レポート55/2018.07.03
書店調査「歌舞伎町ブックセンター」

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2017年10月、新宿歌舞伎町に唯一の書店がオープン。『LOVE』をテーマにした本を専門に取り扱い、現役のホストが書店員を務めることで大きな話題を呼びました。それから8ヶ月、TVや雑誌、さらには国土交通省が編集協力する機関誌に取り上げられるなど、ますます多方面から注目される存在になっています。
いったいお店はどんな雰囲気なのか。百聞は一見にしかずということで、ホストクラブ未経験の研究員たちはいざ歌舞伎町へ!オーナーの手塚マキさん、ホスト書店員の和也さんにお話を伺いました。

ホスト書店員とは?

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研究員
まずは簡単に自己紹介をお願いします。
和也さん
速水和也、22歳です。普段はAPiTSというホストクラブで働いていて、ホスト歴は8ヶ月、書店員としては3ヶ月くらいです。
研究員
歌舞伎町ブックセンターで働くようになったきっかけを教えていただけますか?
和也さん
オーナーではなく、働いているホストクラブの店長に誘われました。もともと誰が言い出したのか、なんで僕なのかはわからないんですけど…。「二日酔いでもよければ」って答えました(笑)。普段は19時から働いているのに、書店に出るのは15時。僕らからしたらすごく早い時間なんです。
※ホスト書店員は土・日曜日の15:00~17:00に出勤
研究員
生活は相当変わりますよね。
和也さん
確かにホストクラブのお客様と過ごす時間は少し減ってしまいましたね。ただその分、短い時間でも楽しんでいただけるよう努力をしています。趣味のバスケットボールも変わらず続けていますし、ストレスにはなっていません。
研究員
とはいえ、内容も時間帯もまったく違う2つのお仕事を続けるのは、相当モチベーションが必要だと思います。
和也さん
僕は人と対話することが好きですし、どんな仕事でも楽して稼げるわけはないので、いろんなお仕事で勉強するのは意味があることだと思っています。書店もホストクラブも接客業なので、通じる部分は多いと思いますね。
研究員
もともと本がお好きだったんですか?
和也さん
好きでしたね。ただ、自己啓発系とか、ジャンルはわりと偏っていました。お店で働き始めるようになってからはより幅広く読むようになりました。

イメージ初めてのインタビューにもかかわらず、和やかで的確な対応はさすがの一言。さらに、端正な顔立ちでアンニュイな雰囲気を醸し出す和也さんに研究員も虜に...。

本を通して会話する楽しさ。

研究員
書店での仕事内容を教えてください。
和也さん
飲食を提供する通常のホールスタッフの仕事と、あとは本選びのお手伝いですね。ただ、僕のほうからお客様にグイグイ話しかけることはありません。向こうから声をかけてくれたり、ホスト以外のスタッフが「彼、ホスト書店員なんですけど話してみます?」と聞いてOKしてくれた時にお話するようにしています。やっぱりホストが書店にいると驚かれることもあるので、そのあたりの距離感は考えますね。
研究員
仕事をしていて、楽しいことはなんでしょうか?
和也さん
海外の方やお子さんを連れた方、とにかくいろんな方が来られるので、世界が広がるのは楽しいですよ。あとは、自分の薦めた本を気に入ってもらうのも嬉しいです。本って、強引に売っても絶対最後まで読まないじゃないですか。
研究員
なるほど…確かにそうですね。逆に辛いことは?
和也さん
やっぱり体力面ですね。ベロベロで帰ってきて、お昼ごろに起きるというのはなかなか大変です。特に僕は人よりヘアメイクにこだわりがあって、仕度に時間がかかるので。朝5時に帰ってきて、12時に起きるから…あれ、意外に寝れてるな(笑)。でも、二日酔いはほぼ毎日ですね。
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  • 大きく開かれた入り口と、面出しにされた本が壁一面に並ぶ印象的な店内。(写真上)/店内奥の大型スクリーンには映画が流れており、歌舞伎町のイメージとはほど遠い落ち着いた空間。(写真左)/夜になると別の顔をのぞかせる界隈。ギラギラと輝く駐車場の看板を曲がった先に書店がある。(写真右)

研究員
お昼の仕事が気分転換になる部分もありそうですね。
和也さん
それはありますね。お客さんとの関わり方がまったく違うので、すごく新鮮です。本を介して接するのと、直接話すのはまったく違います。書店だと、初めて会う人に「どんな本がお好きですか?」から入ることができる。お互いに知らない本でも、一緒に読んで楽しめますし。
研究員
こんな爽やかな店員さんが一緒に探してくれたら、お客さんも嬉しいですよね。今後、書店員としての経験をどんな風に活かしていきたいですか?
和也さん
実は将来、教師になってみたい気持ちがあるんです。ホストから教師って、なかなかいないじゃないですか、少し前に「ネガポジ先生」の外部講師として呼ばれて、学生に夜の仕事について解説する機会があったんです。そのとき、あらためて学校っていいなって思いましたね。
ホストを始めたころ、僕はまだ大学4年生だったんですよ。卒論や就職活動に追われていて、なかなか自分で勉強する気にはならなかった。でも不思議なもので、社会に出ると勉強したくなるんですよね。僕は英語専攻で語学に興味があるので、本と関わっているのはすごく刺激になっています。
研究員
書店員にスカウトされたのも、語学を学んでいたというのがあるんでしょうか?
和也さん
どうなんでしょう?そこまで情報がいっていたのかなあ。(手塚)マキさんはバイト時代から僕のことを覚えてくださっていて、面倒見のいい方なので、もしかしたら店長を通じてチャンスをくださったのかもしれませんね。
研究員
では、そのあたりをぜひ聞いてみたいと思います(笑)。

