レポート69 / 2019.04.10
本棚プロファイリング シーズン3
「本棚を見るとその人の内面がわかる」
本棚から持ち主の性格・ライフスタイルを読み解くシリーズ第3弾。今回は社会人1年目のデザイナー宅を訪問しました。最近まで学生だったのもあり実家住まいということで、第1弾・第2弾のご家庭とは様子が違いそうです。さて、今回は本棚からどんなことがわかるでしょうか。
持ち主(Mさん)の基本データ
【年齢】 23歳
【性別】 女性
【出身地】 東京都八王子市
【家族構成】 母
【職業】 会社員(デザイナー)
【居住地】 東京都八王子市
【居住形態】 マンション
全体を見てまず感じたのは「本が少ない」ということ。多様なジャンルの本がある割に、数は少ない。数少ないからこそ、なぜあえてその本を持っているのか理由を考えることで、Mさんの輪郭が浮かび上がってきそうだ。
検証1 学習机
まずチェックするのは、実家住まいならではのいわゆる学習机。Mさんの年齢でいまだに現役ということは、使用歴はかなり長い。使いやすさだけではなく、家族や親戚からもらったという大切な思い入れがあるに違いない。ふと片隅のまぶしい蛍光ピンクが目に入る。背表紙から糸がだらりと垂れている『ゼミノート4』はハンドメイド製本のようだ。それより気になるのは、左上に貼られた「おむかえ隊長」というメモ。これはどういう意味だろうか。推測するに……集合場所に、目印の旗を持って待ち構えている人のことではないだろうか。団体を取り仕切るリーダー的存在、まさに「隊長」。Mさんの人望の厚さがうかがえるメモだ。ゼミに参加しているということは、専門学校ではなく美大卒。ゼミノートとメモは、学生時代に友人と切磋琢磨しながら仲良く過ごしていた証だ。学習机を大事に使うMさんのことだから、ゼミノートの1~3は学習机の引き出しの中に収納されているのだろう。
〈プロファイリング1〉
・学習机は、家族または親族からもらった大切なもの。
・美大時代、リーダーである「おむかえ隊長」を任命されるほど人望があった。
検証2 「ことば」に関わる本
学習机の棚にはデザインやアート関連の本がずらりと並んでいる。文字のデザインに関するものが特に多い。そして、ひとつだけ際立っている白い箱には「ASABA」のロゴが見える。デザイン界の巨匠、浅葉克己氏の直筆サインだ。浅葉氏と言えば、タイポグラフィで有名な人物。Mさんもタイポグラフィを大学で学んでいたのだろう。
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『タイポグラフィの変遷とデザイン』『HOMAGE TO A TYPEFACE』『はじめてのカリグラフィ』など文字に関するデザインの本が多い。
三浦しをん『まほろ駅前』シリーズを揃えている。その隣には、マジック・ジョンソンの自叙伝、谷川俊太郎や最果タヒなどが並ぶ。
そして、スチールラック上段には谷川俊太郎や最果タヒといった現代詩人の本がある。タイポグラフィは視覚伝達の「ことば」、詩は言語伝達の「ことば」としたならば、Mさんのデザインのルーツも「ことば」にあるのかもしれない。その割に文芸書が少ない気がするが……。文章やストーリー自体ではなく、あくまで「ことば」を重要視しているに違いない。
小説もごくわずかしかない。『ノルウェイの森』は上巻のみで下巻が無いことからも、興味が無いようだ。では、『まほろ駅前』シリーズが揃っているのはなぜだろうか。映画化&ドラマ化されていたことを考えると、出演者のファンかもしれないと思ったが、俳優に関する本は1冊もない。かといって、他の作品はないので、三浦しをんのファンでもなさそうだ。もしかすると、装幀に注目してシリーズ3冊をそろえたのではないだろうか。文庫本ではなく単行本を所有しているのも、装幀や造本が凝っているからに違いない。
〈プロファイリング2〉
・「ことば」を重要視する、詩人タイプのデザイナー。
