レポート59/2018.09.06
楽しい特殊加工

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書店でひときわ目を引くキラキラの表紙や、変わった形の本。ページをめくって初めてわかる仕掛け。そんな工夫のある本を見つけると、思わずワクワクしてしまいますよね。特殊加工はモノとしての本の魅力を引き上げ、出版文化をより豊かにしてくれる大事な要素。今回は目的に合わせた、多種多様な手法をご紹介します。

輝きたい!

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箔押し

●『本デアル』夏目房之介(毎日新聞社)
箔押しは、専用の型に金属や顔料の箔をつけて紙に熱転写する加工です。単にインクを使って印刷するよりしっかり光沢が出せるのが特徴で、素朴なイラストも金箔を使うとグッと上質な印象になります。

●『夕日』太田マサエ(パレードブックス)
続いては銀箔。箔は化粧箱や布貼りの表紙にも転写可能で、記念本にもよく使われます。高級感重視か、控え目な主張か。ちなみに箔押しは金や銀のようなメタリックだけでなく、その他さまざまな色があります。

ホログラムPP

●『音叉』高見沢俊彦(文藝春秋)
本の表紙には傷やインク剥がれ防止のために透明なフィルム(PP)を貼るのが一般的ですが、あらかじめホログラム加工された特殊フィルムを使えば、キラキラ光る派手な本に仕上がります。王子様が書いた本にぴったりですね。

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  • 銀箔押し『夕日』(写真左)/ホログラムPP『音叉』(写真右)

盛り上がりたい!

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  • エンボス『保育園産の米』(写真上)/厚盛印刷『FREE STYLE SCRAPS 02 PICTOGRAM―ピクトグラム』(写真左下)/エンボスPP『魔の断片』(写真右下)

エンボス(空押し)

●『保育園産の米』社会福祉法人 大阪誠昭会(パレードブックス)
エンボスは箔をつけずに型押しすることで紙に凹凸をつくり出す加工。本以外にレターセットや名刺などにもよく使われます。画像は加熱した部分が透明になる特殊紙(パチカ)を使った上級編。お米のつややかさとつぶつぶ感を再現し、「日本ブックデザイン賞2018」「日本のグラフィックデザイン2018」ほか、複数のコンペで入賞・入選を果たしました。

厚盛印刷

●『FREE STYLE SCRAPS 02 PICTOGRAM―ピクトグラム』(PAN新社)
インクのついた絵柄部分を盛り上がらせるのが厚盛印刷です。画像の本は樹脂パウダーをふりかけて加熱する「バーコ印刷」の例。この方法だと表面が若干ザラザラしますが、もっとツルッとさせたい場合は、特殊インクに紫外線をあてて固める「UV印刷」という方法もあります。エンボスといい、立体的な加工はとにかく触りたくなる不思議な中毒性がありますね。

エンボスPP

●『魔の断片』伊藤潤二(朝日新聞出版)
「輝きたい!」の項でホログラム加工のPPを紹介しましたが、フィルムに凹凸をつけたエンボス加工のPPもあります。角度を変えれば絵柄が浮かび上がる、という見た目の工夫と、手触りのおもしろさを兼ね揃えた加工です。

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フロッキー加工

●『Bijou, Sara, Bryan & Monique』Julian Opie(Lisson Gallery)
紙や布などの素材に、繊維を貼りつけてふわふわに仕上げる加工です。インパクトは抜群ながら、コスト面で大量印刷に向かないため、書店で見かける機会は少ないんじゃないでしょうか。加工ではなく、あらかじめパイル地を裏張りした「ヴィベールP」という特殊紙を使う方法もあります。

変形したい!

トムソン加工

●『B PLASTIC BEATLE―ビートルズの遊び方』米澤敬(牛若丸)
専用の型や機械を使えば、本をさまざまなカタチに仕上げることができます。まずは本全体を切り抜いた例から。グラフィックデザイナー・松田行正さんが主催する出版社・牛若丸の作品で、「オブジェとしての本を追求する」と謳う通り、遊び心たっぷりのデザインです。もしかすると、第2巻はリンゴの形?

