レポート68/2019.03.11
ブクブク交換 by 本づくり研究所
本を交換しあうイベント「ブクブク交換」。以前、東京・西国分寺のクルミドコーヒーで開催されたブクブク交換に参加させていただきました(研究レポート28参照)。楽しいイベントだったので、いつか自分たちで主催したい!と考えていたのですが、今回はひとまず本づくり研究所内のメンバーでやってみようということに。参加者5名。見知らぬ人同士のイベントとは違って、普段から一緒に働く身近な人同士のブクブク交換ですが、何が出てくるかは意外と予想がつかず、ドキドキワクワクです。
ルールのおさらい。
流れは以下のとおりです。
①全員の推薦本を机に並べます。何冊持ってきてもOK。
②最初は主催者が自らの推薦本の魅力をプレゼン後、次のプレゼンターを指名。
③全員の推薦本紹介が終わったら、各自どの本が欲しいかシンキングタイム。
④みんなで「せーの!」で指差し。希望が重なったらジャンケン。
ブクブク交換は、自分がオススメしたい大好きな本を持っていくことが条件です。大好きなのに交換しなければならない…という微妙な気持ちもありますが、「プレゼントしてでも読んでほしい本」と考えましょう。ジャンル、作家、文章の書き方などなど、好きな本は読み手の趣味嗜好や人柄をそのまま反映しますので、ブクブク交換はお互いのことがよくわかって、距離を縮めるのにもってこいのイベントなんです。
テーマは「おいしい」。
今回の参加者は以下の研究員5名。
A美
出版コーディネーター。海外ミステリ小説が大好物。夫と2人暮らし。手芸と料理が趣味ながら下手の横好きでナカナカ上手くならないのが悩み。
B江
出版コーディネーター。去年まではノンフィクションにハマっていたのが、流行に流されて韓国文学ブームまっただ中。わりとミーハー志向。
C子
神戸出身&在住、入社一年目のデザイナー。地元愛が強いが普段は隠している。推しに会えない宝塚のチケット難民。
D代
出版コーディネーター。『鬼平犯科帳』を人生のバイブルとして愛する。夫・娘と3人で美味しいものを食べることに幸せを感じている。
E奈
デザイナー。生息地域は立ち飲み屋。石を集めては眺める日々を送る。今年こそ「積ん読癖」をあらためたいと思っている(でももう挫けそう)。
ブクブク交換は、毎回本のテーマを決めるのが特徴。今回のテーマは「おいしい」。これに決めた理由は、単純にみんなおいしいものが好きだから。では、本を並べてみましょう。
小説、マンガ、絵本など、おいしいと言ってもジャンルはさまざま。トップバッターのA美さんは2冊持参したようです。
『食堂かたつむり』
- A美
- とにかく丁寧に料理をつくるんです。食べる人のことを考えて、気持ちを込めて。で、食べた人は心を開いたり大切なことに気づいて幸せになる。そんなエピソードがいくつか描かれている小説で、読んでいるとあたたか~い幸せな気分になれます。
肝心の料理ですが、シンプルなカレーをリクエストしても出てくるのはピンク色の「ざくろカレー」だったり、あまった大根の皮とか人参のひげとか厨房にある野菜を何でも入れてコトコト煮込む味付け塩だけスープだったり、出会ったことのないおいしそうな料理ばかり。つくり方も丁寧に描写されているから、食べてみたいのと同時につくってみたい気持ちにもなります。 - C子
- ざくろカレーって美味しいんですかね?酸っぱそう。
- A美
- 甘酸っぱいみたい。ただ、山で採ってきた野生のざくろだから想像以上の酸味だそうで。個人的には拒食症のうさぎを治してしまうところが一番好きでホッコリ度MAXです!
映画化までされた有名な本ですが、偶然にも読んだことのある研究員は少なかったようです。ストレートに「おいしい」を表現している小説なので、ひとつめの推薦本としてはうってつけでした。つくってみたい気持ちにもなると紹介しましたが、もしかして…と探したら『食堂かたつむりの料理』というレシピ本も出ていました。
『ダイナー』
- A美
- これも食堂の話ですが、こっちは全然癒されません(笑)。主人公のウェイトレスは、闇サイトで怪しい仕事に手を出して、生き埋めの刑から逃れてダイナーで働かされるんですけど、そこはなんと殺し屋だけのための食堂。お客は全員人殺しだし、シェフも元殺し屋。お客がご機嫌ナナメなときにお皿の出し方が悪いと殺されちゃうかもしれないっていう。
- D代
- ほんとだ、全然癒されない(笑)。
- A美
- でも出される料理はすべてが絶品なんですよ。この表紙のハンバーガー、めちゃくちゃおいしそうじゃないですか?
