レポート16 / 2016.10.17
初めての電子書籍。
レコードがCDに変わったのは遠い昔の話。さらにiPodなどデジタルオーディオプレイヤーと配信サービスが登場したことで、音楽を楽しむスタイルが大きく変わった。そしてiPodもまた、スマホの登場によってその役割を終えようとしている。
今、同じことが読書の世界でも起きている。レコードが消えたように、電子書籍によって紙の本がなくなってしまう日が来るのだろうか?電子書籍を使いたいがよくわからないので手が出せない、という方にも必見のレポートです。
電子書籍の誕生
日本初の電子書籍は辞書だった。CD-ROMでデータが配付され「電子ブック」と呼ばれていた。1990年、ソニーがCD-ROMの書籍(辞書)を読む世界初の書籍リーダー専用機「データディスクマン」を発売。しかし、ウォークマンで音楽スタイルの常識を覆したソニーも、データディスクマンで読書スタイルに革命を起こすことはできなかった。そんな状況の中、ついにインターネットの時代が幕を開ける。電子書籍をWeb上で購入し、ダウンロードして読む現在の形になったが、当時主流の端末はパソコンではなく、なんとガラケー。2009年度のデータでは、なんと電子書籍市場の89%を占めていた。同時期、日本の電子書籍市場はアメリカよりも大きかったというから驚きである。ただし、その大部分はコミックであった。
2010年は、日本における電子書籍元年と言われている。Apple iPadが発売された年だ。電子書籍としての機能が注目され、ワイドショーでも連日話題になっていたことは記憶に新しい。それまで、あまり電子書籍には利用されていなかったiPhoneは、iPadの普及を機に電子書籍リーダーとしても注目を集めることになる。翌年の2011年、さらに大きな出来事が起きた。アメリカで電子書籍の標準フォーマットとして普及していたEPUBに、縦書きやルビといった日本語独特の仕様が加えられたEpub3.0が登場したことだ。日本の電子書籍にもいくつかのフォーマットが存在していたが、現在Epub3.0を扱っていない電子書籍ストアはない。出版社としてはEpub3.0で制作しておけば、すべてのメジャーなストアで販売できる。昔のベータ/VHS戦争のようにならなかったことが、何よりも電子書籍の普及には大きかったといえる。そして2012年、アマゾンのKindleが日本に上陸し、現在の電子書籍市場の成長があるわけだ。未だにそのほとんどはコミックであるが‥‥。
2種類の電子書籍。
小説、コミック、写真集、エッセイ、雑誌‥‥。電子書籍は2種類どころではないだろうと思うかもしれないが、ここでいう2種類とはジャンルではなく、「フィックス型」と「リフロー型」という仕様のことである。電子書籍ストアで購入する際も記載されていないので、一般人にはなじみのない言葉であろう。しかし、同じコンテンツであっても「フィックス型」と「リフロー型」のどちらで作られた本であるかによって、その見え方、読み心地はまったく異なるのだ。
リフロー型(写真左)/フィックス型(写真右)
- フィックス型
- 固定型という意味。紙の本の1ページをそのまま画像にして電子書籍の1ページにしたもの。コミックや絵本、写真集など、ビジュアル中心の書籍はこのフィックス型で作られていることが多い。文章中心の書籍でも、レイアウトにこだわりがあり、見た目を紙の本と同じにしたいコンテンツの場合はフィックス型で作られていることがある。この場合、紙の本で100ページならば電子書籍でも100ページとなる。端末を横向きにすると見開き2ページが表示され、紙の本で右側のページは電子書籍の見開き表示でも必ず右側に表示される。つまり、紙の本そのままの見た目になるのが特徴だ。
- リフロー型
- 再流動型という意味。小説のように文章が主体の場合は、このリフロー型で作られている。好みの文字サイズに調整して読むことができ、拡大しても見た目が劣化することはないのが特徴である。例えば、ユーザーが文字サイズを大きくすると画面サイズに合わせて改行され、1画面(1ページ)に表示される文字数は少なくなり、結果として電子書籍のページ数は増える。