カリスマホスト・手塚マキさんに聞く。

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研究員
すでに歌舞伎町でホストクラブを何店も経営されていますが(手塚さんはSmappa!グループ会長)、なぜ書店をはじめようと思ったんでしょうか。
手塚さん
僕の従業員教育は「本を読んで映画を見ろ」というもので、昔から本を使っていろいろやってきました。自分のブログやフェイスブックに書評をあげたら、読んだ本を買い取ってあげるとか。近代文学史の講義をやったり、罰ゲームで『坊ちゃん』の朗読会をやったり(笑)。だから、ここにはずっと本があったんです。
書店にして売るようになったのは、ノウハウのある草彅洋平さん(東京ピストル)や栁下恭平さん(鷗来堂・かもめブックス)と出会ったのがきっかけですね。書店って聞くとどうしても敷居が高かったんですが、2人に出会って「名乗っちゃえばいいだけだ」って気づけたので(笑)
研究員
すごい発見ですね(笑)。なぜ、従業員の方に読書をすすめてきたんでしょうか。
手塚さん
文化的な素養がつく、ということですね。10年ほど前、ホストになる子はあまり教育されていなかったんです。和也くんみたいな大卒の子はまだ少なくて、なんというか、家庭環境のよくない子が多かった。そういう子たちに、ホストとしてだけではなく一社会で活かせる教育がしたかったんですよ。単なる一般常識というよりは、教養や品といった部分を含めて。
研究員
なるほど。先ほど和也さんとお話していて疑問だったんですが、書店を始めるにあたり、どういった基準でスタッフをスカウトしたんでしょうか?
手塚さん
ツラがいいやつですね。
和也さん
(笑)。
研究員
意外な理由でしたね(笑)。
手塚さん
あとは、本人が前向きかどうかと、キャラとして書店で働くことがプラスになるかどうか。ホストって「自分商店」だから、昼間っから書店で働いてるなんてことが、人によってはマイナスイメージになる場合もあるんですよ。そんな時間あったら日焼けしたり筋トレしたほうがいい人もいるだろうし。和也くんなんかは、インテリとして見られることが活きるだろうなって思いますけど。
研究員
まったく本を読んだことがない方でもOKですか?
手塚さん
いいんじゃないですか。実際、そういう子に働かせたこともあります。本の使い道は必ずしも読むだけじゃないと思うし、バッグに入れておいて自分を知的に見せるだけでもいい。…ただ、やっぱり物事に集中して考えを構築するクセはつけたほうがいいと思います。本って簡単なものでも読むのに4~5時間はかかるから、今の子はたぶん、その辺が耐えられなくて読まないんでしょう。でも、そういうことができないと、物事の善し悪しを自分で判断できない。知識がない分、一般社会のステレオタイプな「常識」というものに流されてしまうんですよね。なので、自分で考える力を身につけさせてあげたい。

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研究員
お店を始めて8ヶ月ですが、何か変化や意外な点はありましたか?
手塚さん
みなさん、僕を見る目が変わったんじゃないかな。それまでは「いろいろやってる歌舞伎町のホストの人」だったのが、「書店をやっているホストの人」となると、だいぶ扱うのが楽になったみたいで。世の中はそんな簡単に見方を変えるんだな、っていうのは感じましたね。次は議員にでもなってやろうかな(笑)。
研究員
ホストに対する世の中の見方を変えたい、という考えもあったんでしょうか。
手塚さん
それはまったくないですね。僕はホストとして偏見を持たれたりしても、その上でどうするかっていうのを考えて生きてきましたから。僕は世代的に、ブランドや肩書きの魅力も知ってるけど…自分が納得するように生きていくほうが大事だと気づいた。和也くんみたいな若い世代は、自分は何になりたいかより、どう生きたいかっていうのが自然にできてますよね。
研究員
では、ご自身が変わったことはなんでしょう。
手塚さん
より多くの本を読んで、より考えるようになりました。書店を始めた以上、自覚もありますし。お店の選書にしても、ベースは栁下さんにおまかせしていますけど、スタッフ間でも仕入れについて日々意見を出し合っています。書店は難しいけどおもしろいですよ。
研究員
逆に、苦労したことはありますか?
手塚さん
やっぱり新しいことをはじめるわけで、最初は社内コンセンサスを取りづらかったですよね。僕らは商売人で、今月の売上げをどうあげるかっていうのを考えるものだから、書店をやることで長期的にメリットがある、っていうのをちゃんと認識できる人は少ないんです。
研究員
とはいえ、注目度という点では大成功ですね。通常の書店であれば、本自体の売上げをさらに伸ばして2号店進出、というのが自然な流れですが、今後の展開はどのようにお考えですか?
手塚さん
うーん、僕が本で儲けたいって考えるのは書店に失礼かな…。僕は「本はツール」と前々から言ってきたし、単純に本を売るより、場があることによって起きるコミュニケーションを重視しています。歌舞伎町以外だとまた事情が違うでしょうし、やりたい場所が見つかったらって感じですね。