- E奈
- 最初に並べられたときから気になってました!
- A美
- 小説の最初に出てくるメニュー、「メルティ・リッチ」っていうチーズバーガーなんじゃないかと思われます。このダイナーの名物は、小鹿・子羊・熊・鴨・牛・豚の肉を使った「究極の六倍」という超贅沢なハンバーガーで、これもまたおいしそうで…。常に最後の晩餐気分の『ダイナー』は、裏社会や闇社会、あと暴力や狂気が好きな人にオススメです。
- B江
- 『食堂かたつむり』と『ダイナー』の2冊を選ぶとは…選書のふり幅がすごい。
どちらも絶品料理が出てくる食堂という共通点がありながら、A美さんが持ってきたのはまったくタイプの違う2作品。この対比が面白いですね。活字だけで料理をここまでおいしく描写できることはもちろん、ストーリーがスパイスになって、より料理が魅力的になるのも小説の醍醐味です。
『カステラ』
- B江
- 韓国の作家の短編集です。映画やドラマ、K-POPと韓流ブームは社会現象になりましたけど、韓国文学が話題になったのってここ数年なんですよ。『カステラ』はその先駆けと言える本でもあります。
- A美
- 韓流アイドルなら自信あるけど、文学まで目を向けてなかった!
- B江
- A美さんの『ダイナー』と同じく表紙のカステラが美味しそうじゃないですか?冷蔵庫で冷えてます(笑)。あと装丁がカステラ風ですごくかわいくて。カバーをめくると表紙が茶色くて、見返しが黄色いんです。
- 一同
- かわいい!おいしそう!!!
- B江
- ちょっと不思議なSFっぽいお話で、なんでも入る冷蔵庫が出てきて、お父さんを入れたり、お母さんを入れたり、ついには街や国まで入れてしまう。社会における孤独や苦しみも描かれていて、いろいろあって「すべてを許せるような」味わいのカステラが登場します。
- D代
- 「すべてを許せるような」…味わい深いね。
印象的な装丁に盛り上がる研究員一同。B江さんの説明では、なんでも入る冷蔵庫の意味がよくわかりませんでしたが、だからこそ絶妙に読んでみたい気もします。出版業界にも韓流ブームが到来していたという新鮮な驚きもありました。今後は韓国文学もチェックしておくべきですね。
『カラスのいとし京都めし』
- C子
- 私はマンガを持ってきました。大学時代に住んでいた京都が舞台で、実在のお店が登場するので、行ったことがあるお店が出てくると嬉しくて。ストーリーは、人間に化けたカラスがバイトをしたり下宿をしたりと社会生活を営みつつ、京都のいろんな料理を楽しむんですけど、とにかく美味しそうな料理ばかりだし、マンガなので美味しそうにほおばる絵を見るとめっちゃお腹空きます(笑)。
- A美
- 表紙の食べてるイラストがおいしそう!
- C子
- でしょ?この表紙が気に入って買い始めたんですよ。金髪の男の子はハトが人間に化けていて、ほかにもタヌキに化ける置き物タヌキとか、伏見稲荷のお稲荷さんとか、キャラクターもかわいいです。
- A美
- (ページをめくりながら)あれ、カラスの姿のときもあるんだ?
