レポート18 / 2016.11.15
書店調査「駒鳥文庫」

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大阪天満宮の参道を出て数分のところにある駒鳥文庫さんは映画専門の古書店。カフェのような店舗に一歩踏み入れると、映画の本がずらり。カメラやフィルム、店名に入っている「鳥」をモチーフにした小物がセンスよく飾られているのも楽しく、つい長居をしてしまいがち。今回はそんな駒鳥文庫の店主、村上淳一さんにお話を伺いました。

映画専門の古書店。

研究員
映画専門の書店ってかなり珍しいと思うんですが、始めたきっかけは何ですか?
村上さん
たまたまですね(笑)。古本屋になる気もなかった。映画やテレビのライティングの会社に就職が決まっていたんですが、働き出す2ヶ月ほど前、大正13年から続く古本屋の正社員募集という求人をたまたま見つけて、話のネタに面接を受けに行きまして。本気ではなかったので「古本屋って将来やっていけるんですか?」「大丈夫ですか?」とか、ぶしつけに聞いていたら、当時の店長に、面白い奴が来たと逆に気に入られたんです。明日から働きにおいでよと言われて、なんとなく働き始めまして。それから5年くらい経ち、会社が人員削減する状況になり「あ、じゃあ僕辞めます、独立します」みたいな流れなので…。本屋がやりたいわけでもなく、流れ流れてですね(笑)。
研究員
(笑)。それにしても、映画専門の古書店にしようと思ったのはどうしてですか?
村上さん
映画好きだったので、それなら映画専門の古本屋にしちゃえ、ということで。最初はインターネット専門店として始めました。しばらくして、知り合いから「物件空いてるけど借りへん?」と言われて「ああ、借りる」という感じで、お店を持ちました。

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研究員
最初はこの場所ではなく、同じ南森町でも別のビルだったんですよね。
村上さん
そうなんですが、この場所も空いていた物件で「なんか良い使い道ない?」という相談を受けたのがきっかけです。あれこれ提案してるうちに「じゃあ自分で借りたら?」ということで。さすがに2店舗は手がまわらなくなり、現在の1店舗にしました。全て話の流れ(笑)。物件を探したこともないし、お恥ずかしい話なんですが(笑)。
研究員
いえいえ、かなり特殊で面白いですね。古書店が多いから天神橋筋商店街を選んだのかと。
村上さん
全然(笑)。実は何も考えていない。

映画制作に役立つ本を集めたい。

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研究員
まずは映画というテーマがあると思いますが、どんな基準で選書されているのでしょう?
村上さん
映画について書かれているものなら全て揃えたいと思っているんです。まあ、それは難しいとしても、映画を志す人、大学の映画学科に通っている子なんかが参考にしたり、資料になるようなものをできるだけ集めたいと思っています。
研究員
映画業界を目指す人への本というと…技術的な専門書とか?
村上さん
技術的な本は多くないんです。監督など撮影に関わった人が書いた本、エッセイではなくちゃんとした評論なんかですね。作品を撮った当時のエピソードや考えなど、監督本人にしかわからないことも多いんで、見た人が感じたことと監督の思いにギャップがあったりするんですよ。僕も学校で映画の勉強をしていたので「これは参考になるな」というのはわかる。ただ単に映画を見ているファンではなく、つくり手になりたかったので。やっぱり監督が語る言葉はヒントになると思うし、面白いんです。そんな本を読んで僕の代わりに映画をつくってもらえたら嬉しい。それで映画制作のお手伝いができる選書にした、というのはあります。

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研究員
映画学科の学生さんなど、実際にそういったお客様がたくさん来店されるんでしょうか?
村上さん
学生自体がそれほど多い街ではないんですが、それでもたまに本を探しに来られます。あとは、映画に興味がない人でも、ふらっと街に訪れて、お店に来て映画を好きになるきっかけになれば、という思いもあります。だから、専門店なんですけど敷居は低くしてます。年配の方もいれば、意外と若い女の人も多いですよ。
研究員
確かにすごく入りやすい雰囲気です。
村上さん
カフェと間違えて入って来たとしても、それはそれで嬉しいなあ、と。
研究員
コーヒーだけ飲みにくる方もいらっしゃるんですか?
村上さん
近所の方がたまに。ただ、やっぱり基本は古本屋。古本を目当てに来た人に、休憩がてら飲んでもらうぐらいの気分なので、ブックカフェではないと思っているんですよ。だから宣伝はそんなにしていないです。
研究員
この「読書専用ブレンド」って、どんな味ですか?
村上さん
冷めても酸味がきつくならず、おいしく飲めるコーヒーにしたいなと。そんな風にお伝えして神戸の珈琲店にブレンドしてもらってます。読書していて、気がつくとコーヒーが冷めている……ということが多いんで。
研究員
カフェナポレターナ(淹れ方にこだわりのあるナポリのコーヒー)もありますね。
村上さん
イタリアの映画に出てくるんです。せっかくなので映画にちなんだものをいろいろ探していまして。ただ、毎回味にばらつきが出るんですよ。映画にちなんだものということで、お客さんには了承してもらって出しています。