・本はデザイン的な点に注目して購入している。
検証3 バスケットボールとカルチャー
スチールラックの下段には『スラムダンク』。この大人気バスケマンガは、Mさんが生まれる直前の作品だ。そういえば、上段には1980年代NBAのスーパースター、マジック・ジョンソン選手の自叙伝があったはずだ。NBA選手の生涯にも興味を持つということは、おそらく単なるマンガのファンではなく、中高生時代にバスケットボール部に所属した経験者に違いない。スポ根な青春を送っていたのだろう。
机に視線を戻すと、雑誌は『POPEYE』2冊と『CLUEL』1冊のみ。3冊しかない雑誌はどれも2018年発行のもので、それ以前のものが無いことから、雑誌は容赦なく捨てていくタイプ。雑誌に限らず、本棚全体を見渡しても、眺めて楽しむようなコレクション的な本はなく、すべてが実用的。本は読むもの、活用するものと捉えているようだ。また、メンズのファッション誌を購入しているということから、趣味趣向が想像できる。
右端の額装されたイラストの他、パワーパフガールズのDVD、スパイダーマンのPETS、アンディ・ウォーホル関連の本、NIKEの本など、ポップなアメリカンカルチャーやアートを好むようだ。女子的なカワイイものは見当たらず、かなり男性的な好みなのは明らか。バスケットボールやメンズライクな好みからして、きっと男らしい体育会系、サバサバした一面を持っている女性だろう。
〈プロファイリング3〉
・中高生時代は、バスケットボール部。
・ルーズなパンツにNIKEをあわせる、メンズライクなストリート系。
以上でプロファイリングは終了です。ストリート系、詩人タイプのデザイナーが正解か否か、真相を本人にうかがいます。
〈プロファイリングまとめ〉
・学習机は、家族または親族からもらった大切なもの。
・美大時代、リーダーとして「おむかえ隊長」を任命されるほど人望があった。
・「ことば」を重要視する、詩人タイプのデザイナー。
・本はデザイン的な点に注目して購入している。
・中高生時代は、バスケットボール部。
・ルーズなパンツにNIKEをあわせる、メンズライクなストリート系。
答え合わせ
- 研究員
- 大切に使われている学習机は、特別な誰かに買ってもらったものですか?一生使うつもりとか?
- Mさん
- 小学校入学のときに叔母に買ってもらったものですが、本当は買い替えたいんです。でもお金がもったいないので使い続けています。買うのも捨てるのも大変なので。
- 研究員
- えっ!?愛用しているようにしか見えなかった……。いきなり外れてしまいました(汗)。では、存在感を放っている「おむかえ隊長」のメモが気になったんですが、「集合場所ここですよ~」とゼミを取り仕切るリーダーだったことの証明ですよね?
- Mさん
- (笑)。このメモは、授業始まっても先生がなかなか来ないので、毎回お迎えに行っていたからなんです。ある日、友達が「おむかえ隊長だね」って服に貼ってくれて(笑)。メモは何回か更新されたんですけど、机に貼ってあるのは初代です。メモとか手紙とか手書きのものは、しばらく取っておくタイプなんですけど、「おむかえ隊長」のメモは、貼ったまま剥がす機会も無くそのままにしちゃってました。
- 研究員
- 全然違った……、というか、そんなのわかるわけない(笑)。ゼミノート1~3は引き出しの中ですか?
- Mさん
- 「4」は四期生の「4」なので、ゼミノート1~3はないんですよ(笑)。
- 研究員
- あ、なるほど~。メモとノートは完全に外してしまいましたが、気を取り直して本題の本について聞かせてください。まず、文字に関するデザインの本が多いですね。巨匠・浅葉克己氏のサイン入りの箱もありますが。
- Mさん
- あの箱はピンポン玉が入っていたんです。大学によく講演に来ていて、最後にピンポン球を投げるんですけど、ひとつキャッチしたあとに箱とサインをもらいました。
- 研究員
- 大学でタイポグラフィを学んでいたんですか?