- C子
- ふだんは人間の姿なんですけど、酔っぱらうとカラスに戻ってしまうんです。奈良漬で酔ってしまったこともあって(笑)。でもお店で出て来た梅酒も飲んでみたいというような葛藤もありつつ、いろんなものを食べていきます。巻末にマップや料理の値段が載っていて、グルメ本として楽しむこともできるんですよ。
パラパラとページをめくりながらストーリー設定やキャラクターの魅力まで熱く語るC子さん。マンガはイラストで「おいしい」を伝えられるから強いですね。グルメ本としての実用性も兼ね備えているので、読んで京都食べ歩きをしたい人にもおすすめです。
『クマくんのバタつきパンのジャムつきパン』
- C子
- こっちは小さい頃から家にあって、ずっと読んでいる絵本です。特にイチゴジャムのツブツブがすごくおいしそうで。変なタイトルも気に入っていて今でも何度も読んじゃうんです。
- D代
- ほんとだ!ツブツブがリアル。
- E奈
- (イラストを見て)ウサギがいい味!素朴で、丁寧なんだけど絶妙にデッサンが狂わされていて、不思議ないとしさが…かわいい…。
- A美
- 文章もかわいいね。ばたばたパンのむにゃむにゃパン。テンポもいいし。
- C子
- 「おかあさんといっしょに」とレシピがひらがなで書いてあって、昔はこれで母と一緒にイチゴジャムをつくったりもしました。ほかにもシリーズで何作か出ているんですけど、やっぱりこのタイトルが好きですね。ゴロがいいのか悪いのか(笑)。
マンガと絵本というビジュアル重視の2冊を持参したC子さん。まんまと不思議な味わいのイラストに食い入る研究員たち。「クマくん、足首が軟らかすぎ??」「イチゴ摘みをするウサギくんのおしりが人間みたい(笑)」「ウサギくんの登場ポーズがかっこよすぎる!」と一つひとつのイラストについて思い思いの感想を述べはじめ、収拾がつかなくなりました。それにしても、絵本のパンはなぜこんなにもおいしそうなのでしょうか。
『税制優遇のおいしいいただき方』
- D代
- 私はオイシイお金の話を持ってきました(笑)。
- A美
- さすがD代さん!(笑)
- D代
- 3つのお皿にたとえた税制優遇の「おいしい」知識についての本です。ザックリ紹介すると、1皿目はCMでも有名なふるさと納税、2皿目はiDeCoという愛称で呼ばれている個人型確定拠出年金、3皿目は株などの投資の運用益や配当金を非課税にするNISA。
- E奈
- iDeCoはつい昨日話してたところです!
- A美
- ふるさと納税も有名だけどイマイチよくわかってなくて…。
- C子
- ん~難しそうです…。
- D代
- (質疑応答ののち)もっと事細かに説明したいところですが、続きはこの本を読んでもらうとして…(笑)。こういうことって煩雑で難しそうじゃないですか、何だかよくわからないっていうか。だからこそ同じような本がたくさん出ているんですけど、中でもこの本は書き方がフレンドリーで具体的でわかりやすいのがオススメポイント。さらに500円という安さ!財布にやさしいこの本でおいしい生活を送りましょう。
「どこの業者のまわしもの?」と疑いたくなるほど、淀みなく税制優遇の(いや、本の)説明を進めるD代さん。各銀行の比較表にオススメの銀行を自ら書き足すなど、完全に本を営業ツールとして使いこなしています。「すぐにふるさと納税を申込みたい」「iDeCo始めなきゃ」と次々洗脳されていく研究員たち…。
『きのう何食べた?』
- E奈
- 春にドラマ化されるのでみなさんご存じかもしれません。料理を軸にシロさんとケンジっていう男性同士のアラフィフカップルの日常を描いたマンガです。
- A美
- ドラマでは西島秀俊さんと内野聖陽さんが演じるんだよね?
- D代
- え!どっちが西島さん?