本の仕入れは一期一会。

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ウディ・アレン『ボギー!俺も男だ』岸田里生訳、新書館

研究員
お薦めの本をいくつかご紹介いただけますか?
村上さん
●ウディ・アレン『ボギー!俺も男だ』
僕、ウディ・アレンを人生の師匠と思ってるくらい大好きなんです。これはウディ・アレンが書いた戯曲で、この映画がすっごく良い。もともとコメディの人で、SFのパロディであったり、スパイ映画のパロディであったり、あんまり今につながる恋愛要素みたいなのはなかったんですが、この『ボギー!俺も男だ』からそういう要素が入り始めた。監督は別の方なんですけど、本人主演で映画化されました。映画『カサブランカ』のハンフリー・ボガードに憧れている男の話で、恋愛相手は『アニーホール』のダイアン・キートン。2人の最初の出会いの映画で、そういう意味でも面白い。ただ、ウディ・アレンが監督した作品ではないのであまり知られてないんです。最近DVDが出ましたが、それまではVHSしかなくて、なかなかレアな作品だったので、本でしか内容を知る方法がない時期もありました。文章が知的でウィットに富んでいるし、ブラックユーモアもきいている。お薦めです。
●ジョン・ウォーターズ『悪趣味映画作法』
映画学校時代、真面目に芸術的なのを撮らなきゃいけないって思ってたんですが、ジョン・ウォーターズの映画に衝撃を受けたんです。「お金をかけずに、ノリでこんなんでもええんや」と。実際は悪ノリだけじゃなくて、賢くてセンスも良い人があえてやっている、というところが面白いんですが。本には撮影した映画の話なんかも入っていて、しょうもない話も多いんですが、面白い。
●岡本喜八『ただただ右往左往』
岡本喜八も大好きな監督です。っていうか今回のお薦め本、好きな監督の本を並べただけなんですけど(笑)。作品に人柄が出てる監督なので、小説、エッセイも面白い。あんまり新刊では出ていないと思うんですよ。もし古本屋で見つけたら、ぜひ読んでみてもらいたい。ユーモアがあって読みやすい文章なんですけど、反戦など世代的に1本筋が通っていて、作品に通じるところもあると思います。監督自身が書いた本は、創作の秘密の断片がうかがえる気がしますね。
●ウイリアム・サローヤン『パパ・ユーア クレイジー』伊丹十三訳
伊丹十三が翻訳したものです。マルチな方で、海外の映画にも俳優として出演していたり。未だにエッセイなんかは人気ですけど、実は翻訳もやってるぞってことで。映画に関する本以外にも、ジャガイモの育て方だけが書かれた『ポテト・ブック』という絵本の翻訳もしています。料理にも造詣が深いし、本当に多才ですね。紹介しておきながら、実はまだ読んでないんです(笑)。読もうと思って、奥に隠してあるので、読んでから棚に入れます(笑)。

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ジョン・ウォーターズ『悪趣味映画作法』柳下毅一郎訳、青土社(写真左)/岡本喜八『ただただ右往左往』晶文社(写真中)/ウイリアム・サローヤン『パパ・ユーア クレイジー』伊丹十三訳、ワーク・ショップガルダ(写真右)

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研究員
本はどうやって仕入れるんですか?個人の方から?それとも業者向けの市場とか?
村上さん
基本的には個人のお客様に譲っていただくんですが、パンフレットばっかり…ですね。ほぼ毎日のように持ち込まれます。パンフレットを引き取る古本屋がほとんどないので。
研究員
パンフレットってコレクターに人気が高そうですが、引き取ってくれないところが多いんですね。
村上さん
意外にそうでもないんです。パンフレットはたくさん印刷されて世の中に結構残っているので、よっぽど古いものでない限りプレミアがつかないんですよ。でも、ウチではパンフレットが1番売れていますね。コレクターでなくても、好きな作品を選んで購入されます。ほとんど買い取り時に値段がつかないものが多いんですが、その代わり販売価格を1冊200円とか300円程度にして、他店では高価なものでも均一価格で販売しています。ポスターやチラシの方がコレクターは多いんですが、ウチはあまりそこに特化してないですね。買い取りはしますけど、やっぱり僕は本をやりたいんで、そういうのは他の専門店に任せてます。
研究員
なるほど。やはり映画制作に役立つ本が中心なんですね。
村上さん
とはいえ、古本屋は基本的には持ち込まれるものを扱うので、いつどこでどんな本に出会えるかわからない。こればっかりは一期一会。出会った本をいかにさばくか、それが主な仕事なので。ただ、家1軒分とか何千冊規模の買い取り依頼があると…、お店に入りきらないし、映画に関係のない本も入っているので、他の古本屋さんに助っ人を頼んだりもします。