文章中心のコンテンツをリフロー型にするメリットは他にもある。紙の本に重要な語句にマーカーで色を付けたり、大事なページに付箋を貼ったり、メモを書き込んだりという経験は誰にでもあるはずだが、同じことがより高度に画面上でできる。もちろん書き込みを消すこともでき、文中の言葉を調べる辞書機能やWeb検索なども可能。これらのデジタルならではの機能が、つまりは紙の本と比較したときの電子書籍のメリットなのだ。
電子書籍リーダーvsタブレット
では、実際に電子書籍をどの端末で読めば良いのか。数ある中から、iPadに代表されるタブレットを買うべきか、それともKindleやkoboに代表される電子書籍リーダーを買うべきか…。
まずは、根本的に異なる点を理解しておこう。タブレットは値段が高いだけあって、電子書籍を読むだけでなく、インターネットなど様々なことに使える。一方で、電子書籍リーダーは電子書籍を読むことしかできない。さらにタブレットが優位と言える点は、どのストアの電子書籍にも対応していることだろう。つまり、iPadならiBooks Storeの本だけでなく、あらゆるストアの本を読むことができる。しかし、電子書籍リーダーのほうは、Kindleならアマゾンで買った本しか読めないし、koboなら楽天の本しか読めない。購入できるストアが限られているのだ。また、モノクロ画面なので、雑誌・カラーコミック・写真集には不向きである。Kindleやkoboにもカラー対応のシリーズがあるが、中途半端なのであまりお勧めできない。価格以外は圧倒的にタブレット優位のようにみえるが、それでも電子書籍リーダーを選択する人は多い。その理由はいったいどこにあるのだろうか。優位な点を探ってみることにしよう。
- 軽い
- 寝転がって片手で本を持って読んでいるところを想像して欲しい。文庫本なら無理なく読めそうだが、ハードカバーの単行本ならなんとも辛そうだ。ハードカバーの単行本がタブレットだとすると、Kindleやkoboは文庫本。この軽さは魅力だ。
- バッテリーが長持ち
- 次に注目したいのがバッテリー。Kindle Paperwhiteのバッテリー持続時間は数週間、kobo auraH2Oでは約7週間と表記されている。もちろん使用状況によって多少変わってくるが、iPadは約10時間とされているので、タブレットよりはるかに長持ちするのは間違いない。これは電子書籍端末のディスプレイの消費電力が圧倒的に少ないからである。
- 目に優しい
- 電子書籍リーダーのディスプレイにはEインク(電子インク)という技術が使われており、まるで紙に印刷されたように表示される。タブレットのように、LCDやLEDディスプレイとバックライトを組み合わせると、画面の反射もあって目が疲れやすく、長時間の読書には不向きである。それに対してEインクは、反射光でも読めるので目に優しく、心ゆくまで長時間の読書を楽しむことができる。太陽光の下でも読め、内蔵ライトがあるので(一部の機種にはない)真っ暗なベッドの中でも読めるのだ。このディスプレイの違いが、電子書籍リーダーのもっとも優れた点といえるのではないだろうか。
明るい部屋の中で比較。Kindleの画面はiPadと比べると少し暗いが、長時間でも目が疲れにくく読みやすい。
真っ暗な部屋の中で比較。暗闇の中でもKindleは内蔵ライトが明るく読みやすい。iPadは意外にも自動的に白黒が反転した。
屋外で比較。Kindle は強い日差しの中でもしっかり読むことができるが、iPad の画面は真っ黒。画面に映り込んでいる自分の姿以外、ほとんど何も見えなかった。
軽さ、価格、目の疲労緩和などにおいては電子書籍リーダーに軍配が上がった。とはいえ、汎用性のあるタブレットは捨てがたい。結局は各自の読書スタイルや好みによるが、根っからの本好きで小説などの文字物をたくさん読みたい人には電子書籍リーダーがお勧め。そうではなく、電子書籍で雑誌や写真集なども見たいし、ゲームや動画も楽しみたいならタブレットだ。
