レポート65/2018.12.10
国立国会図書館 開館70周年記念展に行こう

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みなさんは国立国会図書館に行ったことがありますか?国内で出版された出版物を広く収集・保存しており、蔵書数はなんと現在約4,300万点!そんなに大量の資料が、どんな風に保管されているのでしょうか。そんな国立国会図書館は今年、開館70周年の記念展示「本の玉手箱」を開催中。というわけで、記念展示のレポートと同時に、チャンスとばかりに普段一般利用者が入れない書庫まで潜入してきました。

国立国会図書館って何?

70周年記念展示が気になるところですが、まずは国立国会図書館のことを知っておきましょう。

●図書館の役割は?

国立国会図書館には東京本館(永田町)、関西館(京都)、国際子ども図書館(上野)がありますが、今回は東京本館へ。国会議事堂と最高裁判所の間、まさに日本の政治の中心地といった場所にあるのは、実は国立国会図書館には、国会議員にさまざまな資料・情報を提供するという重要な役割があるからです。朝に調査依頼が来て、夕方には回答を求められるようなケースも多々あるため、国会議事堂や議員会館に近い方が望ましいわけですね。

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  • 東京本館(写真左)と本館に隣接した新館(写真右)。合わせて約14.8万平方メートルもあり、サッカーグラウンドが21面以上入る広さ。通常、18歳以上の方しか利用できない

●施設内に潜入

入り口正面には一般の図書館と同じくカウンターがありますが、一見どこにも本は見当たりません。国立国会図書館の資料のほとんどは書庫に保存されていて、利用者は、書庫から資料を出してもらうよう請求する必要があります。また、資料を持ち帰ることはできないので、カウンターで借りたら館内で閲覧し、自宅等で読む必要のある部分については有料の複写サービスが利用可能です。

請求される資料を職員の方に伺ったところ、年代の古い資料や専門書などを例に挙げていただきました。確かに、近所の図書館ではなかなか所蔵していないものも多そうです。研究のため、自叙伝・社史を書かれるためと目的はさまざま。もしかしたら、作家の方も頻繁に利用しているかもしれませんね。

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  • 図書カウンター上部には国立国会図書館法の前文の一部「真理がわれらを自由にする」の文字。当時、参議院議員だった羽仁五郎氏が、新約聖書の一節から着想を得て考案した言葉(写真上)/ズラリと並ぶ資料検索用の端末。開館日はほぼ満員の状態が続く(写真下左)/建物は、ル・コルビュジエに師事した前川國男氏の事務所が設計。きめ細やかな意匠が特徴(写真下右)

●続いて書庫に潜入

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書庫の中心部には、地下最下層まで外光が届くように「光庭」と呼ばれる採光部がある

今回は新館の書庫を見学。地下1階から地下8階まで全て書庫で、温度22℃・湿度55~65%を目安に一定の状態で保たれています。地下フロアの一番長い通路は135メートル。フロア内にはベルトコンベアーが設置されているため、利用者の請求にも迅速に対応することができるそうです。

日本ではすべての出版物を国立国会図書館に納入することが義務づけられており、図書館が自ら購入したり、寄贈されるものを含めると、1年間に受け入れる資料の数は70万点以上にも及びます。増え続ける本の保管場所は、今も昔も大きな課題です。

とはいえ東京本館を増設しようにも、近隣に国会議事堂などの公的施設があるので建物を増設することができない…。ということで現在、関西館を増設中(収蔵能力600万冊→1,100万冊)。デジタル化と平行して対策が進んでいます。

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  • 雑誌や小冊子などのシリーズものは、まとめて製本して保管されることも。欠号がある場合は簡易的に製本しておき【向かって左の状態】、すべて揃った段階で、本格的に再製本する【向かって右の状態】(写真左)/以前は、雑誌の保存と閲覧を両立するために、閲覧用にマイクロフィルムを作成していた(写真右)

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普段は見られない書庫に入ることができ、研究員一同は感激。まだまだ見どころはありますが、施設の見学はこの辺にして、本題の特別展を見に行きましょう。

開館70周年記念展示「本の玉手箱」

例年秋ごろに開催される企画展示。過去には「挿絵の世界」「あの人の直筆」など、本づくり研究所でもぜひ取り上げてみたいようなテーマで開催されました。今回は70周年を記念して、ボリュームのある濃い内容になっています。普段、貴重な書物が保管されている書庫には限られた方しか入れないため、職員の方でも見たことがない本がたくさんあったようです。

●国立国会図書館の70年

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国が初めて設置した図書館は、明治維新後の1872年、湯島聖堂に設置された「書籍館」です。その後さまざまな変遷を経て、1948年にアメリカの議会図書館をモデルとした「国立国会図書館」が誕生しました。議会図書館(国会議員のための調査機関)と、国立図書館(国内資料の収集・管理)を兼ねた図書館があるのは、主要な国では日本とアメリカだけなんです。
日本が戦争へ突入した際、30万冊もの本が地方へ疎開したそうです。国民と同じく、本もまた必死で生き延びてきたんですね。