●『ひみつの植物』藤田雅矢(WAVE出版)
こちらは帯を切り抜いた稀少な例。曲線的なデザインが、本のテーマとよく合っています。特殊加工にはそれなりにお金もかかりますし、帯はどちらかというと文字でアピールする風潮がありますから、ここにひと手間かけるのはかなりの通ですね。

角丸加工

●『どすこい(仮)』京極夏彦(集英社)
続いては、本文&見返しの角を丸く切り抜いた「角丸」と呼ばれる加工。文字通り、角が取れたことでかわいさ、やわらかさが強調されます。本書は意欲的なデザインに次々と挑戦するブックデザイナー・祖父江慎さんが手がけたもので、「ぬめりを感じさせる光沢の見返し」「文字方向が逆の帯」と見どころ満載。

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    トムソン加工『B PLASTIC BEATLE―ビートルズの遊び方』(写真左上)/角丸加工『どすこい(仮)』(写真右上)/トムソン加工『ひみつの植物』(写真下)

背や側面にもこだわりたい!

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小口絵

●『HIROHIKO ARAKI WORKS(ジョジョ展記念本)』荒木飛呂彦
さすがジョジョ本。初めて見たときは時間が止まりました。右と左、本をどちらの方向に折り曲げるかによって小口の見え方が変わるという、トリッキーすぎる加工です。特別な印刷技術があるわけではなく、全ページのデザインを工夫してこのように見せているようですが…真相はナゾ。

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コデックス装

『未来ちゃん』川島小鳥(ナナロク社)
あるはずの背表紙をあえてつけない。そんな斬新すぎる加工(?)をコデックス装と呼びます。写真家・川島小鳥さんの出世作『未来ちゃん』は、コデックス装の背に文字を印刷した超変わり種の1冊。なんだか、子どもがなくさないようにスタンプを押したみたいにも見えますね。

仕掛けたい!

飛び出す

読み手を驚かせる仕掛けといえば、なんといっても飛び出す絵本でしょう。紙を切る、貼る、折る、穴を開ける。組み合わせ次第で無限の可能性が広がります。
※過去のレポート、書店調査「メッゲンドルファー」参照

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  • 『オセアノ号、海へ!』作:アヌック・ボワロベールとルイ・リゴー アノニマ・スタジオ刊(写真左)/『おばけやしき』作ジャン・ピエンコフスキー、大日本絵画刊(写真右)


●『ヴィヴァルディの四季:1日で楽しむ四季(音のでるしかけえほん)』ケイティ・コットン(大日本絵画)
見るからにおもちゃっぽいものも多い音の出る絵本のなかで、ひときわさりげない造りの1冊。テーブルに置いてページをめくるだけでは分からないほど自然ですが、手に取ってみると裏表紙が厚くなっていて、電池が内蔵されているのが分かります。電池の小型化など、他分野の技術が進歩することで、どんどん新しい本のカタチが生みだされていくんですね。

袋とじ

●『三〇周年大百科』(パレードブックス)
主に雑誌でおなじみの袋とじ。弊社の30周年記念本にも使われています。中身は若かりしころの取締役の写真という誰得コンテンツですが、人間隠されると中身が知りたくなるもので、話題づくりには抜群の効力を発揮しました。

●『幻想都市風景』光嶋裕介(羽鳥書店)
本文がすべて袋とじになった本。内側には何も印刷されておらず、ドローイングをより効果的に見せるためにこういう仕様になったそうです。「隠す」のではなく、「見せる」ための袋とじ。うーん、新しい!

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  • 袋とじ『三〇周年大百科』(写真左)/『幻想都市風景』(写真右)

レポート「世界のブックデザイン」を見ていただくとわかる通り、本の世界には他にないものを求めるつくり手がたくさんいて、そのアイデアが尽きることはありません。本づくり研究所の公式フェイスブックページでもいろいろな本をご紹介しているので、よかったらチェックしてみてくださいね。