電子書籍リーダー向きだと思う人は、次に考えるのがkindleなのかkoboなのかということだが、リーダー自体の性能にあまり差はない。それよりも、書籍をアマゾンkindleストアで買いたいか、それとも楽天koboで買いたいかで決めるほうが良いだろう。また、電子書籍ストアの比較サイトでも、常にアマゾンkindleストアや楽天koboに勝るとも劣らない人気を誇るのがBookLiveであるが、BookLiveで電子書籍を購入したいのならLideoという電子書籍リーダーがある。品揃え、価格、セール、クーポン、クラウド型、定額読み放題、実店舗との連携など、ストアごとに様々な特徴があるので、自分好みのストアを見極めてから端末を選ぶのが賢明だと思う。
タブレット向きだと思う人は、購入前にまずスマホで試してみるのはどうだろうか。実は、電子書籍の読者のうち47.2%の人がスマホを利用しているというデータがある(2015年4月MMD研究所調べ)。試してみると、高額なタブレットをわざわざ購入するまでもなく、スマホで充分だと感じる人も多いだろう。いつも持ち歩いており、常に充電に気を使っている、そのスマホを使わない手はない。フィックス型もリフロー型も快適に読書が楽しめるはずだ。いろいろな店舗で無料アプリや無料の本をダウンロードし、本棚も含めてアプリの使い勝手を試してみて欲しい。
まとめ
電子書籍のメリット
1.総じて紙の本よりも安く、セールもある。
2.過去の絶版本など、電子書籍でしかない本も多い。
3.本屋に行かずに購入でき、すぐに読める。
4.何冊でも持って歩ける。
5.家での置き場所に困らない。
6.文字の拡大、メモ、検索など、デジタルならではの便利機能。
7.暗いベッドの中でも読める。
8.人気本でも売り切れがなく、コミックも常に全巻揃っている。
9.アプリの本棚で、手軽に本を整理・管理できる。
紙が不要なので環境に優しい。在庫を保管しておかなくて良いので倉庫もいらない。傷むこともなく、売れ残ったからといって廃棄する必要もない。製造コストや流通コストも安く、書店は自由にセールで値引することもできる。読者は読みたくなったらすぐに買うことができる。おまけに保管場所を気にすることもない。作り手にとっても、売り手にとっても、読み手にとっても、そして地球にとってもメリットの大きい電子書籍は、今後も確実に伸びていくだろう。
電子書籍のデメリット
1.紙の本より新刊の発売が遅いことが多い。
2.装丁、紙の手触り、インキの臭いが味わえない。
3.「その本、持ってる!」という所有感が薄い。
4.ギフトに向かない。
5.紙の本で読んだ方が内容をよく記憶できるという研究結果がある
(ノルウェー スタヴァンゲル大学の研究結果)
デメリットも、どうやら大したことではなさそうに見えるので、ますます紙の本の存在意義が問われる。いずれ完全になくなってしまうのでは…と心配してしまうが、そんな日が来るとは思えない。なぜなら、人間はメリットやデメリットだけを比較して、魅力的か否かを感じているわけではないからだ。その証拠に、CDやiPodの出現で消えたようにみえるアナログレコードだが、近年市場規模が大幅に拡大しているのだ。コレクションしたくなる大きなジャケット、味のある音、ドーナツ盤の美しい佇まい…その魅力は、とても理屈で説明できない。本も同様に、紙の質感、装丁、インクの匂い、本棚に並ぶ姿など、紙の本ならではの存在感に、やはり惹かれてしまう。表紙デザインすら必要のない電子書籍が出てくる一方で、紙の本は内容だけでなく、今まで以上に装丁や品質が重要視され、商品としての価値の高さや個性を求められるのではないだろうか。いずれ、記念にモノとして残しておきたいときだけ紙の本にする、そんな時代が来るのかもしれない。電子書籍を考える中で、ふとそんなことを思うのであった。