オススメ本をおしえて!

研究員
現在オススメの本をおしえてください。
手塚さん
一番売れているのは永田カビさんの『さびしすぎてレズ風俗に行きましたレポ』(イースト・プレス)です。最近はそういったジェンダー系がよく売れていて、うちの選書も、少しずつそういう方向に振っていってもいいかなと思ってます。あいにく昨日も何冊か売れてしまって手元になくて…今日はそれ以外の本で、帯ごとのオススメを挙げてみますね。

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帯の色について

歌舞伎町ブックセンターの本は3色の帯がついているのが特徴。本の内容に近い色で分類されている。

【黒】ドロドロとしたもの・性的な欲望

【赤】情熱・家族愛

【ピンク】初恋・ファンタジー・官能

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●黒い帯のオススメ

『虐殺器官〔新版〕』伊藤計劃(ハヤカワ文庫JA)
『ポリアモリー 複数の愛を生きる』深海菊絵(平凡社新書)
『男が痴漢になる理由』斎藤章佳(イースト・プレス)

黒い帯の本には常識に一石を投じるような社会派作品が多く、変わったテーマの本に目がない研究員たちの食いつきもひとしおでした。『男が痴漢になる理由』の章タイトル「多くの痴漢は勃起していない」は、本を象徴するような一文。万引きする人が必ずしもお金に困っていないように、犯罪衝動というのはそれほど単純でもないんですね。

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●赤い帯のオススメ

『イケメンホストを読み解く6つのキーワード』関修(鹿砦社)
『自分をあきらめるにはまだ早い 人生で大切なことはすべて歌舞伎町で学んだ』手塚真輝(ディスカヴァー・トゥエンティワン)
『車イスホスト』寺田ユースケ(双葉社)

※和也さんが勤務するホストクラブ「APiTS」の元スタッフが書いた本。

赤い帯の本は、和也さんがセレクト。3冊ともホスト関連書籍です。今回お話を伺った手塚さんはすでにご自身の本を出版。『車イスホスト』の著者・寺田ユースケさんも、和也さんが勤めるホストクラブ「APiTS」で働いていたことがあるなど、身近な方が出版されています。

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●ピンクの帯のオススメ

『弟の夫』田亀源五郎(双葉社)

今年3月にテレビドラマ化された話題作。主に男性同士の性描写を扱ってきた作家が一般誌向けに趣向を変えて手がけたもので、同性愛・同性婚・外国人と、繊細なテーマをハートウォーミングに描きます。この作品が一般誌に連載・書籍化され、多種多様な人が訪れる歌舞伎町に置くべき場所があるというのは、すごく意義深いこと。

せっかくなので、今回は『ポリアモリー 複数の愛を生きる』『男が痴漢になる理由』の2冊を購入。通常は書店を訪れたお客さんが本の帯にオススメ文を書くんですが、今回は特別に、取材したお二人にお願いすることに。手塚さんは決断よくサラサラと、和也さんは考え抜いた末に書いてくれました。

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今後の夢は?

手塚さん
お店がみんなのたまり場になるといいですね。うちのホストも、他のホストも、初めて歌舞伎町に来た人も集まれるような。歌舞伎町のお店って閉ざされていて狭いイメージあるんだけど、誰でも入りやすいような場所でありたい。書店のお客さんがホストクラブに遊びに来てくれたり、その逆だったり、いろんな境目がなくなっていったら嬉しいです。

歌舞伎町ブックセンターはもともとバーだった場所。いまでも夜になるとお酒が提供され、いかにもおしゃれなオープンカフェといった昼の顔とは、また違った一面を見せます。そして、それは今回取材したお二人も同じことでしょう。理路整然としたお話ぶりに、「こんな爽やかな方々が、夜の街でどう変わるんだろう…?」と興味が涌いてしまいました。本好きの方はぜひ遊びに行ってみてください。早くもリピートしている研究員に出会えるかもしれませんよ。

イメージ書店前のバーテーブルで。当たり前ですが、絵になります。

歌舞伎町ブックセンター
〒160-0021 東京都新宿区歌舞伎町2-28-14
営業時間:11:30~翌5:00/年中無休
https://www.facebook.com/KabukichoBookCenter/
※ホスト書店員は土・日曜日の15:00~17:00に出勤