- Mさん
- んー……趣味に近いですね。授業でもやっていましたが、特に文字に気合いを入れていたわけではないです。文字は奥が深いので、ノリでつくってはいけないと思っていて。歴史とか形の細部を本で見ていました。基本的に、机の本はデザインの資料なんです。デザインの本はおおむね1冊でまかなえるんですけど、文字デザインだけは資料が1冊ではまかなえないので、冊数が多いんです。
- 研究員
- 谷川俊太郎や最果タヒといった、詩集がありますね。「ことば」に興味があるのでしょうか?
- Mさん
- はい。詩も奥深くて難しいので、これらの「ことば」がどんな心境で描かれたんだろうと思って読んでみました。
- 研究員
- うーん、話を聞く限り、タイポグラフィと詩に関連は無さそうですね……。小説などの文芸書はほとんど見当たりませんが興味無いんですか?
- Mさん
- 全然関連は無いです(笑)。文芸書はわりと読みますよ。いまは『眠れなくなる宇宙の話』という本を読んでいます。ただ『まほろ駅』シリーズは読んでいませんが……大学で「本の表紙をつくる」という課題の参考資料として買いました。『ノルウェイの森』はいつか読もうと思ってずっとそのままになっています(笑)。
- 研究員
- ことごとく当たらない(笑)。では、『スラムダンク』は元バスケ部のたしなみとして持っているんですよね?
- Mさん
- あ、バスケ部は正解です。中高の6年間やってました。部活仲間は『スラムダンク』の話で盛り上がっていたんですけど、私はマンガに全然興味が無くて読んだことなかったんです。ある日、全然知らない先生に「『スラムダンク』読んだことないなんて、バスケ部の資格無い」と言われて、腹立たしさから買って読みました。
- 研究員
- 意外に深い理由があったんですね。マジック・ジョンソンの自叙伝も、バスケ部だったからNBAのスター選手だし、のようなことで買ったんですか?
- Mさん
- そうです。そんな浮ついた理由です(笑)。でもほとんど読んでいません。
- 研究員
- ようやく正解できました。ところで、雑誌は3冊しかないようですが、古い雑誌は捨てたんでしょうか?
- Mさん
- いや、これが今まで買った雑誌のすべてです。
- 研究員
- えっ!人生で雑誌を3冊しか買っていないということ!?3冊とも2018年発行のものなんですが、……、去年、買ったことのない雑誌を3冊も買ったとは。
- Mさん
- 気分がノリました(笑)。本を捨てたり手放したことは無いです。
- 研究員
- 『POPEYE』というストリートっぽい男性誌のチョイス、デスク周りの雑貨など、女性的なものよりも男性的なほうが好みで、アメリカのカルチャーが好みですよね?ファッション的にはルーズなパンツにNIKEとか。
- Mさん
- はい、好みは合っています。ストリート系に限らず、色んな格好が好きですが、NIKEは好きです。ちなみに、机の右下の一角は積ん読アピールでこれから読む本です。お気に入りのものを飾る、神棚のような部分です。
- 研究員
- 以上で終了です。いやー、今回はかなり難しかった!お時間をいただきありがとうございました!
〈結果〉
・学習机は、家族または親族からもらった大切なもの。→△
・美大時代、リーダーとして「おむかえ隊長」を任命されるほど人望があった。→△
・「ことば」を重要視する、詩人タイプのデザイナー。→△
・本はデザイン的な点に注目して購入している。→△
・中高生時代は、バスケットボール部。→○
・ルーズなパンツにNIKEをあわせる、メンズライクなストリート系。→○
いかがでしょうか。今回は、プロファイリングがことごとく外れてしまいました。メモやゼミノートの意味、『スラムダンク』や小説の購入のキッカケなど、意外で当てきれませんでした。本棚は人をあらわすといいながら、具体的な人物像を導き出すのは難しいですね。次こそは!と、決意を新たにしました。乞うご期待ください。