架空の書店のブックカバー展。

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研究員
ところで、映画館に出店されたことがあるとか?
村上さん
神戸の元町映画館さんと話をする機会がありまして「何かやりませんか」ということで。同じ時期に、京都のみなみ会館さんとも知り合いになる機会があり、神戸でやるなら京都でも…、すると大阪の阪神百貨店からも声がかかったので、せっかくだからジャパンツアーにしようと。ちょうど5周年で何かしたいとは思っていたんです。東京のかもめブックスさんにも連絡したら「ぜひぜひ」ということになり、追加で和歌山の野外映画祭にも出店して、計5ヶ所でやりました。
研究員
ジャパンツアーの反響など、いかがでしたか?
村上さん
普段出会えない人と出会えて面白かったです。お店をずっと休んでしまったのが気になってしまいましたが…(笑)。その反動で、今年は本拠地を大事にしようと思っています!ツアーの前に主催した、架空の本屋さんのブックカバー展「約300人のブックカバー展」など、去年は外で携わるイベントが多かったので。
研究員
架空の本屋さんのブックカバー展ってどんなイベントだったんでしょうか?
村上さん
「架空の本屋さんで使われているブックカバーのデザイン」を一般公募して、実際に印刷して展示販売するというイベントです。2014年に開催して好評だった企画の第2弾で、東京は渋谷ロフトと渋谷パルコ。名古屋も名古屋ロフトと名古屋パルコ。大阪は梅田ロフトと丸善ジュンク堂。2ヶ所同時開催を3都市でやったんですよ。
研究員
以前、本づくり研究所で書店のブックカバーを特集しまして。その調査中、この架空のブックカバー店のブックカバーがたくさん出てきたんです。「あっ、この書店かわいい。どこの書店だろう」と調べてみると架空のお店、ということが、実は何度もありました(笑)。
村上さん
それはまんまとこの企画にはまりましたね(笑)。電車なんかで架空のブックカバーを使ってもらい「あれ、どこの書店のだろう?」って思ってもらいたかったんです。
研究員
それにしても、東京と名古屋と大阪、どこも大きな会場です。
村上さん
渋谷パルコといえば文化の発信地なので、建て替え前にイベントができたことは光栄なことです。梅田ロフトは売上が良かった。数字自体はそれほどでもないんですが、宣伝費が全然かかってないので、利益率が歴代1位くらいのレベルでした。その他、お盆と年末には阪神百貨店で古書即売会を主催したり、とにかく外でのイベントが多かった1年でしたね。

本は、映画という魔法のタネ明かし。

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研究員
今年はお店に力を入れるということで、新たにチャレンジしたいことなどありますか?
村上さん
んー、まあ末永く(笑)。できるところまでやっていきたいですね。今年も年末に阪神百貨店での古書市はやります!まだお話できないんですが、新しく考えていることもあったりします。
研究員
最後になりますが……ズバリ、映画と本ってどういう関係にあると思いますか?
村上さん
そうですね。基本的にどれだけ映画を見ても、画面に映っている以外のことってわからないですよね。ジョージ・ルーカスのつくったIndustrial Light & Magicという映画会社があるんですけど、「光」と「魔法」っていう言葉が、映画の本質を端的に表してるなあ、と思うんです。光がないと何も見えない。そこにちょっとした映画ならではの魔法で、実際にはない景色が見えたり…。映画ができた当初なんて、絵や写真が動くということ自体が本当に魔法のように感じられたと思うんですよね。実は、そのタネ明かしが本に書かれていたりする。手品を見ていると「あれ?どうなってるんだろう」ってちょっと知りたくなる。そんな秘密の答えが書いてあるのが、映画本だと思います。
研究員
なるほど、映画という魔法のタネ明かし…、納得です!

古書店の枠に収まらず、ジャパンツアーやイベントの企画まで行う駒鳥文庫さん。今後の活動にもますます目が離せません。映画好きな方にはもちろんおすすめのお店ですが、なんとなくコーヒーを飲みに訪れた人も、きっとお気に入りの本と映画に出会える気がする。そんな雰囲気を持ったお店でした。

駒鳥文庫
〒530-0041 大阪市北区天神橋1-14-11 天神ビル1F
TEL 06-6360-4346/営業時間:12:00-19:00/定休日 月曜日その他
http://komadori-books.jp
2016年12月24日をもって閉店されました。