レポート02 / 2016.04.01
日本の文化ブックカバー

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日本だけの文化

「カバーはおかけしますか?」
書店で本を買うと、たいていこんな風に尋ねられます。かけてもらう派とかけてもらわない派がいますが、私は断然かけてもらう派ですね。ところで、この買った本にかけてもらうブックカバー、日本独特の文化なんですって。

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恵文社

ちなみに、英語の「book cover」は本体表紙のことを指し、それにかぶせられる表紙カバーは「dust jacket」「book jacket」と言います。さらにその上にかぶせるカバーを指す英語は、というと……ありません。つまり、書店でつけてもらえる「ブックカバー」は、英語では存在しないのです。
海外では、そもそも表紙カバーのついていないペーパーバックと呼ばれる並製本が主流で、カバーが二重にかぶせられることに驚く人も多いそうですよ。

さて、日本人はなぜブックカバーをつけるのか。ひとつは本をキレイに保つため。もうひとつは「何を読んでいるのか知られたくない」という恥ずかしがり屋さんな日本人らしい理由。なんと、日本人の90%は本にカバーをつけるという統計も出ています。内容が恥ずかしいものでなくても「自分の内面を見られているようで何だか落ち着かない……」という考えがあるようで、実に奥ゆかしい国民性、愛すべき日本人です。反面、「これが俺だ!」と言わんばかりにブックカバーなしで読書する人をたまに見かけてキュンとすることも。

歴史を調べてみると、起源は大正時代にまでさかのぼります。書店がお店の宣伝を目的として、また、お会計が済んでいるという目印のために、店名やオリジナルのデザインを印刷した紙を使って本を包む習慣ができました。その多くは古書店で、凝ったデザイン・凝った紙のカバーをつくっていたのが好評だったために新刊書店もマネをしたのだとか。当時はただの包み紙扱いだったそうですが、その習慣が受け継がれ、いまでもほとんどの書店でブックカバーをつけるサービスが続けられています。

大手書店のブランド力

約14,000店の書店がある日本、ブックカバーの種類も星の数ほど。取次店が販売しているものや出版社がつくったものを使う場合もありますが、ほとんどのお店がオリジナルのものをつくっています。
別名「書皮」とも呼ばれ、コレクター・愛好家の協会、さらには全国の書店のブックカバーを集めた本まで出版されているなど隠れた人気があるんです。それではその一部を見てみましょう。

まずは、大手書店から。さすがに、見覚えのあるものが多いです。

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上段左より:ブックファースト、リブロ、紀伊國屋書店/下段左より:ジュンク堂書店、丸善、有隣堂

並べてみると茶色いクラフト紙が目立ちます。破れにくさと透けにくさを兼ねそろえているので、本とプライバシーを守るのにぴったり。本が傷む大きな原因“日焼け”も目立ちにくいですし、まさに適材適所ですね。
大量に印刷することを想定してか、印刷の色数は1色か2色がほとんど。インク代を抑える工夫でしょう。限られた色数ながら印象に残るデザインで、一目で「あの書店だ!」となるものが多いところはさすが大手書店。ブランド力を感じます。「ブックファースト」は青色、「紀伊国屋書店」は紺色、「ジュンク堂書店」は緑色……、比べてみると、大手書店の中でも、ある程度カラーの棲み分けがされていることがわかります。「ジュンク堂書店」なんかは看板も店員のエプロンもおそろいの緑色。企業カラーが生かされていますね。

大手書店は利用者の多さから、企業広告が入ることも少なくありません。中には書店と企業とのコラボレーションも。
永谷園と大手書店との「お茶漬けの日」のコラボがこちら。はい、どう見てもお茶漬けです。

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出典:Twitter @chamcham

このように書店や出版社以外の企業の広告として使われることがあるのも、おもしろいところです。本の購入者へはもちろんのこと、電車の中や喫茶店、会社、学校など、本が読まれる場所で周囲の人たちにPRが可能。広告媒体として優秀ですね。

個性で勝負の小型書店

個人経営の書店や、数店舗でチェーン展開をしている書店は、レトロなイラストがかわいいものや、デザインが大胆なもの……。目立たないように、というよりむしろ見てほしい!雑貨感覚のものがたくさんあります。コレクションしたくなる気持ち、わかります。

小型書店のブックカバーは、大手書店に比べ個性的なものが多いよう。それぞれが“らしさ”を表現しようとしているのがわかります。ファンをつくって顧客を掴むことが大事な小型書店にとっては、“らしさ”があることが、一番重要なのかもしれません。
各書店のこだわりが感じられるだけに大事にとっておきたくなる魅力がありますね。

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上段左より:beco café、SHIBUYA PUBLISHING & BOOKSELLERS、ブックスルーエ/下段左より:book union、波屋、BOOKS FUTABA

神楽坂の「かもめブックス」のものは、おしゃれなだけでなく、併設のギャラリーと連動したフリーペーパーになっています。ギャラリーの広告にもなりますし、何より読むブックカバーという発想が新しい!

中には著名な画家やイラストレーターなどが手がけた、思わず額に入れて飾りたいようなものも。東日本に展開する「あゆみブックス」の美しい一品は、イラスト永井一正さん、デザインは原研哉さんによるもの。独特のイラストが書店の個性を感じさせます。
書皮友好協会が主催する「書皮大賞」においても、2007年に大賞を受賞しています。

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    かもめブックス

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    あゆみブックス

旅行の際に、ご当地書店のブックカバーを手に入れるのも楽しそう。その店に行かないと手に入らない歯がゆさも魅力のひとつ。地域や期間限定だと、マニアの人気は特に高くなります。

ご当地もので多いのが、書店周辺の地図が印刷されたデザイン。
中でも、「一頁堂書店」は印象的。2011年の東日本大震災で、津波によって町長さんを含めて町を失った岩手県・大槌町の書店です。震災から9ヶ月後に「書店が無くなった町に書店を」と、書店経営の経験も無いご主人が町内のショッピングモール「シーサイドマスト」に開店しました。書皮の地図は、震災前の町……。いろいろな思いがつまっています。

京都を中心に展開する「大垣書店」は、創業の地・京都北大路から見た山の稜線を用いたもの。「地域に必要とされる書店でありつづけよう」という思いを込めて、“いつも見ている景色”=京都の人の“心象風景”を表現しているんだとか。シンプルながら印象に残るデザインです。

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    一頁堂書店

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    大垣書店

珍しいところでは、広島の「フタバ図書」が広島カープとコラボしてつくったカープ坊やのブックカバーなんていうのもありました。

まとめ

スタンダードなデザインでブランド力が感じられる大型書店、かわいいイラストや凝ったデザインで個性をアピールする小型書店、地域への愛情がデザインにも表れる地域密着型書店。調査を通して、日本人のブックカバーに対するこだわりがよくわかりました。日本でガラパゴス化したものですが、これだけ歴史があってたくさん種類があれば、堂々たる“文化”と言えますね。

……いろいろ見ていると、自分でもオリジナルのものをつくってみたくなったので、本づくり研究所のオリジナルブックカバー、つくってみました。クラフト紙を使うと、それっぽくなりました。私も例にもれず「何を読んでいるか人に知られたくない」奥ゆかしい日本人なので、このブックカバーを使って通勤電車やカフェで本を読んでみたいと思います。

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