいですね。本棚に『貯金本』という本があったと思うんですが、あれは友人からもらったもので、500円玉貯金の貯金箱なんです。たまったら旅行へ行こうと思って。ちなみに、たかぎなおこさんの本も主人の愛読書で、私が後から好きになったパターンです。
研究員
なんと!ご主人はほのぼの系も抑えているとは…。真面目な本に気をとられたせいか、守備範囲を完全に侮っていました。どんな経緯でそんなに幅広く本を読むようになったのか、一度じっくりインタビューしたいくらいです。
Mさん
あんまり前に出たいタイプの人ではないですが…、一応、伝えておきます(笑)。
研究員
最後に、お子さんの本はどちらにあるんでしょうか?勉強家のお二人のこと、きっと作品にもこだわっていらっしゃるのでは?
Mさん
リビングにありますよ。ただ玩具や雑貨と一緒になっているので、本棚という感じではありません。娘はお姫様に憧れているみたいで、ディズニー作品が多いですね。
研究員
なるほど。以上で終了です。お時間をいただきありがとうございました!

〈結果〉

・育児や仕事が忙しく、本棚は引っ越ししたままの状態。→○
・旦那さんは何事も自分できちんと調べるタイプ。→○
・旦那さんは出張が多いご職業。読書は外出先で。→○
・背の低い本棚は夫婦共有。→×
・ご夫婦は共通の趣味である映画・舞台鑑賞をきっかけに仲良くなった。→×
・Mさんの実家には、自宅の数倍のマンガがある。→○
・マンガ読書はもっぱら移動中、電子書籍。→○

いかがでしょうか。今回は予想7つのうち的中が5つと、前回より若干結果が向上しました。ただ、ご主人の意外性に振り回された印象が強く、肝心なところを外してしまった気分です。もう少し先入観にとらわれず、広い視野を身につける必要がありますね。では、また次回のプロファイルにご期待ください。目指せパーフェクト!