●美しい本
※使用画像はすべて国立国会図書館デジタルコレクションより引用

『やくしゃにがほ絵団扇画』
団扇画とは、切り抜いて団扇に貼りつけるための画のこと。江戸時代の歌舞伎役者はそれこそトップアイドルだったわけですから、現代のアイドルファンがうちわを持っているのもわかりますね。

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  • 『やくしゃにがほ絵団扇画』(写真上)/『太子伝記』(写真下左)/『梅園草木花譜夏之部』(写真下右)

『太子伝記』
聖徳太子の生涯を描いた奈良絵本。江戸時代につくられたもので、挿絵の上下に金箔が散りばめられた絢爛豪華な一冊です。展示パネルには「(写)」と書かれていますが、最近になってレプリカがつくられたわけではなく、江戸時代に書写されたという意味なので誤解なきよう。

『梅園草木花譜夏之部』
江戸時代の博物家・毛利梅園の作。学者でありながら卓越した画力を持ち、『梅園魚譜』『梅園菌譜』『梅園禽譜』『梅園介譜』などの優れた図譜(図鑑)を多数生み出しました。ボタニカルアートの巨匠・ルドゥーテの『Les liliacées』も展示されていますので、比べてみてはいかがでしょうか。

このほかには、ウィリアム・モリスが創設した私家版印刷所「ケルムコットプレス」で印刷された本も展示されています。モリスの美しい本というと飾り縁や装飾文字がよく話題にあがりますが、チョーサー・タイプという独自の活字を生み出し、驚くほど整然と写植した点も見逃せません。

●変わった本

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『The birds of America』

『The birds of America』
まさにUSAのサイズ感!1m×68cmの超巨大な鳥類図鑑です(4巻組、複製)。できるだけ実物大を再現したい、ということでこうなったそうです。原本は今年6月のオークションにかければ10億円の大台を突破するなど、華やかで話題が豊富な作品。今回の展示の宣伝ビジュアルでも主役を張っています。

他には、一転してかわいらしい装丁が並ぶ豆本コーナーも。文字通り一握りサイズの『一握の砂』のほか、究極の小ささを誇る『蟻』という作品も展示されていました。本のような形をした物体ではなく、さらにその中にある「点」が本体という罠(わずか1.4ミリ)。説明パネルがなければわかりませんね。

純粋に好奇心をそそられる本が多いコーナーです。蓑虫の蓑を30匹分使ったという『書斎の岳人』、竹の皮で作られた『西園寺公望』など見どころ満載。そんな変わり種素材を使った本が数十年後にどうなったのか…?現物を実際に目で見て確かめてみてください。

●どこかで見た本

『さんたくろう』
明治期には、海外の文化をどう翻訳したものか四苦八苦した時期もありました。この『さんたくろう』は、サンタクロースの姿をはじめて絵に書き起こした本として知られています。「北国の老爺 三太九郎」がロバを連れ、杖をつき、クリスマスツリーを持ち歩く。かなり斬新なスタイルです。

『おほかみ』
グリム童話「おおかみと7匹のこやぎ」の和訳版です。冒頭には「独逸グリム氏」の文字が。表紙にある色っぽい女羊をはじめ、登場人物はみんな当たり前のように和服を着て、絵巻物のような構図で描かれます。この和洋折衷リメイクは、今見ると相当オシャレですね。

『蟹工船』発禁本(表紙のみパネルで紹介)
国立国会図書館に原本は所蔵されていない本も、例外的にパネル展示されています。本作のように、戦前の内務省による検閲で発売禁止処分を受けた本は、戦後の占領期にアメリカの図書館に移送され、まだ返還されていない本も1,300点以上あります。ただし、米国議会図書館と共同でデジタル化事業を行ったので、デジタルコレクション上では閲覧することができます。

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『さんたくろう』(写真左)/『おほかみ』(写真中)/『蟹工船』(写真右)

そのほか「どこかで見た本」のカテゴリでおすすめとして、あの名作ドラマ『太陽にほえろ!』の台本が展示されています。松田優作さんの名台詞「なんじゃこりゃあ!」はもともと別の台詞だった!ということで、訂正前の台詞と訂正の書き込みを見ることができます。

国立国会図書館は、行政、司法、そして国民に奉仕する図書館として厳正に運営されている一方で、実は遊び心たっぷりの楽しい展示も行われています。今回紹介した70周年記念展示は、東京のほうは終わってしまいましたが、関西館では12/22(土)まで開催中。まだ国立国会図書館へ行ったことがない方は、この機会に足を運んでみてはいかがでしょうか。

国立国会図書館
http://www.ndl.go.jp/

開館70周年展示「本の玉手箱―国立国会図書館70年の歴史と蔵書―」特設サイト http://www.ndl.go.jp/exhibit70/
東京本館:平成30年10月18日(木)~11月24日(土)
関西館:平成30年11月30日(金)~12月22日(土)
※日曜、祝日、資料整理休館日(12月19日)を除きます。
※今回ご紹介した資料については、展示替えのため、関西館では展示していないものもあります。