- B江
- シロさんが西島さんで、ケンジが内野さんらしいです。
- 一同
- おお~!(納得)
- E奈
- 生きることに欠かせない食事を中心にして、何気ない日々の大切なことに気づかせてくれるような話で、本当に何気ないことなんですけど、沁みるんですよ…。調理シーンはつくり方から盛り付けまでマンガの絵で全部わかるので、レシピ本としても使えて一石二鳥です。
- C子
- マンガの良さですね!食べるところもおいしそうだし。
- E奈
- シロさんは出汁を昆布からとって…というのは面倒くさいからって市販の白だしを使ったりするから、料理が不得意な私でも「これならできそう」と思えるんですよね。
E奈さんは有名な人気作品を持参。ドラマ化の話題は盛り上がり、マンガ原作の実写化に厳しめの研究員たちも、このキャスティングには文句なしのようです。必ず副菜をつくってくれたり、しょっぱいものと酸っぱいものなど味が重ならないようバランスも考えてつくってくれるシロさん。料理が苦手な研究員からは「シロさん、家にいてほしい」「私も!」「私もです」という切実な声があがりました。
シンキングタイム。
さてさて、この中から1冊を選ぶのは難しい…。みんなの熱弁を聞いてお腹が空いたので、「森のおはぎ」をいただきながらじっくり検討。テーマが「おいしい」だけに、おやつも当然こだわります。
-
大阪にしかない大人気店「森のおはぎ」は、夕方から夜にかけてオープンするめずらしいスタイル。
- A美
- 税制優遇の熱弁、効いてます~。交換は別のにして安いから自分で買ってもいいかな。
- B江
- 本もさることながら、D代さんについていきます!って感じになりましたね(笑)。
- E奈
- どれもおいしそうですよね。いつもは活字よりマンガを選びがちなんですが、迷います…。
- A美
- マンガもいいな。絵だと食べるシーンがすごくおいしそう。
- C子
- せっかくだから普段読まないような本を選びたいな~。
- D代
- 西島さんと内野さんのドラマを観る前に原作を読んでおくべきかな…?
最後に、欲しい本を指名。
では最後に、各自欲しい本を「せーの!」で指さします。
- A美
- そろそろ気持ちは固まりましたでしょうか?では、欲しい本を指さしましょう。
- 一同
- せーの!
A美さんがプレゼンした『ダイナー』がイチバン人気でC子さんとE奈さんの2人から指名。希望がかぶったときはジャンケンで決めるのがルールです。
-
E奈さんがC子さんとの対決を制して見事『ダイナー』をゲット。
- E奈
- ジャケットのインパクトと、奇想天外なストーリーに惹かれました。あと恥ずかしながら狂気じみた人間の話が大好物で…。
- C子
- 私もです。
- A美
- そういった方々にはきっと満足してもらえると思います。
- E奈
- 元殺し屋がつくる「究極の六倍」がどんな描写で、どれほど美味しそうに書かれているのかも知りたいです。
●A美さんの選んだ本『カラスのいとし京都めし』
- A美
- マンガはたくさん読んでいて知ってるつもりだったのに『カラスのいとし京都めし』は知らなくて、読んでおかなきゃ!と。
- B江
- たしかに、A美さんが買って読むタイプじゃないかもですね。
- A美
- C子さんのプレゼンを聞いて、ホンワカしたかわいいキャラクターとおいしい食べものを味わってみたいなって思いました。
●B江さんの選んだ本『税制優遇のおいしいいただき方』
- B江
- D代さんの営業トークとしか思えないプレゼンにすっかり洗脳されました(笑)。有益な情報が追記されているこの本を読んで、税制優遇を学びます!
- D代
- 気になる点や疑問点などありましたらお気軽にお問い合わせください(笑)。
-
A美チョイス『カラスのいとし京都めし』(写真左)/B江チョイス『税制優遇のおいしいいただき方』(写真右)
●C子さんの選んだ本『カステラ』
- C子
- 自分がマンガと絵本を持ってきたこともあって、小説が読みたくなりました。なんでも入る冷蔵庫ってどういうことなのかな~って。そんな冷蔵庫にちょこんと入っているカステラの表紙も不思議。かわいい装丁はみんなに自慢したいですね。
- A美
- カステラみたいな本そのものがおいしそうだもんね!
●D代さんの選んだ本『きのう何食べた?』
- D代
- 西島くんと内野さんのダブル主演でドラマ化と聞けば、読まないワケにいかないでしょ。
- E奈
- わかります~~~!!
- D代
- これを読んだら苦手な料理も好きになれそうだし、西島シロさんと内野ケンジを妄想して癒しを得たいと思います。
-
C子チョイス『カステラ』(写真左)/D代チョイス『きのう何食べた?』(写真右)
このイベントは、普段の自分では買うことのないような本に出会えるのがなにより嬉しいのですが、持参した本や選んだ本から垣間見える、人ぞれぞれの個性や性格を感じるのも面白いところ。普段から一緒にいる研究員同士でも、テーマに対する考えや本の好みを知ることで、お互いに意外な一面をみることができたようです。新入社員を迎える際のイベントとしても良いかもしれません。プレゼンの腕を各自磨き、今度はまた違うテーマで、定番のイベントとして行いたいですね。